「ははは!」
と、背後から軽快な笑い声が届く。
見ると、後ろを歩いていた犬神様が心底愉快そうに大口を開けて笑っていた。
「はぁ……やはり面白いものが見れたな。あの三毛猫には散々振り回されたが、これでチャラにしてやろう。では、さらばだ」
彼はそう満足げに言うと、一瞬にして煙のように消えてしまった。
その場に残された私たちは、お互いの顔を見合わせる。
猫神様は相変わらず穏やかな顔で、ふわりとこちらへ微笑みかけた。
「せっかくですから、もう少しこの辺りを散策していきますか?」
そんな彼の提案を受けて、私は返答に詰まった。
結婚式場が並ぶウエディングストリート。多くの恋人たちが行き交うその道を、猫神様と二人きりで歩くのはなんだか気恥ずかしい。
「もちろん、桜さんがお急ぎでしたら今すぐお家まで送りますよ」
「あっ……い、いえ! もう少し、ここを歩いてみたいです。猫神様さえよければ」
せっかくの彼からの申し出を断るのは忍びない。
そしてそれ以上に、彼ともう少しだけ一緒にいたいな——なんて思ってしまう。
「では、行きましょか」
彼と二人、肩を並べて再び歩き出す。
すれ違う女性たちは皆、チラチラと猫神様の顔を盗み見ていた。
やっぱり、こんなに綺麗な男の人がいたらつい目で追ってしまうのだろう。
淡い暖色の光に包まれる道を進んでいくと、先ほどの屋台がまた見えてきた。
「桜さん、何か食べますか? ホットチョコレートもありますよ」
お店の前に張り出されたメニュー表を眺めていると、ちょうど目の前に並んでいたカップルがホットチョコレートを頼んでいた。白い湯気の立つそこから、濃厚な甘い香りが漂ってくる。
そろそろ体も冷えてきたことだし、熱々のチョコレートで温まるのも良いかもしれない。
「じゃあ、私はホットチョコレートで。猫神様は何にしますか?」
「そうですね。私は……」
思案する彼の視線の先を辿ると、そこにはワインの名前がいくつか書かれていた。
猫神様も、アルコールを嗜むのだろうか。
今まで彼がお酒を飲んでいるところを見たことはないけれど、大人なのだから普段から飲んでいてもおかしくはない。
「……いえ。まだお腹が空いてないんで、私は遠慮しておきます」
結局、屋台で購入したのは私のホットチョコレートだけだった。
もしかしたら私に気を遣ってアルコールは避けたのかもしれない。
帰りはまた猫神様の背中に乗せてもらうことになるだろうし、お酒に酔ったまま空を飛ぶのは危険だと判断したのかも。
カップに入ったホットチョコレートは、表面にマシュマロが浮かんでいた。
何度か息を吹きかけて口に含んでみると、とろけるような甘さが鼻から抜けていった。



