二人はお互いの顔を見合わせると、どちらからともなく照れたように笑った。
「実はついさっき、彼とお付き合いを始めたところなんです。この数日間、彼はずっと私を支えてくれて……。マーブルもきっと、彼のことなら好きになってくれると思うんです」
飼い主の女性はそう言って、幸せそうに頬を赤く染める。
どうやら今回のマーブルくんの騒動が、二人をくっつける結果に繋がったらしい。
いわばマーブルくんは恋のキューピッドなのだ。
「にゃ、にゃふ……」
犬神様の通訳で全てを察したマーブルくんは、未だ現状を受け入れられない様子で固まっていた。
このまま帰すのは酷かな——とは思ったものの、だからといって他にどうしようもないので、私は腕に抱き上げていたマーブルくんを飼い主の女性にそっと託した。
「おかえり、マーブル。これから三人で一緒に暮らそな」
半ば放心状態のマーブルくんを、女性は大事な宝物のように抱き締める。
その隣から、男性は一切の悪気なく「よろちくね~、マーブルくん~」とやけに高い声で挨拶した。
幸せいっぱいのカップルの間で悶々とするマーブルくん。
新しい生活に慣れるまで時間はかかるかもしれないけれど、私たちはエールを送ることしかできない。
「じゃあね、マーブルくん。飼い主さんたちと仲良くね」
別れ際、女性は何かお礼がしたいと言ってくれたけれど、私たちはやんわりと断ってそそくさと退散した。
最後に視界の端に見えたマーブルくんは、全身の毛を逆立てて男性に猫パンチをお見舞いしていた。
◯
「マーブルくん、無事に飼い主さんの所に帰ることができて良かったですね」
淡いイルミネーションの光が灯る北山通を歩きながら、私は呟く。
「そうですね。ただ、マーブルさんにとってはしばらく波乱に満ちた生活になりそうですが」
隣を歩く猫神様は、そう言って少しだけ気の毒そうに夜空を見上げた。
私も同じように顔を上げて、マーブルくんのことを思う。
「マーブルくんは、あの男性に飼い主さんのことを取られちゃうって思ってるんでしょうか」
「猫は寂しがり屋で、嫉妬深いですからね。自分の大事なものを奪われると思うと、心穏やかではいられません」
「そうなんですね……。じゃあ猫神様も、そういうヤキモチを妬いたことってあったんですか?」
「当たり前やないですか」
ちょっとだけ食い気味に、彼は答えた。
いつになく語気も強めだったので、私は驚いて彼の顔を見上げる。
お互いの目が合うと、猫神様はハッとしたような顔をして、ふいと視線を逸らした。
「……ああ、いえ。猫にはよくあることです。何も珍しいことではありません」



