【書籍化】京都先斗町のあやかし案内人 猫神様と迷える幼子

 
「にゃうにゃうにゃう!!」

 マーブルくんは必死に何かを訴えるようにして吠える。

 背後に控えていた犬神様の翻訳によると、『吾輩がそのマーブルだ!』『隣の男は誰だ!?』『この浮気者めが!!』等々、修羅場のようなセリフを吐いているらしい。

 シャーッと威嚇し続けるマーブルくんを押さえながら、私は飼い主の女性にここまでの経緯を話した。

 天狗に攫われて幽世に行った——というくだりはさすがに話せないので、四条大橋で迷子になっていたところを保護したと説明する。

「そうでしたか……。ということは、迷い猫の張り紙を見てここまで連れてきてくれたんですね?」

 張り紙の存在は知らなかったけれど、そういうことにしておく。
 私が頷くと、飼い主の女性は今度はマーブルくんの顔をじっと見て、ゆっくりと(まばた)きをしてみせた。

「マーブル。あんたマーブルやろ? ずっと探しててんで」

 そう語りかける彼女に対し、マーブルくんもまたゆっくりと瞬きを返してみせる。

 この動作は猫にとっての愛情表現だと聞いたことがある。
 お互いに見つめ合いながらゆっくり瞬きをすることで、「大好きだよ」「一緒にいたいよ」という気持ちを伝え合うのだ。
 
 女性はこの子をマーブルくんだと確信したのか、私と猫神様に対して「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。

「ずっと……ずっと探してたんです。マーブルのこと。どこにも見当たらなくて、もう帰って来ないんじゃないかって、どこかで何かあったんじゃないかって不安で……」

 再び顔を上げた彼女の目には、うっすらと涙の膜が張っている。
 その様子からすると、どうやら彼女はマーブルくんのことを本気で心配していたらしい。

「マーブルがいなくなってから私、ずっと泣いてて……それを見兼ねた彼が、心配して一緒に探してくれてたんです」

 と、彼女は隣の男性を見上げた。

 男性はちょっとだけ照れ臭そうに微笑む。
 あまり口数は多くなさそうな印象だけれど、優しげな笑顔が素敵な人だ。

 こうして私たちが会話をしている間も、犬神様はマーブルくんに対して通訳を続けていた。
 一部始終を傍観していたマーブルくんはようやく大人しくなって、まん丸な目で恐る恐る男性を見上げる。

「にゃうにゃう、にゃう……」

「『つまりこの男は、吾輩を探すためにこの女と一緒にいたのか? ……しかし、その割には馴れ馴れしい距離感だったように見えたが』」

 猫パンチこそ収まったものの、男性に対する不信感はまだ拭えないらしい。
 そんなマーブルくんに代わって、私は思い切って尋ねてみる。

「あの。失礼ですが、お二人のご関係は……?」