二人のやり取りが微笑ましくて、思わず笑みが溢れる。
すると、マーブルくんは急に両耳をピンと立てて顔を上げた。何かを見つけたように、目をくわっと見開く。
「ん? どうかしたの?」
マーブルくんは静かに口を閉じたまま、じっと前方を見つめていた。
その視線を追って私も顔を上げると、道の先には一組のカップルの姿があった。
お互いの手を繋いでこちらの方向へ歩いてくる、二十代後半くらいに見える男女。
どちらも奥手そうな雰囲気があるものの、穏やかな調子で仲良く談笑している。
「にゃ……にゃ、にゃ………」
「え、何? マーブルくん」
マーブルくんは信じられないというような顔でカップルを凝視している。
「あの女が飼い主だな」
と、背後から犬神様の声が届いた。
彼は難しい顔のまま、前方のカップルに視線を送っている。
「え……もしかして、あのカップルの女の人がマーブルくんの飼い主さん、ですか?」
マーブルくんの話だと、飼い主である女性は独り身で、お付き合いしている男性はいないとのことだった。
けれど、目の前にいる二人はどう見てもカップルだ。
隣にいる男性が彼氏ではなく友人や兄弟だとしたら、さすがにあんな風に手を繋いだりはしないと思う。
「にゃ……にゃにゃにゃ、ふにゃあ……」
「『そんな……。あの冴えない女に男ができるなんて、そんなはずは……』」
マーブルくんの嘆きを、すかさず猫神様が翻訳してくれる。
その隣で、犬神様はやれやれという風に溜め息を吐いた。
「ほらな。最悪こうなる可能性もあるから覚悟しておけと、俺は言ったんだ」
飼い猫のマーブルくんが居なくなって、まるでその寂しさを埋めるように現れた恋人。
まさか犬神様の言っていたことが現実になってしまうなんて。
目の前のことが受け入れられずに固まっているマーブルくんには気づかず、カップルはどんどんこちらへ近づいてくる。
やがてすれ違おうとした時、マーブルくんは私の腕から体を乗り出して、男性の方に爪を伸ばした。
「にゃにゃ! にゃにゃにゃにゃにゃ!!」
「わっ。駄目だよマーブルくん!」
高速で繰り出される猫パンチ。
それが男性の顔に当たる前に、私は慌ててマーブルくんを押さえ込んだ。
「えっ……『マーブル』?」
その名前に反応したのは、飼い主の女性だった。
彼女は私の腕の中にいるマーブルくんを覗き込み、目を真ん丸にしている。
「……うぅー……にゃうぅ……」
マーブルくんは恨みがましいような、今にも泣きそうな顔で女性を見つめ返す。
女性は今度は私と目を合わせると、「あのっ」と、ちょっとだけ上擦った声で言った。
「この子って、あなたの猫ちゃんですか? うちの子にすごくそっくりなんですが……」



