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北山通から一本入った細い道の陰に、猫神様は降り立った。
ふわふわの背中から私たちが降りると、猫神様はまたポンっと白煙を上げて、元の姿——ではなく、人間の青年の姿に変身する。
烏の濡れ羽色の短い髪に、やや切れ長のブラウンの瞳。深い藍色の着物の上からは、黒の羽織を纏っている。
「こういった場所は、桜さんお一人では歩きにくいでしょうから。私も人間の姿でお供します」
この姿の時は、私以外の人間も猫神様が見えるようになる。
さすがにカップルだらけの中を私一人で歩くのは気まずかったので、こうして彼が人間の姿で隣に寄り添ってくれるのはありがたかった。
とはいえ、こんなに綺麗な男の人と一緒だと逆に注目されてさらに気まずいのだけれど。
「さて。それではメインストリートの方まで行きましょか」
地下鉄・松ヶ崎駅周辺に広がる、北山ウエディングストリート。東西に伸びるその通りに沿って、いくつかのチャペルがイルミネーションを行っていた。
淡い電飾が浮かび上がる夜道を、仲睦まじいカップルたちが行き交っている。
「にゃにゃ! にゃにゃにゃ!」
屋根の頂に十字架が立つ教会が見えたところで、腕の中のマーブルくんが暴れた。
「わわっ。どうしたの、マーブルくん」
「『あの教会に見覚えがあるぞ!』と言うてますね」
隣から猫神様が翻訳してくれる。
マーブルくんがこの教会を知っているということは、やはり目的の家はこの辺りにあるらしい。
この調子なら、飼い主さんのこともきっとすぐに見つかるだろう。
通りの途中には、少数の屋台も出ていた。赤と緑のクリスマスカラーの看板に、チュロスやホットチョコレートなどのメニューが書かれている。
「ねえねえ、今年のクリスマスプレゼントはもう考えてくれた?」
屋台に並んでいたカップルが、そんな会話をしていた。
クリスマスプレゼントといえば、私もまだ考えている真っ最中だ。
(猫神様へのプレゼント、どうしようかなぁ……)
すっかり頭から抜けていたそれを思い出して、改めて悩む。
猫神様が喜んでくれそうなもの、幸せを感じられるもの……と思考を巡らせていると、腕の中のマーブルくんと目が合った。
「ねえ。マーブルくんは、どんな時に幸せを感じる?」
思わず尋ねていた。
マーブルくんは猫だ。
そして猫神様も、あやかしになる前は普通の猫だった。
なら、マーブルくんに話を聞けば、何かヒントを得られるかもしれない。
唐突な質問だったけれど、猫神様はすぐに間に入って通訳してくれる。
「『吾輩の幸せか? そんなことは決まっている。あったかい寝床に美味い飯。あとは暇つぶしになる下僕の存在。それだけ揃っていれば十分だ』」
つまりは衣食住……と、飼い主さんの存在かな。
すごく上から目線ではあるものの、飼い主さんとの暮らしを気に入っているのが伝わってくる。
「そっか。やっぱりマーブルくんも、飼い主さんと一緒にいたいんだね」
「猫は寂しがり屋が多いですからね」
と、猫神様がそう付け加えた時、マーブルくんは急に毛を逆立てて「フーッ!」と威嚇した。
どうやら「吾輩は寂しがり屋じゃない!」と反論したらしい。



