【書籍化】京都先斗町のあやかし案内人 猫神様と迷える幼子

 
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 おおよその家の場所はわかったので、私たちは早速そこへ向かうことになった。

 建物の外に出てみると、すでに太陽は西の空に落ちていた。代わりに町家のあちこちには赤い提灯が灯っている。
 夜の客で賑わい始めた先斗町を抜け、私たちはひと気のない所までやってきた。

「さて。ではこの辺で」

 周りに人がいないのを確認してから、猫神様はボンッと白煙を上げて変身した。
 煙の中から現れたのは、全長五メートルはゆうに超えるネコ科のもふもふ。全身を包む白い毛並みと、そこに隈取(くまど)りのような赤い模様が浮かんでいる。

 私の腕に抱かれていたマーブルくんは、突如として目の前に現れたその姿に驚愕して騒ぎ始めた。

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!」

「……人聞きの悪いことを言わんといてください。私は化け物ではありません。猫又のあやかしです」

 猛獣のような猫神様の眉間に、わずかにシワが寄る。しかし不服そうにしながらも、彼は《《伏せ》》の体勢になって自らの背中を差し出した。

「さあ、皆さん背中に乗ってください。北山通(きたやまどおり)までひとっ飛びです」

 私たちの目指す北山ウエディングストリートは、北山通と呼ばれる通りの途中にある。
 私は未だ腕の中で暴れているマーブルくんを押さえつけたまま、勢いをつけて猫神様の背中へと飛び乗った。


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 私とマーブルくんと犬神様を乗せて、猫神様は京都の上空を浮遊していた。

 遥か下に見える地上では、夜闇の中、京都の街並みが碁盤の目の形に浮かび上がっている。
 特に今のクリスマスシーズンは建物などの電飾が増えるため、いつも以上にキラキラと輝いて見えた。

「きれい……。マーブルくんも見える?」

 彼の丸いお腹を抱えたまま私が尋ねると、彼は無反応だった。
 代わりに、私の後ろで胡座(あぐら)をかいていた犬神様が答える。

「猫はあまり目が良くないからな。人間と同じようには見えていないのだろう。夜景なんぞ見せるより、目の前で猫じゃらしでも振ってやった方がよほど喜ぶ」

 どうやらマーブルくんにはこの景色が見えていないらしい。
 せっかく綺麗なのに勿体無いな、と思ったけれど、本人(本猫?)からすればきっとどうでもいいことなのだろう。彼は私の腕の中で退屈そうに欠伸(あくび)をした。

 そこへ、「見えてきましたよ」と猫神様の声が届く。
 反射的に顔を上げると、前方には山があった。その手前に、目的の北山通が東西に伸びている。

「一気に下へ降りますんで、しっかり掴まっといてくださいね」

 その声を合図に、私たちを乗せたもふもふの背中は急激に高度を落とし始める。

 全身が上に引っ張られるような浮遊感。その感覚に不安を覚えたのか、マーブルくんが「くぅん……」と心細げな声を漏らす。
 私は彼の頭を撫でながら「大丈夫だよ」と囁いた。