side.秀


 もう大人が居なくなった。
 あとは子供の戦いだ。
 俺たちはキボウの合図を待つ。
 しかし、いつまでたってもゲームが開始されない。
『なんか気が変ったわ』
 機械音じゃない、男性の声でキボウが話す。
『今、生き残ってる、秀、優月、空翔、陸仁、姫花はゲームしなくていいよ。生き残れる』
「なんで、」
 怒りがこもった空翔が問う。母さんを殺されたダメージが大きいのだろう。
『今、生き残っている人たちは、親、大人、で生きづらさを感じていた人だ。俺はそんな生きづらさをこれを機に減らしたいと思っていたんだ。だから、みんなスマホ型投票機は置いて、近くのコンビニまで行け。みんなで買い出しに行ったことにしとけ。だから、しばらくしたら戻って来いよ。そうそう、俺は家の前にいるから。秀が生きづらさを話したら、みんな出てきていいよ』
 ブチっ、と通信が切れて静まり返った空間に、陸仁が声を出す。
「そういえば、秀は言ってなかったよね。なんなの、生きづらさって」
 優しく問いかけてくれた。
 俺は必死に言葉を紡ぐ。
「知ってる人もいるかもしれないけど、俺、家族と血繋がってないんだ。智文さんと帆乃さんと恋乃と。5歳のとき、引き取られたんだよね、施設から。理由は智文さんが社長やってる会社の跡継ぎのため。恋乃を生んで、帆乃さんが子供を産めない体になったから。俺はギフテッドでIQ150あるんだ。だから利用された。
 それだけじゃなくて、頭良いから変って小学生のころ、いじめられてたんだよね。それが生きづらさ、かな
 これでいい?キボウ」
『あぁ、みんなコンビニ行ってこい』
 死ぬんじゃないかってビクビクしながらドアを開けると、自然の空気が気持ちよかった。
 そして、大学生の好青年が居た。
 このゲームが始まって、なんとなくこの人が仕掛けたんじゃないかって予想して、声で確信した人だ。
「兄さん、」
「お兄ちゃん!?」
 みんなが驚く。
 ゲームマスターであるキボウの正体は俺の実の兄、田代(タシロ)祐樹(ユウキ)だった。
 兄さんとは、施設を通してこっそり会っていたので、久々の再開ってわけじゃないし、たびたび悩みを打ち明けていた。
「みんな、早くコンビニ行って。こっちはうまいことやっとくから」
「兄さん、ありがとう」
 俺らは、走ってコンビニへ向かう。

 コンビニから帰るとコテージは燃えていて、兄が警察から質問されていた。
 兄からはメールで「このゲームのことは話すな」と言われていたので、警察から問われても誰も何も言わなかった。
 結局、兄が逮捕されてしまった。
 机の上に置いてあった、スノードロップの花。
 スノードロップの花言葉は「希望」と「あなたの死を望みます」だった。
 兄は俺ら子供に「希望」を与えるために、「あなたの死を望みます」と大人たちを殺したのだろう。

 希望に満ち溢れた僕ら。僕らは「希望」を持って自由に生きていく。