side.姫花
絵里子さんと優月は親子の絆を再確認するような言い合いだった。空翔、陸仁と笑美さんのときもだ。
親子、兄弟の絆なんてすぐに切れるものだと思っていた。血の繋がりがあるだけの赤の他人だと思っていた。
でもみんなは違うらしい。
もちろん、昔は、幼い頃は両親のことが大好きだったけど、今は嫌いだ。
ワタシに無関心なのに、女の子の理想を強要してくる。
ワタシ、は僕になりたい。男になりたい。
ワタシはトランスジェンダーだ。
『ソレデハ、8回戦ヲ開始シマス』
キボウの言葉でゲームが始まる。
「まず仮投票をしよう」
秀の呼びかけでみんながスマホ型投票機を取り出す。
そしてワタシは迷わず母である【横田由美子】を選択する。
すでに父である横田正一は死んだ。
社員にも理想を押し付け恨まれた。
兄の颯斗は最初に死んだ。
自分自身に酔って4股したからだ。
ワタシは家族が嫌いだ。
まだ死んでいない家族は母だけだった。
どうせ誰かが死ななければならない。
なら、母を殺して、私が後を追う可能性がある。
仮投票の結果がテレビ画面に表示された。
仮投票の結果
横田由美子…1
私の1票だけだった。
母は絶望的な顔をしている。
「なんで、」
「なんでか、教えてあげようか?」
ワタシは両親に怒られないように練習した可愛い声で呼びかける。
ワタシは、小さい頃、両親が大好きだった。特に理由はない。幼い子供は無条件に親が好きだろう。
ワタシが親を嫌いになったのは少しずつ。自分を否定され続けるうちに、嫌いになった。
4,5歳のとき、母の買ったワンピースやスカートではなく、兄からのおさがりを好んで着ていたら無理やりフリルやリボンなど可愛い服を着させられたことがキッカケだと思う。
兄がしていたサッカー教室に通いたいと言ったら、
「サッカーは女の子がする遊びじゃないの」
とも言われ、バレエをやらされた。
面白くなくて、3か月でやめた。
髪を勝手にメンズのショートカットにした時も、制服の選択でスラックスがいいと言った時も両親に怒鳴られ否定された。
兄は家事を手伝わなくてよかった。
「家事は女の仕事」
父にそう言われ、兄はしない家事を嫌々手伝った。
それで、大切にされているならよかった。可愛がられているならよかったのに。
両親に期待されているのは兄だった。兄はサッカー部のエースで全国大会出場の立役者となったのだ。
無関心なのに、自由がない。それが嫌だった。
ワタシは、女の子になんかなりたくない。
男子みたいに生きたい。そう願っていた。
「ワタシ、いや僕は男だ!」
トランスジェンダーを訴えかけるように僕は高らかに叫ぶ。
母は泣いていた。
「女の子を強制してごめんね。私、女の子と男の子、一人ずつほしくて、夢がかなって、颯斗が絵に描いたような男の子に育ったから、姫花も、絵に描いたような女の子に育つと思ってたの。でも、姫花はちょっとズレてて、だから私たちが直さなきゃって理想を押し付けてごめんね」
母は泣いていた。泣いているだけだった。
結局は僕も母も自分が大事だ。
笑美さんや絵里子さんみたいに「私に投票して」なんて言わない。
だから、もうどちらかが死ぬんだから、僕は不満を言う。
「姫花って名前も嫌い。僕は姫じゃない」
「ごめんね」
淡々と告げる僕。ただ良い母を演出するためだけに泣いて謝る母。
母に何を言ってもダメな気がした。
だから僕は口を紡ぐ。
『ソレデハ、投票ヲ行イマス』
僕は迷わず【横田由美子】を選択した。
『ソレデハ、投票ノ結果ヲ発表シマス』
テレビ画面が切り替わる。
本投票の結果
横田由美子…5
横田姫花……1
死亡者
横田由美子
絵里子さんと優月は親子の絆を再確認するような言い合いだった。空翔、陸仁と笑美さんのときもだ。
親子、兄弟の絆なんてすぐに切れるものだと思っていた。血の繋がりがあるだけの赤の他人だと思っていた。
でもみんなは違うらしい。
もちろん、昔は、幼い頃は両親のことが大好きだったけど、今は嫌いだ。
ワタシに無関心なのに、女の子の理想を強要してくる。
ワタシ、は僕になりたい。男になりたい。
ワタシはトランスジェンダーだ。
『ソレデハ、8回戦ヲ開始シマス』
キボウの言葉でゲームが始まる。
「まず仮投票をしよう」
秀の呼びかけでみんながスマホ型投票機を取り出す。
そしてワタシは迷わず母である【横田由美子】を選択する。
すでに父である横田正一は死んだ。
社員にも理想を押し付け恨まれた。
兄の颯斗は最初に死んだ。
自分自身に酔って4股したからだ。
ワタシは家族が嫌いだ。
まだ死んでいない家族は母だけだった。
どうせ誰かが死ななければならない。
なら、母を殺して、私が後を追う可能性がある。
仮投票の結果がテレビ画面に表示された。
仮投票の結果
横田由美子…1
私の1票だけだった。
母は絶望的な顔をしている。
「なんで、」
「なんでか、教えてあげようか?」
ワタシは両親に怒られないように練習した可愛い声で呼びかける。
ワタシは、小さい頃、両親が大好きだった。特に理由はない。幼い子供は無条件に親が好きだろう。
ワタシが親を嫌いになったのは少しずつ。自分を否定され続けるうちに、嫌いになった。
4,5歳のとき、母の買ったワンピースやスカートではなく、兄からのおさがりを好んで着ていたら無理やりフリルやリボンなど可愛い服を着させられたことがキッカケだと思う。
兄がしていたサッカー教室に通いたいと言ったら、
「サッカーは女の子がする遊びじゃないの」
とも言われ、バレエをやらされた。
面白くなくて、3か月でやめた。
髪を勝手にメンズのショートカットにした時も、制服の選択でスラックスがいいと言った時も両親に怒鳴られ否定された。
兄は家事を手伝わなくてよかった。
「家事は女の仕事」
父にそう言われ、兄はしない家事を嫌々手伝った。
それで、大切にされているならよかった。可愛がられているならよかったのに。
両親に期待されているのは兄だった。兄はサッカー部のエースで全国大会出場の立役者となったのだ。
無関心なのに、自由がない。それが嫌だった。
ワタシは、女の子になんかなりたくない。
男子みたいに生きたい。そう願っていた。
「ワタシ、いや僕は男だ!」
トランスジェンダーを訴えかけるように僕は高らかに叫ぶ。
母は泣いていた。
「女の子を強制してごめんね。私、女の子と男の子、一人ずつほしくて、夢がかなって、颯斗が絵に描いたような男の子に育ったから、姫花も、絵に描いたような女の子に育つと思ってたの。でも、姫花はちょっとズレてて、だから私たちが直さなきゃって理想を押し付けてごめんね」
母は泣いていた。泣いているだけだった。
結局は僕も母も自分が大事だ。
笑美さんや絵里子さんみたいに「私に投票して」なんて言わない。
だから、もうどちらかが死ぬんだから、僕は不満を言う。
「姫花って名前も嫌い。僕は姫じゃない」
「ごめんね」
淡々と告げる僕。ただ良い母を演出するためだけに泣いて謝る母。
母に何を言ってもダメな気がした。
だから僕は口を紡ぐ。
『ソレデハ、投票ヲ行イマス』
僕は迷わず【横田由美子】を選択した。
『ソレデハ、投票ノ結果ヲ発表シマス』
テレビ画面が切り替わる。
本投票の結果
横田由美子…5
横田姫花……1
死亡者
横田由美子

