side.空翔


 母である、竹内笑美がスマホ型投票機を手放そうとしたとき、俺は母さんのスマホ型投票機と一緒に手を握った。もちろん、画面は見ず。
「空翔...?」
 正一さんのスマホ型投票機が爆発してる横で、母さんは驚いたように俺の名前を呼んだ。
 父さんが亡くなった今、正一さんに不満を言っていたのもあって母さんが死のうとするのは感じていた。
 だから、母さんの近くに移動し、絶対にスマホを手放させない、と警戒していた。
『ソレデハ、6回戦ヲ開始シマス』
 いつもは仮投票だ、とか言っていたのに、今回は違う。口を開いたのは俺の双子の弟、陸仁だった。
「お腹空かない?なんか食お~」
 俺とは違う金髪を輝かせ、もう誰が買ってきたかわからなくなったコンビニのビニール袋を漁り、適当におにぎりを取り出した。
 雑におにぎりの包装をはがし「いただきます!」とわざとらしく大きな声で言って、ご飯を食べ始めた。
 俺たちは双子。陸仁が考えていることもよくわかる。
 きっと、母さんに辛い思いをしてほしくなくて、わざと明るく振舞っているのだ。
 でも、今はデスゲーム中。そういう明るい態度は俺にとって鼻につく。
 だから思わず言ってしまった。
「今はそんな場合じゃないだろ!」
 陸仁はきっと、空翔ならわかってくれる、と思ってやった行動だろう。
 だから、陸仁は驚いている。
「ごめん、でも...」
「でもじゃない。早く、仮投票やるぞ」
 みんなが投票機を取り出したのを見て、俺は安心した。
 ずいぶん自分勝手なことを言ってしまったと後悔していたからだ。
 俺もスマホ型投票機を取り出して、投票をする。
 俺はつい、勢い任せで【竹内陸仁】を押してしまった。
 テレビ画面が切り替わり、仮投票の結果が表示された。

仮投票の結果
  竹内空翔…1
  竹内陸仁…1
  坂井秀……1

 俺たちは双子。考えることは似ていたりもする。
 陸仁もつい、勢い任せに俺に投票してしまったのだろう。
 結局は誰かが死ななきゃいけない。陸仁が死んだあと、おれも後を追えばいい。
 そう思って、陸仁に思っていた不満をぶちまけた。
 死ぬ怖さを紛らわせるように叫んだ。
「陸仁のそういう態度、ムカつくんだよ!状況を考えないような行動。空気読んで行動してよ!」
 本当は陸仁が空気を読んで慎重に行動しているのを知っている。
「俺はただ、空気を読んで明るくしようとしただけだよ!」
「今は明るくする空気じゃないだろ。人が、家族が死んでるんだよ!」
「だからこそだよ!暗い空気だと、もっと暗い気持ちになるだろ?」
 もう似たようなやり取りになりそうだ。俺は新たな切り札を使う。
「今日だけじゃない。陸仁はいつも自由すぎるんだよ!」
 本当はそんなことない。陸仁はいつも自由なんかじゃなくて、ちゃんと人に気を使っている。
「空翔だって、いつも自分の意見言わないし、空気読みすぎなんだよ。見ててムカつく。それに、空翔は頭も良くて、母さんとか、色んな人に期待されてていいよな。進路だって、」
 俺らはちょうど中学3年生。進路に悩む時期だ。
「そんなこと言ったら、陸仁は自由でいいよな。勝手に金髪にしても許されるようなキャラで」
 さっきと真逆なことを言った自覚はある。でも、こんな無謀なやりとりでも、俺だけが生き残っているのは辛いから、そして陸仁同じ気持ちだと思うから。二人で死ねるように、ちょっとでもお互いの印象が悪くなるように…。
「もうやめて!」
 二人の言い合いに初めて口を出したのは母さんだった。
「母さん!?」
 俺と陸仁の声がハモる。
「ごめん、母さんのせいだよね。こんな喧嘩になったのは。母さんが双子で産んだから。母さんが...」
 言葉を続けようとするが、母さんは泣いて嗚咽して喋れなくなってしまった。
 しばらく、2人で母さんを慰め合って、テレビ画面のカウントダウンが3分になるころにやっと落ち着いた。
 母さんはもともと心が弱く、姉である美亜と父さんが死んでから、感情がうまくコントロールできなくなってしまったのだろう。
 そして母さんが俺ら二人以外に向けて言葉を放った。
「お願い、死にたいの!私に投票して!」
「母さん、そんなこと言わないで。俺らは母さんに生きててほしいよ」
「私に投票して!」
 母さんは訴えかけるように、俺ら以外のメンバーに言う。
『ソレデハ、本投票ヲ開始行ッテクダサイ』
 俺は、母さんになんて投票できなくて【竹内空翔】を選択した。
 俺たちは双子だ。
『ソレデハ、投票ノ結果ヲ発表シマス』

本投票の結果
  竹内空翔…1
  竹内陸仁…1
  竹内笑美…6
 死亡者
  竹内笑美