side.帆乃
私の実の娘である恋乃が死んだ。
もちろん、大事な娘。だけど、恋乃は人から褒められることが多かったから、良い母親を演じるための道具に近いものがあった。
世の中の母親は、娘のためなら自分の命を犠牲にできるらしい。
確かに、恋乃が生まれてすぐはそう思っていたけど、今はそれが考えられない。
恋乃が生まれてから私は不幸なことばかりだ。
夫である智文は子供が女の子だと分かった瞬間、期待の表情から呆れた表情に変わり、私を無能扱いするようになった。
智文は、小さな会社の社長である。会社の跡継ぎが欲しかったので男を期待したらしい。
他にも、恋乃は自分の思い通りにいかないとイライラする。しかも、そのイライラをぶつけるのは私。
ずっと我慢していたので、恋乃が死んで少し、良かったと思ってしまう自分がいた。
『ソレデハ、3回戦ヲ開始シマス』
その言葉が、私を恋乃との思い出から現実世界に引き戻した。
2回戦目までは、美亜が仕切っていたが、もう美亜は死んだ。
誰が、仕切るんだろうか。
「仮投票するか?」
声を上げたのは、智文だった。
私は、誠さんにボソッと耳打ちしてから、スマホ型投票機を取り出す。
みんなもスマホ型投票機を取り出していた。
智文の問いに対するyesの回答だ。
私はスマホ型投票機から投票を行う。
しばらくしてから、いつもと同じく結果が表示された。
仮投票の結果
竹内笑美…2
坂井智文…2
坂井秀……1
「はぁ?」
投票されるなんて思ってなかった智文は苛立ったような、絶望したような声を出した。
全員がそんな声を出した智文に注目する中、笑美さんが誠さんに向かって声を荒げた。
「まだ浮気してたの?」
「ごめん…」
ボソッと、周りの人にしか聞こえないような声で誠さんが謝った。
笑美さんと誠さんは夫婦だ。
「私がいると都合が悪いから殺そうとしたんだ」
決めつけるように言い切ったあと、笑美さんが私の方へ向かってきた。
「帆乃さん、謝って」
「なんで、」
「誠と浮気してるの帆乃さんでしょ」
心外だ。なんで、決めつけられないといけないんだ。
「証拠は?証拠がないでしょ」
「証拠ならあるわよ」
「はぁ?」
笑美さんは、怒った表情でいくつかの写真を見せてきた。
「ただ一緒にいるだけじゃない、浮気の証拠じゃないわ」
「これは?」
まだ見ていなかったいくつかの写真のうち一枚をみせてきた。
私と誠さんが手を繋いで歩いている写真だ。
「笑美さん、聞いて。誠さんが悪いの。最初に声をかけてきたのは誠さんなの」
浮気、までバレてしまったなら仕方がない。
最初に声をかけてきたのは本当に誠さんだった。
「何言ってるんだ!君から一方的に好意を示してきたんだろ。僕が別れを切り出しても、僕を手放さなかったじゃないか」
誠さんが声を荒げるのは珍しかった。
「でも、最初に声をかけてきたのは誠さんでしょ?連絡先だって誠さんが求めてきたじゃない」
「好意があって話しかけたわけじゃない。君が辛そうだったから心配で声をかけただけだ」
「連絡だってしてくれたでしょう」
「君が心配だったから、」
「その言葉に好意は含まれていないの?」
「好意を含んでいるわけがないだろう。僕には大切な妻も子もいるんだ」
「でも、結局、浮気したじゃない」
「確かに、妻には申し訳ないと思っている。でも、手を繋ぐことも、ハグもキスも、全部僕の意思じゃない。君が無理やりやってきたことだろ。僕は拒絶した」
「そんなわけ…」
「本当だよ、君は勝手に僕の善意を好意と勘違いして迫ってきた」
「嘘でしょ……」
私が一番苦しかった時に「大丈夫ですか?」ってかけてくれた声も、「帆乃さん」と呼んでくれた時の笑顔も、誠さんの体の温もりも、今までもらった優しさも、全部ウソだったの…?
誠さんの気持ちを知って、心の中にあるカラフルな誠さんからもらったものボックスがひっくり返って、空っぽになり、そしてモノクロの世界となった。
『ソレデハ、本投票ヲ行イマス』
みんながスマホ型投票機を取り出して、投票に移るとき、私は絶望で動けなかった。
私は早く投票しろ、と言わんばかりのスマホ型投票機の振動で、気を取り戻し【竹内誠】を選択した。
『ソレデハ、投票ノ結果ヲ発表シマス』
本投票の結果
坂井帆乃…11
竹内誠……1
死亡者
坂井帆乃
私の実の娘である恋乃が死んだ。
もちろん、大事な娘。だけど、恋乃は人から褒められることが多かったから、良い母親を演じるための道具に近いものがあった。
世の中の母親は、娘のためなら自分の命を犠牲にできるらしい。
確かに、恋乃が生まれてすぐはそう思っていたけど、今はそれが考えられない。
恋乃が生まれてから私は不幸なことばかりだ。
夫である智文は子供が女の子だと分かった瞬間、期待の表情から呆れた表情に変わり、私を無能扱いするようになった。
智文は、小さな会社の社長である。会社の跡継ぎが欲しかったので男を期待したらしい。
他にも、恋乃は自分の思い通りにいかないとイライラする。しかも、そのイライラをぶつけるのは私。
ずっと我慢していたので、恋乃が死んで少し、良かったと思ってしまう自分がいた。
『ソレデハ、3回戦ヲ開始シマス』
その言葉が、私を恋乃との思い出から現実世界に引き戻した。
2回戦目までは、美亜が仕切っていたが、もう美亜は死んだ。
誰が、仕切るんだろうか。
「仮投票するか?」
声を上げたのは、智文だった。
私は、誠さんにボソッと耳打ちしてから、スマホ型投票機を取り出す。
みんなもスマホ型投票機を取り出していた。
智文の問いに対するyesの回答だ。
私はスマホ型投票機から投票を行う。
しばらくしてから、いつもと同じく結果が表示された。
仮投票の結果
竹内笑美…2
坂井智文…2
坂井秀……1
「はぁ?」
投票されるなんて思ってなかった智文は苛立ったような、絶望したような声を出した。
全員がそんな声を出した智文に注目する中、笑美さんが誠さんに向かって声を荒げた。
「まだ浮気してたの?」
「ごめん…」
ボソッと、周りの人にしか聞こえないような声で誠さんが謝った。
笑美さんと誠さんは夫婦だ。
「私がいると都合が悪いから殺そうとしたんだ」
決めつけるように言い切ったあと、笑美さんが私の方へ向かってきた。
「帆乃さん、謝って」
「なんで、」
「誠と浮気してるの帆乃さんでしょ」
心外だ。なんで、決めつけられないといけないんだ。
「証拠は?証拠がないでしょ」
「証拠ならあるわよ」
「はぁ?」
笑美さんは、怒った表情でいくつかの写真を見せてきた。
「ただ一緒にいるだけじゃない、浮気の証拠じゃないわ」
「これは?」
まだ見ていなかったいくつかの写真のうち一枚をみせてきた。
私と誠さんが手を繋いで歩いている写真だ。
「笑美さん、聞いて。誠さんが悪いの。最初に声をかけてきたのは誠さんなの」
浮気、までバレてしまったなら仕方がない。
最初に声をかけてきたのは本当に誠さんだった。
「何言ってるんだ!君から一方的に好意を示してきたんだろ。僕が別れを切り出しても、僕を手放さなかったじゃないか」
誠さんが声を荒げるのは珍しかった。
「でも、最初に声をかけてきたのは誠さんでしょ?連絡先だって誠さんが求めてきたじゃない」
「好意があって話しかけたわけじゃない。君が辛そうだったから心配で声をかけただけだ」
「連絡だってしてくれたでしょう」
「君が心配だったから、」
「その言葉に好意は含まれていないの?」
「好意を含んでいるわけがないだろう。僕には大切な妻も子もいるんだ」
「でも、結局、浮気したじゃない」
「確かに、妻には申し訳ないと思っている。でも、手を繋ぐことも、ハグもキスも、全部僕の意思じゃない。君が無理やりやってきたことだろ。僕は拒絶した」
「そんなわけ…」
「本当だよ、君は勝手に僕の善意を好意と勘違いして迫ってきた」
「嘘でしょ……」
私が一番苦しかった時に「大丈夫ですか?」ってかけてくれた声も、「帆乃さん」と呼んでくれた時の笑顔も、誠さんの体の温もりも、今までもらった優しさも、全部ウソだったの…?
誠さんの気持ちを知って、心の中にあるカラフルな誠さんからもらったものボックスがひっくり返って、空っぽになり、そしてモノクロの世界となった。
『ソレデハ、本投票ヲ行イマス』
みんながスマホ型投票機を取り出して、投票に移るとき、私は絶望で動けなかった。
私は早く投票しろ、と言わんばかりのスマホ型投票機の振動で、気を取り戻し【竹内誠】を選択した。
『ソレデハ、投票ノ結果ヲ発表シマス』
本投票の結果
坂井帆乃…11
竹内誠……1
死亡者
坂井帆乃

