side.美亜
 

ルール通り、肌身離さず持っていたスマホ型投票機が爆発する形で最低な男、颯斗くんは死んだ。
 いくら私たちで死人を選んだからと言って、人が死ぬ瞬間は慣れない。
 少なくとも、颯斗くんは私の好きだった人で浮気されてたとはいえ、元彼なのだから。
全員が黙ったとき、
『ソレデハ、2回戦目ヲ開始シマス』
 テレビ画面上に映る、雪だるま姿のキボウは機械音でそう言って、テレビの画面を1時間のカウントダウンに切り替えた。
「まぁ、話進まないし、仮投票しよ」
 私はさっさと恋乃を殺すために言った。全員がスマホ型投票機を手に持ち、仮投票を始める。
 私はさっきと同じく【坂井恋乃】の文字を迷わず選択した。
 しばらくして、仮投票の結果が表示される。

仮投票の結果
  坂井恋乃…1
  坂井秀……1

結果を見た恋乃が焦った表情で、私に詰め寄る。
「ねぇ、さっきの件で今までのことはパーじゃないの?仲間だったじゃん」
 恋乃が私に投票してないのは意外だったが、そんな理由だったのか。
 だって、
「私、いつ仲間って言った?」
「はぁ?だって一緒に颯斗くん潰したし、」
「それ、どっちかというと一時休戦だよ。
 二人の敵もいなくなったし、休戦は終了。二人の戦いだよ」
「だって、もう見下さないじゃん、颯斗くんいないし、」
 焦った顔で恋乃は言う。
「え、恋乃って颯斗くんの件だけで見下してるつもりだったの?」
 恋乃は、すべての行動が自己中心的すぎて、自分が見下していることにも気づいてないのだ。
 だから、バカな一軍は嫌いだ。
「私がいつ見下したって言うのよ!」
「ちっちゃい時からずっとだよ」
「はぁ?」
 ありえない、という顔で恋乃は私を見るが、そんな考えをしている方がありえない、と私は睨む。
「小さいときから、ずっとあんたばっかり優遇されて、あんたばっかり特別扱いされて、それで自分の方が立場が上なんだって思い込んでるんだよ。ガチャした時だって、私も好きなキャラだったのにあんたの別に好きじゃないキャラと交換されたし」
「それは、ちっちゃい時の話でしょ?今はさすがに大人だから、」
「いや、なんにも変わってないよ。中学校のときだって、ちょっとクラスから評価されたくらいで自慢してきて、それで、私を見下したじゃん」
 今でも忘れない。
 中学のとき、私と美亜は同じ学校の同じクラスだった。クラスで〇〇王を決めるとき、私はなにも選ばれなかったけど、恋乃は、クラスのムードメーカー王に選ばれた。
 恋乃が先生の手作りである簡易的な表彰状を黒板の前までもらいに行き、返ってくるとき、わざわざ通らなくても良いような私の席の近くを通り、見下したような目で見てきた。そして、私の隣までくると耳元で「あんたは根暗だもんね」と嘲笑い、軽い足取りで自分の席まで戻った。
 私は今でもそれが忘れられない。
 他の出来事、小さい頃からの不満が蓄積し、私は「こいつをいつか殺したい」と思うほどまでになっていた。
「そんなこといったら、」
 恋乃の反論が始まる。
「そんなこといったら、美亜だって見下してきたじゃん」
「私がいつ見下したっていうの?」
 私はこんなバカと同じ行動をするはずがない。
「小さい頃から、文字を覚えるのも書くのも美亜の方が早かった。毎回毎回、美亜は褒められているうちに良い子ぶって褒められて、ウチを見下してきたじゃん」
「そんなの…」
 小さい時の話し、なんて私も恋乃と同じになってしまう。
「中学になってからも、あんたはずっと成績トップでウチは最下位に近い成績。高校だって、あんたは県内トップ校でウチは地元の底辺高校。あんたは前期で受かって、中期に向けて勉強してるウチを見下してきたじゃん」
「それは、私の努力、」
「違う、才能だ。美亜には勉強の才能があった。小さい頃、文字書けるようになるの早かった」
「違う。文字を書けるようになるのは早かったかもしれないけど、そこからは努力して、人の何倍も勉強してたんだよ」
 私は、中学校1年生のころから勉強に励んでいた。皆が部活をしたり、遊んでる時間、私は勉強をした。
 それなのに、それを才能の一言で片づけるなんて…。
「それなのに、恋乃は人から好かれる才能があるじゃん」
「こっちだって必死に努力してんの。好きなことにお小遣いを使えず、友達付き合いで常に金欠だし、スキンケアとかヘアケアとか、メイクとかファッションとか流行りとか、必死に勉強して自分で取り入れて、人に好かれるように努力してんの。
 空気読んで、人一倍明るく振舞って、あんたが才能で勉強してるとき、ウチは必死に努力してるんだから!」
 双方、怒鳴って、泣いてわめいて、言い合いになって、それを止めたのは、
『ソレデハ、投票ヲ行ッテ下サイ』
 もう、死ぬ覚悟はできている。
 スマホ型投票機を取り出し【坂井恋乃】を選択する。
 これから死ぬのは、恋乃か私。
 どちらになるのかは、誰もわからない。
『ソレデハ、投票ノ結果ヲ発表シマス』
 画面が切り替わり、結果が発表される

本投票の結果
  坂井恋乃…10
  竹内美亜…10
 死亡者
  坂井恋乃・竹内美亜