自家用車の後部座席。長くてキラキラ輝く爪、最近プリンになってきた茶髪、母より繊細で大胆なメイクをしている姉、恋乃(コノ)の隣に俺、(シュウ)は座り、走っても走っても緑が続く風景を眺めていた。
 今日は旅行である。
 メンバーは、俺たち、坂井(サカイ)家一同、父の弟家族、坂井家一同、父の姉家族、竹内(タケウチ)家一同、父の妹家族、横田(ヨコタ)家一同である。
 計16名で、一つの大きなコテージを借り、バーベキューをすることになっている。
 全員が到着し、ポツンと一つあるコテージへ入った。
 コテージの中央にはスノードロップの花があった。
 全員がコテージの中へ入った時だった。
 リビングのような場所にある、テレビの電源が勝手に付き、アニメのような緑のバケツとマフラーをした雪だるまが映った。
『皆サン、コンニチハ。ゲームマスタ―の "キボウ” デス。皆サンにはコレから、デスゲームを行ッテモライマス』
 テレビに映った雪だるまが機械音で喋った。
「は?デスゲーム?なにそれ、キョーミないんですけど」
 バカバカしい、面倒くさい、そんな感情が混じった声色で恋乃が言う。
 しかし、キボウは恋乃の言葉を無視し、話を続ける。
『ソレデハ、最初ニテレビ台ノ上ニある、自分ノ名前ノ書イテアル、スマホ型投票機ヲ一人一台、保持シテクダサイ』
「なんでそんな事しないといけないの?」
 イライラした様子で竹内美亜(ミア)が問う。
 しかし、キボウはその問いに答えることはなかった。
 代わりに、脅しのような言葉を続ける。
『従ワナケレバ、ソノ人ハ即死デス。早ク行動シテクダサイ』
 俺がそのスマホ型投票機を手に取ると、全員、渋々といった感じで続けて手に取る。
「あ、忘れ物」
 父の弟、坂井清明(キヨアキ)が言い、ドアの方向へ向かうと、慌ててキボウは言う。
『チョット待ッテ下サイ。コノ、コテージから出ルト死ニマスヨ』
「はぁ?何を言ってるんだ。ただの遊びだろ?」
 清明さんは、キボウの言葉を小学生の嘘みたいな扱いで適当に流し、扉を開けて外に出た。

ボンッ!!

 なにかが爆発したような大きな音が響いた。
 音のした方向を向くと、もう誰だかわからないくらいに真っ黒に焦げた清明さんがいた。
 みんな、驚きと恐怖で声が出ず、沈黙が続く空間を打ち破ったのはキボウだった。
『アーア、死ンジャッタ。皆、コレで分カッタカナ?本当ニ死ヌンダヨ』
 キボウが言い終わった後も誰も口を開かない。
『ソレデハ、このゲーム ノ ルール説明ヲシマス』
 キボウが言うと、テレビが雪だるま姿のキボウが映った画面から、漆黒の背景に真っ白な字が書いてある画面に切り替わった。


1.このゲームの参加者は、坂井秀、坂井恋乃、坂井智文(トモフミ)、坂井帆乃(ホノ)、坂井優月(ユヅキ)、坂井清明、坂井絵里子(エリコ)、竹内空翔(クウト)、竹内陸仁(リクト)、竹内美亜、竹内(マコト)、竹内笑美(エミ)、横田姫花(ヒメカ)、横田颯斗(ハヤト)、横田正一(ショウイチ)、横田由美子(ユミコ)の計16名です。

2.全ての参加者は、自己のスマホ型投票機を常に持ち続けること。絶対に手放してはならない

3.自己のスマホ型投票機の画面を他者に見せる、他者のを見ることは禁止する

4.2,3のルールを破った場合、即座に命を失う

5.全ての参加者は1時間ごとにスマホ型投票機から「死んでほしい人」に投票を行う。この投票を本投票という

6.「死んでほしい人」がいない場合は無投票にする

7.参加者は、一回の本投票につき、一人の対象者に対して一票投じる権利を有する

8.本投票までの1時間の間に1回だけ仮投票を行うことができる

9.本投票で最も多くの票をえた者がその場で命を失う

10.本投票で最も多くの票を集めた者が2人以上いる場合は、その全ての者が命を失うものとする

11.参加者の中で生存者が1名になるまで、このゲームは継続される

12.全ての本投票で参加者全員が無投票であった場合、ゲーム開始から、15時間後に全員が生き残ってこのゲームを終えることができる

13.一人でも命を失った場合、12のルールは適応されない


 命がかかったゲーム。全員が真剣にテレビの画面を見つめる。
『ソレデハ、ゲーム ヲ開始シマス。最初ノ本投票ハ今カラ1時間後ノ正午デス』
 テレビは先ほどまでのルールの画面から1時間のカウントダウンの画面に切り替わる。
 いまだ沈黙が続く空間で最初に口を開いたのは竹内家の双子の兄、空翔だった。
「みんなで、無投票にしましょう。そうすれば、みんな生き残れる」
 全員がうなずこうとしているこの発言。
 冷静でいれば見落とさないようなルールの穴に気づいているのは数人だろう。
 俺は即座にそれを伝えた。
「最後のルールを見てみろ。もうすでに、1人が、清明さんが死んだだろ。だから、もう全員が生き残ることは不可能なんだよ」
「本当だ」
 空翔は納得して、次の言葉を探していた。
「このままだと、何も進まないし、まずは仮投票しない?」
 美亜がいうと、全員が納得した様子で、スマホ型投票機を取り出した。
 投票機の画面を見ると【仮投票を始める】という文字とボタンのマークがあった。
 ボタンを押すと、参加者の名前と無投票の字があった。
 そして【坂井清明】の文字が薄暗くなっていた。
 きっと死んだからだろう。
 俺はゲームの様子を窺うために【無投票】を選択した。
 全員が投票を終えたからだろうか。テレビの画面が切り替わり、結果が表示された。
 
仮投票の結果
  坂井恋乃…1
  竹内美亜…1

「あんたでしょ?ウチに投票したの」
 恋乃は美亜に問う。
「当たり前。あんただって同じでしょ」
 二人の言い合いが始まる。
「クラスで一軍なんか知らないけど、私のこと見下して調子乗ってんなよ!」
 美亜は声を張り上げて叫んだ。
「ちょっと頭良いくらいで浮かれてんなよ、お前みたいなブスにこっちはかまってる暇ないの~!」
 余裕の表情で恋乃は告げる。
「だって、颯斗くんと付き合ってんのはウチなんだから」
 誇らしげに言う恋乃の言葉に美亜は固まる。
 颯斗は運動神経が良いサッカー少年。高校では1年からスターティングメンバ―に選ばれ、3年生になる今年、チームを全国大会出場まで導いた立役者でありエース。
 その上、優しくてイケメンなので、とにかくモテまくる。
 この言い合っている二人も颯斗に思いを寄せているのだ。
 恋乃の勝ち誇った表情と颯斗の焦った顔、そして数秒の沈黙のあと、
「颯斗くんと付き合ってるのは私なんだけど」
 心底イラついた様子で美亜は言う。
「なに、強がり?本人が目の前にいるのに。ねぇ、颯斗くん」
「…あぁ」
 微妙な返事をする颯斗。
 なんで颯斗が微妙な返事をするのか、俺は知っている。
「なぁ、美亜。この写真見て」
 俺は、美亜に恋乃と颯斗のデートしている写真を見せた。
 それを見た美亜は顔を真っ赤にして、颯斗に迫る。
「颯斗くん、どういうこと?颯斗くんから告白してくれたよね?」
「あ、いや、その」
 口ごもる颯斗の隣で恋乃は勝ち誇ったような様子を見せている。
「美亜は遊ばれてたんだよ。颯斗くんの本命はア・タ・シ♡」
 明らかに見下している発言。
 恋乃の美亜を見下した発言は、たびたび目立っていた。
 その後の美亜は悔しそうな表情かバカバカしいと表すような呆れた表情が多かった。
 ここまで怒っている美亜の表情は初めてだった。
 俺は余裕の恋乃に別の写真を見せた。
「恋乃、これ見て」
 そこには美亜と颯斗がデートしている様子が映っていた。
 それを見ても、恋乃はまだ余裕の表情。
 しかし、また別の写真を二枚見せた。
 その二枚の写真は颯斗がそれぞれ別の女性とデートしている様子だった。
「は、なにこれ」
 イラついたように恋乃は俺に問う。
「めっちゃ偶然なんだけど、同じショッピングモールで颯斗を見かけることが多くて。
 誰も本命じゃないと思う。全員遊び。
 あと、多分だけど、この人たちだけじゃないと思うよ。もっといる」
「はぁ⁉まじありえないんだけど。浮気?4股?マジ最低だわ」
 俺の答えに怒りが爆発した恋乃が颯斗に言う。
 そして、周りの人もあり得ない、っといった様子で引き気味。
「ねぇ、美亜。ウチとりあえずあんたには投票しないから、まずこいつ潰さね?」
「私も思った。4股は最低すぎる。自分がモテるからって調子乗ってるよね。こんなやつ、好きになった自分を殴りたいレベル」
 二人が珍しく一致団結して、颯斗を全力で殺しにいってる。
 そんな二人を見て、颯斗は俺を睨みつける。そして、怒りのこもった足取りでこちらに向かってきている。
 颯斗は俺の胸ぐらを掴み、言葉を放つ。
「お前のせいで、俺の人生めちゃくちゃなんだけど。どう責任取ってくれんの?」
「颯斗はもうすぐ死ぬと思うから安心しな。人生めちゃくちゃになったのはほんのひと時だけだった。よって俺も責任取る必要はない」
「お前、」
「ってか、自業自得でしょ?もとはといえば、浮気した颯斗が悪いんだよ」
 そういったとき、みぞおちに強烈な痛みが走った。
「いって。最期に暴力?華やかな人生だったんだから、最後もかっこよく終わりなよ」
 颯斗はかつて、俺のお兄ちゃん的存在だった。表面上は。
 実際は、平気で嘘をつく颯斗を俺は嫌っていたけど、全力で弟をふるまっていた。
 颯斗も同様で、生意気な俺を嫌っていただろう。それでも周りの目を気にして叱らなかった颯斗が今、こうやって暴力を振るっている。
 冷静な行動ができなくなるほど、颯斗は追い込まれていた。
「俺に暴力振るっている場合じゃなくない?最期に二人に縋っとかなくていいの?助けてくれるかもなのに」
「はぁ?」
「好きって気持ちは意外と簡単に消えないんだよ。今までの思い出とか、好きだったところとか、すべて記憶から消えて、今の出来事でしか颯斗を知らない、ってわけじゃないじゃん」
 俺の言葉に、颯斗は俺の胸ぐらから手を離し、ゆっくりと美亜と恋乃のところへ歩み寄る。
 颯斗は二人に土下座して、お願いする。
「お願いします。俺を生かしてください」
しばらくの沈黙の後、美亜が口を開いた。
「それは無理だわ」
「なんで?」
「確かに、秀の言ったことも一理ある。ってか好きだった時の気持ち、今でも消えてない」
「なら、なんで」
「でもね、浮気、逆ギレしての暴力見てると、一番生かしておくべき存在じゃないなって。結局誰かが死ななきゃいけないの。
 じゃぁ、誰が死ぬべきか、って考えたら颯斗くんだと思った」
「そんな...」
 美亜の言葉に絶望したかのように青ざめる颯斗。
『ソレデハ、本投票ニ移ッテ下サイ。モウ一度ルール ノ 確認ヲ シマス。複数ノ人ニ投票スルコト ガ デキマス。シカシ、1人ニ対シテハ一票シカ投票デキマセン。ソレデハ、投票ヲ開始シテ下サイ』
 俺は迷わず【横田颯斗】を選ぶ。
 少ししてから、キボウが話始めた。
『ソレデハ、投票ノ結果ヲ発表シマス』
 テレビの画面が切り替わる。

本投票の結果
  横田颯斗…10
  坂井秀……1
 死亡者
  横田颯斗