「……四季、今日から中学校だけど……大丈夫そう? 無理しないのよ?」
「うん。僕、大丈夫だよ。いってきます、お母さん」
小学校でいじめられて、引っ越してきた新しい家。入学式には後から来るというお母さんに見送られて、僕はドキドキしながら初めての通学路を踏みしめる。
中学校の制服は、何だか衣装みたいで背筋が伸びた。何気ない道程が特別な舞台セットのようだ。
「……」
僕の心の中には、少し前までいろんな僕が居た。傷ついた時には、たくさんの人格が僕の心を支えてくれていた。
友達のいない寂しい春に生まれた、お兄ちゃんみたいに頼れる一緒に居て安心したオレ。
その後外に出来た唯一の友達がいじめられた夏に生まれた、話し合えばわかるとどこまでも平和主義だった俺。
かばった末その友達の代わりにいじめられるようになった秋に生まれた、怖がりだけど戦う強さもあったボク。
守ったはずの友達からもいじめられるようになって、心の折れた冬に生まれた、痛みを人一倍抱え込むいろんな傷を抱えたおれ。
そして、そんな死にたくなるような四季を越えて、何も出来ないのに心の底で死にたくないともがく、弱い僕。
その時によって考え方や性格が違う人格になるのはなんだか役者みたいで、いろんな自分になれるのは楽しかった。辛いことがあっても、仲間たちが傍で支えていてくれる気がして安心した。
けれど「そんなのは気持ち悪い」と、すぐに人格を切り替える僕は、更にいじめられた。
僕は、いつまでも彼らに頼っていられないことを知った。だから僕は一人で生きていけるように、決して『人生の舞台を降りない強い自分』が欲しかった。
その結果、自分の中でデスゲーム……『芥田四季』という舞台上で主役を張れる、主人格を決めたかったのだ。
もともとの人格はとっくに壊れて、舞台の上に姿を表せない、最低限の指示しかしない支配人のような場所に居た。彼が最後の力を振り絞って、デスゲームを開催したのだ。
今はもう眠っているのであろう支配人の代わりに、僕はその記憶も引き継いで、たった一人の『芥田四季』となった。
死なないように、みんなの良いところと悪いところを知って、糧にして、生き残れた『僕』ならきっと大丈夫だ。
これまで傍に居てくれたみんなとのお別れは寂しかったけれど、彼らと作り上げた自分という舞台は、今もここにある。
彼らは本当に死んだ訳じゃない。心の中の客席に、或いは裏方に居て、きっと今も僕の一人舞台を支えてくれている。
「……僕、頑張るよ。みんなの分まで、この人生に立ち続ける」
スポットライトみたいなまばゆい日差しの中、僕は新しい演目の幕開けに、期待と不安、緊張と高揚で胸を弾ませる。
それはなんだか、みんなの拍手の音に似ている気がした。