いわゆる『デスゲーム』が始まったのは、つい先程のことだった。
 僕たちの所属する劇団『芥田』の専用劇場。支配人の呼び出しでその舞台に集められたのは、次の公演である『中学生』という演目の、主役候補だった五人のメンバーだ。

「なんだこれ、抜き打ちオーディションか? みんな、何か聞いてるか?」
「こんな夜中に呼び出されるとか聞いてねぇんだけど……」
「うう……ていうかデスゲームってあのデスゲーム? 昨日支配人が読んでた漫画みたいな?」
「……漫画に影響されてやりたくなったとかじゃないですよね……?」

 突然の支配人からの呼び出しと、舞台のセットとして掲げられたデスゲームの文字。舞台の真ん中に落ちていた台本には『最後まで舞台上で生き残った一人が主役』とだけ書かれていた。

「えっと……とにかく、支配人に確認取れる人居る?」
「いや……」

 ここに僕たちを集めた支配人なら、何かしら知っているだろう。けれどいくら連絡しても、支配人からは反応がなかった。
 ありがちなデスゲームならば、その辺のモニターで支配人がどーんと出てきて説明なりしてくれるのだが。
 混乱する僕たちの様子を陰から見ているのか、もしかすると、もう寝てしまっているのかもしれない。

 各々が困惑する中、スポットライトが消え赤い照明に照らされた不吉な舞台の上で、足元に小道具が散らばっているのに気付く。

「え、これって……」
「まさか、銃、ですか……?」

 僕が小道具を拾い上げると、真面目な冬理が驚いたように声を上げる。こんな物騒なものがここにあるなんて思わなかったのだろう、彼は半歩後退りした。

「わあ、こっちにもあるよ!」
「まじかよ……やべぇ」

 他にも釘バットや模造刀なんかの様々な武器が落ちていて、秋来と夏弥がそれを持って駆け寄ってきた。

「悪趣味すぎるな……オレ、ちょっと支配人探してくるわ。説明して貰わないと」
「え、でも……」
「待ってください、春斗さん。唯一のヒントとして、舞台上で生き残れた者が……、と書いてます。舞台を降りるのは危険です……」
「大丈夫大丈夫。どうせどっきりか何かだろ。すぐ戻るから心配するなって」

 そう言って笑みを浮かべた春斗は、階段を使って舞台を降りる。彼は僕らの頼りになる兄貴分だ。心配しながらも、先んじて動いてくれる春斗に安心もしていた。
 彼が舞台を降りて、客席を抜けて出口に向かおうとするのを、僕たちは固唾を飲んで見守る。

「……あ」

 そして、春斗が死んだ。
 何かのどっきりだろうと、そう思いたかった。けれど舞台を降りた春斗は、台本に書かれたように舞台に生きる資格を失ったのだろう。
 ルールを破った天罰とでも言うように、彼はどこからか発射された何かに射貫かれて、その場に倒れる。
 仰向けになった彼の胸元に、ボウガンの矢に似たものが深く刺さっているのが見えた。一瞬痙攣した後、彼はそのまま動かなくなった。

「ひっ……!?」
「嘘……」
「春斗さん……そんな……春斗さん!」
「あ、馬鹿っ、行くな冬理! おまえまで……!」
「でも……う、うう……」

 ショックを隠しきれない僕たちは、ぼんやりとしか見えない暗い客席で力尽きた春斗から、目を離せない。
 視界の端で、慌てて駆け寄ろうとした冬理を、夏弥が咄嗟に止めていた。

「春斗……」

 容赦のない死が自分に向くかもしれない恐怖、何年も一緒に居た仲間を失う悲しみ、訳のわからない状況への混乱。
 様々な思考が巡るのに、僕らはどこに逃げ出すことも出来ない。何しろ舞台を降りれば、彼のように消されてしまうのだ。