リビングまでの短い廊下にはしっかりとワックスがかけられていて、自分の姿が鏡のように映っていました。

部屋に入ると白くて清潔感のあるテーブルと、同系色のソファが置かれていてチリひとつないような状態でした。

ここからもA子さんが日頃からこの家をとても大切にしてきたことが伺えますよね。

なのにA子さん本人だけやはりこの場から浮いているというか、ちょっと似合わない感じがしています。

A子さんは僕をソファへ座るように言うと、自分は隣のキッチンへ向かいました。

リビングとキッチンは一体型となっているので、A子さんが僕にお茶を準備してくれている姿はずっと見えていました。

5月でしたからね、冷たいお茶にするか温かいお茶にするかちょっと悩んでたみたいで。

でもあの日はゴールデンウィーク最終日で、結構暑かったんです。

だからA子さんは冷蔵庫から麦茶を取り出してグラスにそそいでくれました。

でもやっぱり、その間もA子さんは心ここにあらずって感じで、麦茶がちょっとこぼれても全然気がついていないんですね。