話しを聞きに行ったのは閑静な住宅街の一番端にあるA子さん宅です。
カーポートには白い乗用車が一台停まっていて、門から玄関までは飛び石がひかれています。
飛び石の左右にはA子さんが端正こめて育てていると言っていた、花が植えられていました。
その外観だけで、あぁ、A子さんはこの家をとても大切にしているんだなぁとわかるような、とてもキレイに整理整頓された庭先です。
飛び石を通って玄関まで行って呼び鈴を鳴らすと、当事者であるA子さんがすぐに出てきてくれました。
出てきた瞬間のA子さんは息切れをしていて、長い髪の毛もボサボサになっていて、白いエプロンにはシミができていました。
庭先と暮らしている人との印象があまりにかけ離れていたので、驚きました。
まぁ、でも今思えば当然のことというか。
それほどA子さんは混乱し、取り乱していたんです。
それから僕はA子さんに促されてリビングへと通されました。
リビングまでの短い廊下にはしっかりとワックスがかけられていて、自分の姿が鏡のように映っていました。
部屋に入ると白くて清潔感のあるテーブルと、同系色のソファが置かれていてチリひとつないような状態でした。
ここからもA子さんが日頃からこの家をとても大切にしてきたことが伺えますよね。
なのにA子さん本人だけやはりこの場から浮いているというか、ちょっと似合わない感じがしています。
A子さんは僕をソファへ座るように言うと、自分は隣のキッチンへ向かいました。
リビングとキッチンは一体型となっているので、A子さんが僕にお茶を準備してくれている姿はずっと見えていました。
5月でしたからね、冷たいお茶にするか温かいお茶にするかちょっと悩んでたみたいで。
でもあの日はゴールデンウィーク最終日で、結構暑かったんです。
だからA子さんは冷蔵庫から麦茶を取り出してグラスにそそいでくれました。
でもやっぱり、その間もA子さんは心ここにあらずって感じで、麦茶がちょっとこぼれても全然気がついていないんですね。
「ありがとうございます」
僕は一応そうお礼を言ってから麦茶に口をつけました。
飲む瞬間ちょっと躊躇したんですけど、まぁ普通の麦茶でした。
それからA子さんがジッと僕を見つめてくるので、あぁ、早く話をしたいんだなと思って、さっそく本題へ入ったんです。
ここから先は、そのときのボイスレコーダーの内容を聞いてください。
あ、もうしゃべっていいんですか?
あ、あの、私の家族が全員いなくなってしまったんです。
どうか探してくれませんか?
「落ち着いてください。まずなにがあったのか話をしてくれますか?」
は、はい。
家族がいなくなったのは昨日のことです。
昨日もゴールデンウィークでしたけど、夫はやり残した仕事をしに会社へ行って、息子は部活に行っていました。
ふたりとも、朝早くに出ていきました。
「家にはA子さんひとりが残っていたんですか?」
いいえ。
家には義母がいました。
義母は80代で、一月前から寝たきりになっていました。
階段でこけてしまって骨折したんです。
それがまだ治りきっていなくて。
「なるほど。それではふたりでいたと」
はい。
私は夫と息子を送り出してからゴミ捨てに行きました。
昨日は不燃物の回収の日だったので。
そこでちょうどご近所の山田さんと安岡さんが立ち話をしていたので、私も少し加わったんです。
ふたりとも両親の世話とか子育てとかに忙しい、同世代だから普段から仲良くしています。
私達が三人揃えば何時間でもおしゃべりできるような関係です。
そこで、あの……
今思えばそれは悪かったのかもしれなくて……。
「急に歯切れが悪くなりましたね? そこでなにかあったんですか?」
えぇ。
あの。
でも私達にとっては日常的なことですし、特に関係ないのかも。
「話していただけますか?」
……はい。
いつものように山田さんが介護中のお母様の愚痴を言い始めたので、私と安岡さんは頷きながら聞いていました。
私も義母の世話をしていますから、愚痴を言いた気持ちは理解できますし、聞いてあげることくらいしかできないから。
そうしていると今度は安岡さんが自分の娘について愚痴にはじめました。
安岡さんのオタクの娘さんは今度20歳になるんですけど、高校中退後ずっと引きこもりなんです。