平和な王都アトスから火の柱が上がっている。
 それは、火災などの自然現象ではない。

 まず規模が違いすぎるし、ただの火災にしてはあまりにも唐突に発生している。

 明らかな、何か強大な存在が引き起こしたであろう災い。
 そのことを誰もが理解したのだろう。

 今まで俺たちを追いかけていた民衆も門番も、俺を追いかけるためではなく、災いから逃れるために街の外に走り出した。

 発生源不明の火柱から逃れるために。

 だが俺はその火柱に心当たりしかなかった。
 俺は空を見上げる。

 するとやはりいた。
 あの子だ。

「リーン!」

 翼を持った馬の影に向かって俺は叫ぶ。

「リーン! 俺だ! 聞こえないのか!?」

 相棒が走らせる車の中から、王都上空の影に呼びかける。
 だがその影は俺に気がつかない。

「ダメか!!」

 だとしたら尚更、街から離れないといけない。

「ミラナ! 飛ばせ!」

「わかってるわよ!!」

 エンジンはすでに全開だ、最高速を出しながら馬車は王都から離れていく。
 そしてついにその時は来た。

 王都が光に包まれた。広大な爆発が王都を襲っている。

 建物が瓦礫がと化し、重力に反して浮かび上がりバラバラに砕けていく。

 思わず、逃げ惑っていた民衆は王都の外に広がる平原で立ち止まりあんぐりと口を開けその光景を見つめていた。

 ここまで来れば大丈夫だろう。ミラナも察したのか馬車を同じく平原に止める。
 そして王都から離れた俺たちはただ見ていることしかできない。

 王都滅亡の景色を。

 そして俺は叫ばずにはいられなかった。

「バカヤロォォ! だから言ったろうがぁぁ!!!!!」

 なぜこんなことになってしまったのか、説明しなければならないだろう。

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 俺、エルマーに親はいない。
 孤児だ。
 じゃあ俺は一人で生きて来たか? と言われるとノーだ。

 俺はいわゆるヤクザもんに育てられた。
 王都アトスの影にひっそりと巣食う、はみ出し者たち、その親分みたいな奴にな。

 全く思い返してみてもロクな思い出がない。
 物心ついた時には俺の顔面には青あざがあった。

 そのヤクザの親分にぶん殴られてたんだ。
 なんでも、俺は買われた奴隷であったらしく、よく泣くもんでウザがられていたらしい。

 じゃあなんで、そんな奴隷が今日まで生き残れていたかって?
 俺には利用価値があったのさ、それも換えのきかない、とてつもない利用価値が。

 俺には神獣って呼ばれる、人智を越える獣たちと心を通わせる力があったんだ。
 それはもう便利な力だった。

 この力があったおかげで、親分は天下を奪った。
 神獣の赤ちゃんを高額で買い取って、俺に世話をさせて他のヤクザを威嚇。

 そりゃ見事に成功したさ、我が子の力を借りて他のヤクザをボコボコにしたウチのボスはそりゃあ恐れられた。

 でも俺はいい加減、嫌気がさした。
 だって俺のことママって呼ぶんだぜ? あの子達。

 そんな可愛い我が子達にやらせることが、ヤクザ者の血生臭い抗争って……。

 教育に悪いに決まってる。そう思った。
 俺は悩んだ、悩んで悩んで悩みまくった。
 そんな不安があの子達にも伝わったんだろうな。

 ある日、俺の親分が言った。

「オメェら! 国を奪るぞ!! 神獣も充分に育った! 今ならいける!!」

 王都アトス侵略を親分が宣言した。冗談じゃねぇ。
 いい加減子供達に罪を背負わせたくなかった俺は、その晩、相棒の奴隷剣士のミラナと協力して子供達を逃したんだ。

 俺からすれば、目に入れても痛くねぇ五匹の我が子を。
 だが、あの子達は戻ってきた。

 俺が親分に咎められて殺されそうになったその時に。

 さてここから、話がややこしくなってくる。
 結果俺たちは我が子のおかげで助かった。親分をボコボコにしてくれたんだ。

 そして親分の手から離れて、騒ぎを聞きつけた王都の騎士により子供達と俺とミラナは保護された。

 めでたしめでたし。

 なわけなかった。
 ミラナはすぐに解放されたそうだが、俺はしばらく裁判所で裁判を受けた。

 と言うか俺が起こしたんだ。本来はヤクザに利用された可哀想な奴隷達と言う区分で解放される予定だった俺とミラナだったんだかどうしてもある一点で気に食わないことがあった。

「えー協議の結果神獣は我々が保護することにした」

 俺の面接に来た騎士団長らしきオッサンがそう言いやがった。

 王都アトスは保護した神獣達を……あの子達を国で管理するなんて言い出しやがった。
 無理だ、と俺は瞬時に思った。あの子達は俺にしか懐いてないし、管理なんてできるわけない。

 それに俺だってあの子達と離れるのは嫌だった。

 だから俺は言った。

「親権をください!!」

 ってな、でも裁判官は誰も彼もが相手にしない。
 そして、恐れてる日が来た。

 ある日、俺は、あの子達から怒りと恐怖の感情を感じとった。
 それが、やがて敵意と憎しみに感じるのも。

 俺はといえば、裁判を起こし、ついでに国から神獣を奪い取ろうとした危険人物だと見做されたのだろう、牢にぶち込まれていた。

 そんな牢の中ではできることなど少ない。俺には感情や言葉を感じることはできても俺から直接伝えるには、子供達の近くにいないと何も伝えることができなかったんだ。

 それに子供達がどこに保護されているのかもわからないこの状況……。やれることは一つしかなかった。
 
 俺は粘り強く裁判で危険性を訴え続けていたのだが……。

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 結果はこれだ。光に包まれる王都を見て項垂れる俺。
 傍ではミラナが、馬車の異次元トランクから収容した人々を出している。

 何十人かは救えたものの、全員なわけがない。

「滅亡したよ……王都」

 深いため息をつきながら同時に叫ぶ。

「こっからどうすんだよぉぉぉ!!!」

 すみません王都崩壊しました。