あれから変わった事。


特段大きな変化ではないかもしれないが彼が友達と一緒に登校する様になった。

狭い箱庭の様な車内が更に狭くなった様に感じながら私は今日も彼を眺める。

それでも今まで見たことのなかった彼を見れた事は何よりも嬉しい事だった。

彼は自分から積極的に話す素振りはないものの友人の発言に時折クスクスと口元を手で覆って笑った。
普段は特段表情の変わることの無い彼だが、友達といると随分と表情が豊かだった。


その日も、そうだった。


その日はいつもと違う男子が1人混ざっていて、車内は更に明るくなっていた。
彼とは真反対とも言えるタイプで常に表情の休まらない男子だった。

男子はひとしきり大笑いした後に思いついた様に彼に話しかけた。そしてその言葉は鋭く私の耳に飛び込んでくる。

「なあ、お前彼女つくらねえの?そういうの全くねえじゃん。」

私は思わず耳を澄ませた。全くない、という言葉に安堵しつつも余計な事を、という恨みも僅かに混じった。

しかし、私の思いとは裏腹に、男子たちの空気が一変するのを感じた。
数人が互いに目配せをし、言葉を投げかけた男子もそれを察したのか何かわからない様子で押し黙る。

すると彼がゆっくりと口を開いた。



「いるよ。」



「好きな人なら、いる。」


どっと全身の力が抜けていく様だった。

頭の中が真っ白になり目の前がチカチカと点滅する。



失恋したんだ。


そう実感するのには随分と時間を要した。

彼は箱庭に住んでいるだけの世間知らずな王子様じゃない。

普通に学校に行って、普通に友達を作って、普通に恋をしている。

それを考えれば自分がどれほど楽観的だったかを見に染みるほど感じた。



その後のことは覚えていない。


ただ、最寄駅を示すアナウンスが無情に響いただけだった。