「38.2℃…風邪ね…明日病院行きましょ。とりあえず今日は寝てなさい。」
「はい…」
「お母さん今日仕事でどうしても行かなきゃだから、ごめんね。」
「全然大丈夫…ゴホッゴホッ」
俺は中学に入る頃両親が離婚し、母に引き取られた。
「早めに終わらせるから!じゃあ行ってくるね。」
「いってらっしゃい…」
学校を休めるのは良いと思うだろうが意外と何もすることがない。というかできない。風邪となると目の前がフラフラで歩けないしゲームなんかもやる気になれない。何もできずただただ時間がすぎるくらいなら学校のほうが何億倍もマシ。
しかも一人っ子だし母さんも仕事で看病してくれる人はいない。
まあ仕方ない。看病のためにいちいち休んでいると稼ぎがなくなるから…
「佐野今日休みなんだ」
「風邪じゃね」
「だろうね〜、佐野ちゃんズル休みするタイプじゃないし」
「月嶋プリント届に行けば」
「なんで俺?」
「適任だから」
「……」
「あれ?でも佐野ちゃん家知ってんだっけ」
「それなら知ってる」
「さっすが〜」
「何がだよ」
そこに望月先生が来る
「お前ら席につけ〜」
高橋は軽く手を振り山本と席に戻っていった
「今日はちょっと急用で短縮授業になります」
教室は学校が短くなって歓声で溢れた。
「お前ら落ち着け、説教でせっかくの時間なくしてほしいか?」
それは嫌と言わんばかりに急に静まり返る。
「あとは最近冷えてきたから風邪には気をつけろよ!」
「はーい」
「風邪が流行ってるから気をつけろよ〜」
小学生じゃねえんだから…でも……佐野大丈夫かな。心配でそれからの話はあまり聞いていなかった。
そのままなんやかんやありホームルームも終わり授業が始まった
そして放課後。
「高橋、山本女子たちの相手頼んだ。」
俺の言葉に山本は明らかに嫌そうな顔をしたが、高橋はビシッとしている。
「あ!月嶋くん、今日って暇かな?」
そんな話をしていると早速女子が話しかけてきた。
「あー!それちびかわじゃん!」
高橋が機転を利かせ女子のカバンに付いている熊?のぬいぐるみに話題をそらした
「高橋くんちびかわ好きなの?」
「かわいいよね〜俺はシチサン好き!」
「ほんと!?私もなの!」
女子たちの相手を高橋たちに任て正解だった。
あいつらには悪いが先に帰らせてもらう。俺はバレないようにそそくさと立ち去った。ついでに佐野にも「大丈夫か?」とメッセージを送った。
そんなこんなで佐野の家に到着した。そして俺はインターホンを押す。
でもいくら待っても扉が開く気配がない。今日はもう諦めようとした瞬間…
(ガチャ)
扉が開いたかと思えば中からは顔が真っ赤になった佐野がふらふらしながらでてきた。
「たすけて…」
風邪を引いたからかいつもよりもガサガサ。それよりもまずは佐野を抱きとめた。
「大丈夫か?」
佐野は小さく首を横に振る
「親は?」
「仕事…ゴホッ」
「とりあえず家はいろ」
佐野はコクリと頷く
「飯は?」
「食べれて…ない…」
「食欲ある?」
佐野はまた頷く
(勝手に作っちゃっていいかな?)
…まあ一大事だ、そもそも勝手に家にも上がってるわけだし。
とりあえずおかゆを作ることにした。これなら俺でも作れる…はず
作ってる間に佐野の方を見る。
「熱は?」
「38℃…」
「吐いたりは?」
「してない……ゲホッゲホッ」
「……なんか手伝ってほしかったら言えよ。」
佐野は少し考えたのかちょっと間を置いてから頷いた。
そしてそうこうしている間におかゆができた。
「ほれ、あーん」
「あー」
「ど?うまい?」
「……うん」
「そっか、ほらもう一口」
「あ、ありがと」
「……どういたしまして」
そしておかゆも食べ終わり
「部屋戻るか」
「うん」
……まさか月嶋が看病しに来てくれるとは思わなかった。こんなの修学旅行以来だ。いや、もしかしたら夢なのかもしれない。こんなこと起きるわけが…そんな事を考えていると急に体が浮いたような感じがした
見ると月嶋が俺をお姫様抱っこしているようで思わず声が出た。
「え!?」
月嶋に風邪が移っても大変だ、自分で歩くと言おうとするが咳がひどく声が出なかった。
「無理しなくていいよ。どうせ俺に移るからやめろとか言うんだろ?俺あんま風邪引かないから大丈夫。」
そういう問題なんだろうか
「ついたよ」
体が浮いている感覚はなくなりベッドの感触が触れる。
「熱は?」
「朝測ったら…ゴホッ38℃だった…」
「今もっかい測ってみるか」
月嶋がそう言った途端、額にになにかが当たる感じがした。
見ると月嶋がすぐ目の前にいた。額同士を当てているようだ、急で思わず後退る。
「イデッ」
後退ったから後頭部を思い切りぶつけてしまった。
「大丈夫!?」
頭を抑え俯いていると今度は頭を撫でられた。
「ごめんな、俺のせいで」
「い、いや…別に」
好きな人からまさかこんなことをされるだなんて、思ってもいなかった。
結局、体温計を使うことにした。そして体温計には37.7℃と表示された。
「流石にまだ高いな…」
「うん…」
「ちょっとトイレ借りるな」
「うん…」
まあトイレならすぐ戻ってくるよね…さみしいが帰るわけでもない。俺は静かに待つことにしたのだがなんだかまぶたが重くなってきた…
目が覚めると時計は8時半を指していた、横では月嶋が俺のベッドに頭を乗せ寝ている。
「!?」
俺はその光景にびっくりしてまた頭をぶつけてしまう。
(月嶋が起きちゃう…!)
と思ったが思ったよりもぐっすり寝ているようだ。
明るい髪色、整った顔立ち、寝顔ですらイケメンだなんて羨ましい……
俺はそっと月嶋の頭に触れようとしたがやっぱやめた。俺にはできない。
「月嶋が彼氏なら幸せだろうな………」
そう思っていると月嶋の耳がピクッと動いた気がする。
(え………もしかして声に出てた…?)
「ん……おはよ」
「あ…お、おはよう…」
「今何時?」
「8時だよ」
「そっか、じゃあそろそろ帰るな」
月嶋はそう言って立ち上がる。それと同時にこちらへと駆け寄る大きな足音が聞こえた。
バンッと大きな音とともにドアが開き母が現れた。
「友里!ごめんね遅くなっ……て…だ、誰!?」
「あ、佐野くんのお母さんどうも」
「ん…?ってもしかして燈也くん!?」
え?なんで月嶋のこと知ってるんだ?母さんは俺の同級生は殆ど覚えれていないのに
「お久しぶりです」
「こんなにおっきくなっちゃって〜」
「え、母さん月嶋のこと知ってるの?」
「知ってるも何も小学校の頃一緒だったじゃないの」
「え!?」
今始めて知った、まさか月嶋が小学校の頃一緒だったなんて……どうりで会ったことあるような気がしたわけだ。
「あんたもしかして忘れちゃったの?」
「うん……ごめん」
「俺は全然……」
「ていうかそれなら月嶋も言ってよ、それなら思い出せたかもなのに」
「それは…そのほうが面白そうでしょ?」
「ええ…」
そうなのか…?俺にはさっぱりわからん…
「あ、そうだ。そういえば勝手におかゆ作っちゃったんですけど良かったですかね」
「え?燈也くんおかゆまで作ってくれたの!?ありがと〜!全然気にしないで!」
「そう言ってくれるとありがたいです!それじゃあ俺はこのへんで。」
「あとは任せて!気をつけてね!」
「はい」
そう言って月嶋は帰って行ってしまった
帰り道…
「………」
『月嶋が彼氏だったら幸せだろうな…』
あの言葉が頭から離れない。本人は声に出てた?って顔してたし言わないでおいたが……気になって仕方ない。
「あれ?月嶋だ〜」
俺があの事を考えていると声をかけられる。その声の方を見ると高橋がいた。
そのまま俺達は公園で少し話すことにした。
「高橋はなんでこんな時間に?」
「バイト帰り?バ先の子が俺の分の仕事するからってさ〜あまりにもしつこいから…」
「それただ給料減るだけじゃね?」
「だから渋ったんだけどねえ…まあどうせ10時までしか働けないし1時間くらい、いいかな〜」
「もう9時?」
「そーだよー」
「そっか…」
「で?どうだった?」
「何が?」
「佐野ちゃんのお見舞いに行ったんでしょ?なのにこんなに遅いって何かあったとしか思えんよ」
「…まあ親いなかったし看病はしたな」
「え?佐野ちゃん一人暮らし!?」
「なんでだよ…あいつの親仕事で忙しいんだって」
「なるほど〜」
「腹減った…」
「あ、それならこれあげる」
そういって高橋は手に持っていたビニール袋から肉まんを取り出す
「いいのか?」
「うん。2つあるしどうせすぐ食べるつもりだったから。冷めないうちに食お!」
「…毒でも入ってたり」
「しねえよ!なんで毒盛ったとか疑うの!?」
「お前が俺にくれるとは思えんかった」
「俺のことそんなやつだと思ってたの…?」
「まあ今までもらったこともないしな」
「あげたことないっけ?」
「もらったことないな」
「ふーんじゃあ初めて記念日じゃん」
高橋は自信満々に答えるが意味がわからない。
「あ、そういえばお見舞いどうだった?関係は良さげ?」
「お前には関係ないだろノンデリ」
「またまた〜照れてるんだから」
「それより喉乾いた」
「えー流石にそれは金でもくれないと」
「飲み物くれたら金やるよ」
「やだね、やるもんか」
「ケチ」
「ケチはどっちだよ」
俺は勢いよく高橋を指さし高橋は「俺だってただで買ったわけじゃないんだ」と言ってくる。それはそう。
「てか佐野ちゃんと付き合ってるの?」
「なんで急に…まだ付き合ってないけど」
高橋の方を見てそう言うと、高橋は口を開けるほどびっくりしているようだ。
「え!?まだ付き合ってないの!?告ったの?」
「告りはしたし告られもした」
「…え?どゆこと?じゃあ付き合ってるんじゃ?」
「俺の告白は失敗したし佐野の告白も告白じゃないというか…」
「んーよくわからんけどまあ、がんばれよ!」
「ありがとな、いろいろ」
「おうよ!両思い同士なんだろ?がんば!」
「まだ両思いって決まってない…」
「じゃ!」
俺の声を遮るように高橋はそそくさと帰っていく
「何なんだよ…」
そう呟いたと同時に母親からLIMEに『あんたいつまで外ほっつき歩いてんの!早く帰りなさい』とメッセージが送られてくる。
「へいへい」
することもないしとっとと帰ることにした。時刻はもう10時を過ぎている。だからか周りは閑古鳥が鳴いたように静かだ。
そして家に着き自分の部屋へと向かう。途中で母さんが「帰り遅くなるなら言ってよね」と言っていたが軽く流した。
部屋につきベッドに横たわる。俺は佐野が心配で仕方がない。LIMEでも送ろうかと思いスマホの電源をつけると同時に通知が来る。
誰かと思い確認すると佐野だった。
俺は急いで内容を確認する
『今日はありがとう』
ただそれだけだった。でもすごく嬉しかった。
俺は「全然気にしないで、暇だったし」と送る
すると佐野は突然こんなことを聞いてきた
『あれ聞こえてた?』
「あれって?」
俺はきっとあのことだとわかっていたがあえて知らないフリをする
『それならいいの、ごめんね』
「それより風邪引いてるんだから俺にLIME送ってないで寝てなよ」
『うん、心配かけてくれてありがと、おやすみ』
「おやすみ」
それで佐野との会話は終わった。そして俺は決心した。
今度の文化祭で佐野に告白するんだ。絶対に。そう決めたのだった。
数日後…
「おはよ!」
「あ、月嶋……おはよ」
佐野の風邪も治り、俺の体には何も異常がなくよかった。
「治った?」
「うん、おかげさまで」
「そっか」
「月嶋が看病してくれたから……なんて」
「なにそれかわいい」
つい口に出してしまう。佐野は顔を真っ赤にして下を向く。それと同時に「朝からイチャイチャするだなんて幸せですね〜」と聞こえてきた。
後ろを見ると山本が蔑むような目でこちらを見つめていた。
「別にイチャイチャしてませんよ〜」
そう言って佐野を抱き寄せる。先程まで赤かった顔はさらに真っ赤に染まる。
「…でもお前のガチ恋が見てるぞ」
「じゃれてるだけだって」
「じゃれる距離感じゃねえからだよ、そもそも席隣同士だろ」
「うるせえなぁ、佐野も俺じゃれてるだけだよな?」
「え?あ、うん…」
「ほらー佐野もそう言ってんじゃん」
「あーはいはい、そうですか」
山本はそう言いながら自分の席へ戻っていく。
「なにあれ……」
俺が呆然としていると
「ち…近い……」
佐野が小さい声でそう言ってくる。顔はよく見えないが耳はまだ赤いままだ。
「ほんとかわいいなお前」
「う、うるさい……」
「まあ嫌ならいいよ」
そう言って佐野を開放する。佐野はちょっとびっくりしたような顔をしていた。
「ん?どうかした?」
「…いや、何でも」
「ふーん……ホントはもっと一緒が良かったとか?」
「!?そんなこと…」
佐野の顔はまたもや赤くなる。わかりやすいなぁ…
俺がその様子に微笑んでいると学校のチャイムが鳴り、ホームルームが始まる。どうやら今日は文化祭の話をするようだ
「――そして今年ももうすぐ文化祭だな!あれしたいとかあるやついるか?」
望月先生のその声に手を挙げる者はいない。
「なにもないのか?あまり時間ないんだが…」
その時1人の男子が手を挙げた
「メイド喫茶とかどうすか?」
その声に女子は「いいじゃ〜ん男子に着せよ!」という。
(佐野のメイド服…)
いいじゃん、メイド喫茶
先生は「まだ決まったわけじゃないからな」と少し苦笑いする
その後の時間でも意見は出たが人気だったのはメイド喫茶でせっかくなら執事も入れようという提案によりこのクラスではメイド&執事喫茶をやることになった。
「じゃあ役割決めようか」
そう言って先生は黒板に色々と書き出す
「まずメイド役か、前半と後半で2人ずつの4人くらいか?」
「メイド服そんなに用意できるんですかー?」
「任せろ!俺の実家仕立て屋だから!」
「もっちーの家仕立て屋なん?意外〜」
「まあその話は置いといて、メイド役なりたい人〜…」
案の定手を挙げるやつはいない、誰も着たくないのだ。
「おいおい、それだとただの喫茶店だぞ?せっかくメイドまでつけたんだから…」
いや、これは逆にチャンスだ
「はーい、佐野くんがいいと思いまーす」
隣からは小さい声で「えっ」と聞こえた
そして大多数が「さんせーい」と口を揃える
「じゃあ、それでいいか?」
「はい…」
「それじゃあ決まりな!あと3人は…」
その後もクラスのマドンナなんかが推薦され執事役を決める。
「じゃあ執事役は…」
そんなとき女子が
「はーい!あの3人がいいと思います」
そう言って固まって話していた俺達の方を指差す
「俺はパス…」
高橋は即答した。高橋の絶対に嫌というオーラを感じたのか「じゃあ月嶋くんと山本くんがいいと思います」と言いなおす
俺は別になんでもよかったから快く了承したが山本は「俺も嫌だ」と言いかけていたのですかさず
「山本もやるってさー」と叫ぶ。
「じゃあ2人は決まりな!」
山本の冷たい目線が刺さる。すまんな、流石に俺1人は嫌かも。
執事役は案外早く決まり、他の装飾係なんかも決まったところで今日はこれで終わりとなった。
そして放課後
「やってくれたなお前」
「何が?」
「シラ切るつもりか?」
「あーね」
「ま、頑張りなよ3人とも!」と高橋が言う
「お前もやればいいのによ」
「えーヤダ俺どっちも似合わないよ」
「んー…確かに」
「でしょー?」
「そ、それより俺のメイドのほうが似合わな…」
「そんなことない」
俺は即答する。すかさず山本が俺にだけ聞こえる声で「まさか下心でやらせたんじゃ」と言ってきたので
「そんなわけあるだろ」と答えた
「うわぁ…」
「それより今日って暇?」
「なんか嫌な予感する、パス」
「俺も〜」
山本と高橋は断ってきたが…
「なにするの?」
佐野がそう聞いてきた。てっきり山本たちに続いて断るのかと思った。
「ん、ああ…勉強会?今日数学宿題出たじゃん」
今日は珍しく宿題が出た。俺は数学が大の苦手なので数学が得意な山本に教えてもらおうとしたが今日はちょっと無理そうだ…
「だから俺誘おうとしたんだな」
山本にはお見通しだったらしい。高橋も「今日バイトだから行くね」といい立ち去る
「じゃあこのまま俺の家行こっか」
「…え?」
結局山本も来ないまま佐野と二人きりで家に入る。すると出迎えたのは母と弟だった。
「おか……あら、新しいお友達?」
「まさか兄ちゃんの彼氏!?」
「ええ!?いつの間に!?」
この勝手に付き合ってることにしているのが母と弟。まあ彼氏にする人ではある。
「ええ!?か、彼…」
「まだ付き合ってねえよ」
「う、うん付き合ってはない…です」
「兄ちゃんの浮気者!」弟は泣きながら俺に抱きつく
「うっせーな…ごめんな佐野先行ってて、階段上がって奥の部屋」
「は、はい」
一旦佐野を避難させることはできた、次はこっちだ
「蒼真も離れろ、邪魔だ」
「俺兄ぢゃんと結婚するぅ゙ぅ゙ぅ゙」
全然泣き止まねえな…仕方ない…
「俺、蒼真の笑ってる顔好きだから泣き止んでほしいな」
そういった途端蒼真は泣き止む。ちょろい。
「ほんと!?」
「うん、あとあいつと用あるから邪魔しないで」
「えー」
「じゃあお前明日デザート抜きな」
「それはやだ!」
蒼真はそう言って俺から離れる。これで終わりかと思ったが今度は母さんが
「お父さんもすぐ帰るって!」
「は!?まさか電話した!?」
「息子に彼氏ができたんだものめでたいじゃない」
「だから彼氏じゃ…」と言いかけた途端勢いよく玄関の扉が開く。
「あの話は本当か!ついに燈也にも…!」
「違う!母さんたちも知ってるだろ!佐野だよ小学校一緒だった!」
「え?…あー!あの子!?」
「中学校別になって燈也が泣いてたって子か」
「バッ…声でけえよ!」
ちょうどそこに佐野が降りてきてしまった。
「「あ…」」
「君があの佐野くんか、燈也のことよろしくな」
「ふーん、兄ちゃんが宏太兄とか隼人兄以外連れてくるなんてね」
月嶋の弟は俺の方をすごい睨んでくる…
「な、なに…?」
「こら蒼真、人をジロジロ見ちゃいけません!」
俺は蒼真の頭を軽く叩く
「ごめんな、うるさかった?」
「いや、全然」
「ならいいけど…今のうちに逃げよう」
「う、うん」
俺らは隙をを見計らい部屋へと向かう
「ふう、なんとか逃げ切ったな」
「月嶋の部屋…」
あ、そういえば片付けてなかった…俺はズボラだから部屋が散らかってるんだった
「あ、ごめんな今片付ける…」
「いや、いいよ」
「…え?」
「こっちのほうが月嶋らしくて落ち着く」
「…そかじゃあこのままで」
「うん」
俺は床に座りこみ佐野を手招く
「こっちおいで」
「そこで勉強するの?」
「…なあ、佐野ってメリカ得意?」
「苦手じゃないかな」
「それってどっちだよ」
「わかんない」
「なんだそれ。ま、とりあえずメリカやろうぜ」
「え、勉強会じゃ」
「メリオカートの勉強しような」
「なるほど…」
そして俺達は宿題はすっぽかしてメリオカートに打ち込むのだった。
「ごめ、ちょっとトイレ」
「いってらっしゃい」
そして俺は部屋を出る。
佐野が俺の部屋にいる、そう考えるだけで落ち着けない
「兄ちゃんそんなとこで何してんの?」
部屋の前で考え込んでると蒼真が話しかけてきた。
「シーッ…静かにしろ」
「なにか隠して…」
「じゃあな」
俺は会話を打ち切り、部屋に戻る
「あ、おかえり」
「ただいま」
俺はゲームの続きをしようと元の場所に戻ったその時、足元に落ちていたペットボトルに足を取られた。
「うおっ」
「へ?」
目を開けると俺の下に佐野がいた。どうやら躓いた勢いで押し倒してしまったようだ。
いつもなら「ごめん」と謝っている。だが今日は違った。
せっかく両思いになれたのだから、少し大胆に…
俺は佐野に顔を近づける。佐野も少し恥ずかしそうだったが止めようとはしない。
俺の唇が佐野の唇に触れようとしたその時
「兄ちゃんスマホの充電器貸してー!」と言って蒼真が部屋の扉を勢いよく開ける
「「あ…」」
兄貴大好きな弟なもんだから当然何もされないわけもなく
「何しようとしてたの!俺にはそんなことしたことないくせに!」
「ちがっ…これは!」
「兄ちゃんのバカー!」
「ぐぬ…一緒に風呂入ってやるからそれでいいか?」
俺は蒼真を泣き止ませるために渋々交渉を持ちかける
「ほんと!?やったー!」
蒼真は先程までワンワン騒いでいたのがまるで嘘かのように一瞬で泣き止む。
「だから邪魔すんなよ、ほら充電器なら貸すから」
「はーい!」
蒼真はご機嫌そうに鼻歌を歌いながら充電器を持っていく
「ごめんな、蒼真が…」
「あ、いやなんでも…」
佐野はそう言うが少し残念そうな顔をしている。すぐに顔に出ちゃって、そんな佐野がかわいくて仕方がない。
そんなとき今度は母さんが部屋に来る
「あんたまたこんなに散らかして佐野くん困るでしょ」
「そんなことないってそれに歩けはするんだからいいだろ」
「はぁ…まぁあんた片付けしないタイプだしな〜」
「で?何?」
「ご飯できたんだけどさ、佐野くん!よかったらうちでご飯食べてかない?」
「…は?」母さんのその言葉に俺達は固まる。
「い、いえ大丈夫です」
「遠慮しないで!何なら泊まってきなさい!」
おいおい何勝手に…
そこに親父も加わる。
「いいじゃないか!泊まってけ!」
「でも着替えが…」
「それなら燈也のでいいわよ」
(俺は良くねーよ!)
でも佐野も両親に押されてしまったか
「じゃあ…お言葉に甘えて…」
了承してしまったか…俺的にはありがた迷惑だ。いざ好きな人と自分の家でお泊りとなると緊張する。
「じゃあ早速下で食べちゃいましょう」
「はーい…――」
佐野も親に連絡が取れたみたいなので階段を降り、食卓に着く。そこには今までに見たことがないようなごちそうが並んでいた
「うまそー!」と蒼真の声が漏れる
「今日どしたんこれ、いつもなら味噌汁とご飯みたいなのじゃん」
「ふふっ特別な日だもの」
「特別な日…」まさかまだ付き合ってるとでも思ってるのか
「いいんですか…?」
「いいのいいの、遠慮せずに食べて」
「それじゃあ…いただきます」
「アレルギーとか大丈夫だった?」
「はい、強いて言うなら花粉とか」
「それなら良かった、それに私も花粉症なのよ〜」
たしかに母さんの花粉症はこれでもかと言うほどひどい
「これおいしい…」
そう言って佐野が手を付けたのはローストビーフだった。めったに出てこない手の込んだ料理だ。
「でしょー?自信作なの」
「これ手作りなんですか!?すごい」
「やーんもお、また今度来てくれたとき作ってあげる」
「ほんとですか?」
そんな会話の中、俺達は黙々と食べ進める。母さんは話し出すとなかなか止まらないからだ。
そして夕飯も食べ終わり風呂に入ることとなった。
「友里先に入りな」
さり気なく下の名前で読んでみた。そしたら佐野は驚いた顔でこちらを見る。
「あ、うん」
風呂場へと向かう佐野を見送り俺は蒼真の相手をする
「兄ちゃんとお風呂〜」
「お前もう中2なんだから1人で入れよな……って聞いてないか……」
「………」
まさかあんなことになるなんて…それに初めて下の名前で呼んでもらったし月嶋の家に泊まることになるなんて思ってもいなかった。
月嶋のことが好きだと意識しているからこそドキドキして落ち着かない。
看病してもらったあとから月嶋との距離が近くなった気がした。
そんな事を考えながら俺はさっさとシャワーを終わらせ風呂場を出る
そして渡された月嶋の服、なんだか月嶋のいい匂いがする気がする。でも俺にはぶかぶかだった。
(弟くんなら身長もそんなに変わらないからそっちでもでも良かったのではないか?)
それにパンツまで…いいのか本当に
それは置いといて俺はリビングへと戻る
「あ、それやっぱぶかぶかだったか」
「うん」
「蒼真の着る?」
「大丈夫、これでいい」
「ふーんそう」
「え!あいつだけずるい!俺も兄ちゃんの服着たい!」
「こら、あいつだなんて言っちゃいけません、それなら1人で入れ」
「えー!」
「じゃ、風呂はいってくるわ」
「いってらっしゃい」
風呂へと向かう二人を見送りソファに座る。そこに月嶋のお母さんが座ってくる。
「ねね、佐野くん」
「なんでしょう?」
「佐野くんって燈也のこと好き?」
俺は予想もしなかった質問に戸惑う。
「え?」
「わかるわ、あなた燈也と話してるとき落ち着けてなかったじゃない」
「…はい」
「あの子モテるのにずっと彼女作ってないのよ」
「あ、聞いたことある」
「なんでかは知ってる?」
「知らない…」
「あの子好きな子がいるのよ〜その子じゃないと嫌だって」
「好きな人がいるってのは聞いたけどそんなに長く好きなのにまだ付き合ってなかったんですね」
「あの子告白ってなると言えなくなるみたいよ」
「へえ〜」
なんか俺に似てるな…
「あの子ったら中学校の頃一時期不登校だったのよ」
「え、そうなんですね。意外…」
「好きな子がいないって泣いちゃって」
ん?同じクラスになれなかったってことかな
「それでね、その子が高校では一緒になれたってなると学校が楽しみみたいでね」
月嶋にそんな一面があったなんて。知らないこともしれてちょっと近づいた気がした。
「あとは〜…」月嶋のお母さんがそう言いかけた瞬間
「なんの話してんだよ」
後ろから風呂上がりの月嶋が声を掛ける
「何ってあなたの話してあげてたの」
「あのなぁ」
「それより佐野くんどこで寝る?」
「え」
それは決められてなかったのか…
「蒼真の部屋でも私達のところでもいいわよ」
俺がどうしたもんかと悩んでいると横から
「俺の部屋でいいよ」と月嶋が言ってきた
「あんた部屋散らかってるじゃないの」
「布団敷くスペースはある」
「そう?」
ええ!?それでいい感じ!?
「てことだし部屋行こ」
「え…うん」
そして俺達は部屋についた
「あーそういえば数学のやつどする?」
すっかり忘れてた…そういえばここに来たのもそれをするためだったのに
「…ま、山本に見せてもらうか」
「でも見せてくれるのかな…」
「佐野が見せてって言えば見せてくれると思うよ」
「そうかな…」俺は正直不安だ
「それよりもっぺんゲームすっか」
「わかったよ…」
「じゃあチービィでもやる?」
「…やる」
「おっけー」
明日見せてもらえばいいから…!そう言い聞かせてゲームに没頭する
そして…
「ふあぁ…」
「あれ、友里眠い?」
「うん…ちょっと…」
「じゃあもう寝よっか」
ふと時計を見るともう夜中の2時だった。楽しい時間はあっという間だ。
「うん…じゃあ布団を…」
そう言いかけた途端部屋の電気を消される。
「まだ敷いてない」
「今度はこっち来て、一緒に寝よ」
「はぅぁっ!?」
いいんですかそんなの…でもなんで…
「お、お邪魔します…」
「いらっしゃい」
頑張れ俺…耐えるんだ…
でも意外と二人も入るんだな…ちょっと狭いがあまり気にならない。
「ね、友里」
「ん、なに?」
「友里も燈也って呼んでよ」
「えっ」
「そのほうがいいでしょ」
「え…えっと」
今まで名字で呼んでいたのを下の名前にするとなると恥ずかしい
「と、燈也…」
「なあに?」
「おやすみ…」
「もう寝ちゃう?」
「うん…」
「…じゃあさ、最後に聞きたいことあるんだけど」
「何?」
「友里って俺のこと嫌い?」
月嶋から出た言葉は思いもよらない事だった。
「嫌いじゃない…」
嫌いな訳が無い。俺知らない間に避けてたりしたっけかな
「じゃあ好き?」
「えっ…!」
「答えて?俺の事好き?」
「…うん」
俺はそう呟く。
「そっか」
流石にこれだけ近いと聞こえるらしい。あのときの言葉も結局聞かれてないのかわからないけど…
俺が考え事をしていると月嶋が俺の唇を奪う。
「!?」
それに触れて終わりではなくちょっと長い。
「おやすみ、友里」
ちょっとまってくれ、頭の整理が追いつかない…俺は混乱したまま眠りについてしまった…
翌朝…
目を覚ますと月嶋の腕の中にいた。
「お、起きた?おはよ、友里」
「お…おはよ…」
もしかしたらあれは夢かもしれない。あの月嶋が俺にキスなんて…
「もっかいちゅーする?」
「えっ?」
どうやら夢ではないみたいだ…てことは俺月嶋と…
もう一回なんてしたら死にそうだ。残念だが今回は…
「したいけどしたら死んじゃうって顔してるね」
「そ、そんなことない…」
「じゃあこれでいい?」
そう言って月嶋は俺の頭を撫でる。
「!?!?」
突然の出来事に俺はまた固まる
「じゃ、とっとと着替えて学校行こっか」
「……」
「…って二度寝しちゃった?」
「いや…寝てない…」
「じゃあ下行こっか」
「うん」
ちょうどその時弟くんが勢いよく扉を開ける
「兄ちゃんおはよー!!」
「ああ、蒼真かおはよ」
「なんで友里と兄ちゃんが一緒の布団にいんの!?」
「お前は呼び捨てすんな」
「お、俺は全然呼び捨てでも…」
「俺はやなの」
「ええ…」
「何してたの」
「別に何もしてないよな、友里」
「えっ、うん」
ついそう言ってしまった。でもキスしたなんて…
「ふーん……あ、そうそう朝ご飯できたってさ」
「お、じゃあ行くか」
月嶋に連れられながら階段を降り夕飯のときのように食卓へと向かう
「あら佐野くんおはよ」
「おはようございます」
俺は軽く頭を下げる
「燈也になにもされなかった?」
「え」
「俺がなんかやりそうみたいな言い方やめてくれるかな」
「何もされてないならいいんだけど…」
「何もされてないですよ、はは…」
「本当?だってこの子佐野くんのこと…」
「わー!もうこんな時間!早く学校いかなきゃなー!」
そのまま月嶋に引っ張られ、部屋に戻される。
「まだ7時…」
月嶋の家は学校までそう遠くはない。20分もあれば歩いても大丈夫なはずだが…
「き、着替えだな!ちょっと待ってろ」
「え、ちょ…」
俺が言い終わる前に月嶋は部屋をあとにする。そんなとき
「なあ、お前って彼女いる?」
「へ?」
前を見ると弟くんが立っていた。名前は確か
「蒼真くんどうしたの?彼女はいないけど…」
「ふーん、お前兄ちゃんのこと狙ってんだろ」
「!?そんなこと…」
「兄ちゃんは俺のだからな!」
「あはは…」俺がどう反応すればいいか困っていると
「こら、友里困らせちゃいけません」
「兄ちゃん!」
「これ、制服」
「あ、もう着替えてたんだ」
「うん、だから友里も早く着替えよ」
「うん」
「それと蒼真はもう行かなきゃじゃないか?中学校は遠いだろ」
「兄ちゃんと一緒に行く」
「遅刻したら大西先生に怒られんぞ」
「えーそれはやだ」
「じゃあ行って来い」
「はーい…」
蒼真くんは残念そうに学校へ向かった
「じゃあ着替え終わったら言えよ!」そう言って月嶋は部屋を出た。
「……」
あのときなんで俺にキスしたんだろう…好きな人いるって言ってたのに…
(そんなことより着替えよ、待たせちゃ悪いし)
「着替え終わったよ」
俺がそう言って扉を開けると月嶋はいなかった
「あれ?どこ行ったんだろ」
まさか先に行ってたり…?いや、月嶋はそんなことしないか
「あ、終わった?」
月嶋は階段を上がってくる。どうやらトイレに行っていたようだ。
「じゃあ行こ」
「うん」
俺達も家を出て学校へと向かう
「…ねぇ、俺なんかが月嶋の家泊まってよかったの?」
「ん?ダメなら泊めてねぇよ」
「そういうことじゃなくて…俺いても嬉しくないんじゃないかなって」
「なんで?めっちゃ嬉しいよ」
「でも月嶋は好きな人いるんでしょ?」
「んーいるけど」
「じゃあキスも…」
「キスは好きな人にしかしないよ」
「ふーん…!?」
え?今なんて…好きな人にしかって
「キスは嫌だった?」
「そ、そうじゃなくて…今なんて」
「嫌じゃないならいいや、ほらおいで」
月嶋は俺の手を握る。こんなところ見られたらまずいので振り払おうとしたのだが月嶋は思いの外ガッチリ握っていて振り払えない。
「あと下の名前で呼んでって言ったじゃん、苗字だとよそよそしいだろ」
「あ、はい」
「おー!カップル発見!」
前の方から聞いたことある声が聞こえる。見ると高橋が手を振っていたかと思ったら
「そんじゃ!楽しんでね!」と言って姿を消した
「え、ちょ」
「あいつ…後でお菓子取ってやる」
その言葉に思わず笑みがこぼれる。
「何笑ってんだよ」
「なんかかわいいなぁって…嫌だった?ごめん…」
「そんなことないもっと言って」
「ええ……」
「俺かわいい?」
「う、うん」
「友里もかわいいよ」
「………ありがと」
段々と生徒が多くなってきた。これだけ人がいるとちょっと話しかけづらい。それに人が増えてきたのにもかかわらず月嶋は手を離してくれないので視線が気になって仕方ない…
「あのさ…」俺が口を開こうとしたら
「よ!バカップル」と山本が話しかけてきた
「お前俺と友里が仲良くしてんの妬んでる?」
「それよりも時間やばいんじゃね」
ふと時計を見ると8時20分になりかけていた。どうやらゆっくりしすぎていたようだ。
「あと1分もない!」俺が慌てていると
「待って」月嶋が手を強く握る
「な、何?」
「どうせ間に合わないから…もっと…一緒にいたい…」
「…!」月嶋ってこんな意外な一面があったんだ…かわいい…
「まぁ…仕方ないよな…」月嶋はとても寂しそうな目をしていた。俺は月嶋の手を握り返す。
「…今日だけね」
「いいの?」シュンとした顔が少し明るくなる
「でも今日だけだよ!」
「友里ありがと〜!」月嶋は俺を強く抱きしめた
「ちょ、近い」
「あ、そうだ!文化祭一緒に回ろ!」
「え、うんいいよ」
「楽しみにしてて」
「うん」
「月嶋!佐野!遅刻だぞ!」
「げ…なんで今日に限って木村なんだよ…」
俺達はこっぴどく叱られてしまった。
でももうすぐ文化祭、楽しみだな……
「はい…」
「お母さん今日仕事でどうしても行かなきゃだから、ごめんね。」
「全然大丈夫…ゴホッゴホッ」
俺は中学に入る頃両親が離婚し、母に引き取られた。
「早めに終わらせるから!じゃあ行ってくるね。」
「いってらっしゃい…」
学校を休めるのは良いと思うだろうが意外と何もすることがない。というかできない。風邪となると目の前がフラフラで歩けないしゲームなんかもやる気になれない。何もできずただただ時間がすぎるくらいなら学校のほうが何億倍もマシ。
しかも一人っ子だし母さんも仕事で看病してくれる人はいない。
まあ仕方ない。看病のためにいちいち休んでいると稼ぎがなくなるから…
「佐野今日休みなんだ」
「風邪じゃね」
「だろうね〜、佐野ちゃんズル休みするタイプじゃないし」
「月嶋プリント届に行けば」
「なんで俺?」
「適任だから」
「……」
「あれ?でも佐野ちゃん家知ってんだっけ」
「それなら知ってる」
「さっすが〜」
「何がだよ」
そこに望月先生が来る
「お前ら席につけ〜」
高橋は軽く手を振り山本と席に戻っていった
「今日はちょっと急用で短縮授業になります」
教室は学校が短くなって歓声で溢れた。
「お前ら落ち着け、説教でせっかくの時間なくしてほしいか?」
それは嫌と言わんばかりに急に静まり返る。
「あとは最近冷えてきたから風邪には気をつけろよ!」
「はーい」
「風邪が流行ってるから気をつけろよ〜」
小学生じゃねえんだから…でも……佐野大丈夫かな。心配でそれからの話はあまり聞いていなかった。
そのままなんやかんやありホームルームも終わり授業が始まった
そして放課後。
「高橋、山本女子たちの相手頼んだ。」
俺の言葉に山本は明らかに嫌そうな顔をしたが、高橋はビシッとしている。
「あ!月嶋くん、今日って暇かな?」
そんな話をしていると早速女子が話しかけてきた。
「あー!それちびかわじゃん!」
高橋が機転を利かせ女子のカバンに付いている熊?のぬいぐるみに話題をそらした
「高橋くんちびかわ好きなの?」
「かわいいよね〜俺はシチサン好き!」
「ほんと!?私もなの!」
女子たちの相手を高橋たちに任て正解だった。
あいつらには悪いが先に帰らせてもらう。俺はバレないようにそそくさと立ち去った。ついでに佐野にも「大丈夫か?」とメッセージを送った。
そんなこんなで佐野の家に到着した。そして俺はインターホンを押す。
でもいくら待っても扉が開く気配がない。今日はもう諦めようとした瞬間…
(ガチャ)
扉が開いたかと思えば中からは顔が真っ赤になった佐野がふらふらしながらでてきた。
「たすけて…」
風邪を引いたからかいつもよりもガサガサ。それよりもまずは佐野を抱きとめた。
「大丈夫か?」
佐野は小さく首を横に振る
「親は?」
「仕事…ゴホッ」
「とりあえず家はいろ」
佐野はコクリと頷く
「飯は?」
「食べれて…ない…」
「食欲ある?」
佐野はまた頷く
(勝手に作っちゃっていいかな?)
…まあ一大事だ、そもそも勝手に家にも上がってるわけだし。
とりあえずおかゆを作ることにした。これなら俺でも作れる…はず
作ってる間に佐野の方を見る。
「熱は?」
「38℃…」
「吐いたりは?」
「してない……ゲホッゲホッ」
「……なんか手伝ってほしかったら言えよ。」
佐野は少し考えたのかちょっと間を置いてから頷いた。
そしてそうこうしている間におかゆができた。
「ほれ、あーん」
「あー」
「ど?うまい?」
「……うん」
「そっか、ほらもう一口」
「あ、ありがと」
「……どういたしまして」
そしておかゆも食べ終わり
「部屋戻るか」
「うん」
……まさか月嶋が看病しに来てくれるとは思わなかった。こんなの修学旅行以来だ。いや、もしかしたら夢なのかもしれない。こんなこと起きるわけが…そんな事を考えていると急に体が浮いたような感じがした
見ると月嶋が俺をお姫様抱っこしているようで思わず声が出た。
「え!?」
月嶋に風邪が移っても大変だ、自分で歩くと言おうとするが咳がひどく声が出なかった。
「無理しなくていいよ。どうせ俺に移るからやめろとか言うんだろ?俺あんま風邪引かないから大丈夫。」
そういう問題なんだろうか
「ついたよ」
体が浮いている感覚はなくなりベッドの感触が触れる。
「熱は?」
「朝測ったら…ゴホッ38℃だった…」
「今もっかい測ってみるか」
月嶋がそう言った途端、額にになにかが当たる感じがした。
見ると月嶋がすぐ目の前にいた。額同士を当てているようだ、急で思わず後退る。
「イデッ」
後退ったから後頭部を思い切りぶつけてしまった。
「大丈夫!?」
頭を抑え俯いていると今度は頭を撫でられた。
「ごめんな、俺のせいで」
「い、いや…別に」
好きな人からまさかこんなことをされるだなんて、思ってもいなかった。
結局、体温計を使うことにした。そして体温計には37.7℃と表示された。
「流石にまだ高いな…」
「うん…」
「ちょっとトイレ借りるな」
「うん…」
まあトイレならすぐ戻ってくるよね…さみしいが帰るわけでもない。俺は静かに待つことにしたのだがなんだかまぶたが重くなってきた…
目が覚めると時計は8時半を指していた、横では月嶋が俺のベッドに頭を乗せ寝ている。
「!?」
俺はその光景にびっくりしてまた頭をぶつけてしまう。
(月嶋が起きちゃう…!)
と思ったが思ったよりもぐっすり寝ているようだ。
明るい髪色、整った顔立ち、寝顔ですらイケメンだなんて羨ましい……
俺はそっと月嶋の頭に触れようとしたがやっぱやめた。俺にはできない。
「月嶋が彼氏なら幸せだろうな………」
そう思っていると月嶋の耳がピクッと動いた気がする。
(え………もしかして声に出てた…?)
「ん……おはよ」
「あ…お、おはよう…」
「今何時?」
「8時だよ」
「そっか、じゃあそろそろ帰るな」
月嶋はそう言って立ち上がる。それと同時にこちらへと駆け寄る大きな足音が聞こえた。
バンッと大きな音とともにドアが開き母が現れた。
「友里!ごめんね遅くなっ……て…だ、誰!?」
「あ、佐野くんのお母さんどうも」
「ん…?ってもしかして燈也くん!?」
え?なんで月嶋のこと知ってるんだ?母さんは俺の同級生は殆ど覚えれていないのに
「お久しぶりです」
「こんなにおっきくなっちゃって〜」
「え、母さん月嶋のこと知ってるの?」
「知ってるも何も小学校の頃一緒だったじゃないの」
「え!?」
今始めて知った、まさか月嶋が小学校の頃一緒だったなんて……どうりで会ったことあるような気がしたわけだ。
「あんたもしかして忘れちゃったの?」
「うん……ごめん」
「俺は全然……」
「ていうかそれなら月嶋も言ってよ、それなら思い出せたかもなのに」
「それは…そのほうが面白そうでしょ?」
「ええ…」
そうなのか…?俺にはさっぱりわからん…
「あ、そうだ。そういえば勝手におかゆ作っちゃったんですけど良かったですかね」
「え?燈也くんおかゆまで作ってくれたの!?ありがと〜!全然気にしないで!」
「そう言ってくれるとありがたいです!それじゃあ俺はこのへんで。」
「あとは任せて!気をつけてね!」
「はい」
そう言って月嶋は帰って行ってしまった
帰り道…
「………」
『月嶋が彼氏だったら幸せだろうな…』
あの言葉が頭から離れない。本人は声に出てた?って顔してたし言わないでおいたが……気になって仕方ない。
「あれ?月嶋だ〜」
俺があの事を考えていると声をかけられる。その声の方を見ると高橋がいた。
そのまま俺達は公園で少し話すことにした。
「高橋はなんでこんな時間に?」
「バイト帰り?バ先の子が俺の分の仕事するからってさ〜あまりにもしつこいから…」
「それただ給料減るだけじゃね?」
「だから渋ったんだけどねえ…まあどうせ10時までしか働けないし1時間くらい、いいかな〜」
「もう9時?」
「そーだよー」
「そっか…」
「で?どうだった?」
「何が?」
「佐野ちゃんのお見舞いに行ったんでしょ?なのにこんなに遅いって何かあったとしか思えんよ」
「…まあ親いなかったし看病はしたな」
「え?佐野ちゃん一人暮らし!?」
「なんでだよ…あいつの親仕事で忙しいんだって」
「なるほど〜」
「腹減った…」
「あ、それならこれあげる」
そういって高橋は手に持っていたビニール袋から肉まんを取り出す
「いいのか?」
「うん。2つあるしどうせすぐ食べるつもりだったから。冷めないうちに食お!」
「…毒でも入ってたり」
「しねえよ!なんで毒盛ったとか疑うの!?」
「お前が俺にくれるとは思えんかった」
「俺のことそんなやつだと思ってたの…?」
「まあ今までもらったこともないしな」
「あげたことないっけ?」
「もらったことないな」
「ふーんじゃあ初めて記念日じゃん」
高橋は自信満々に答えるが意味がわからない。
「あ、そういえばお見舞いどうだった?関係は良さげ?」
「お前には関係ないだろノンデリ」
「またまた〜照れてるんだから」
「それより喉乾いた」
「えー流石にそれは金でもくれないと」
「飲み物くれたら金やるよ」
「やだね、やるもんか」
「ケチ」
「ケチはどっちだよ」
俺は勢いよく高橋を指さし高橋は「俺だってただで買ったわけじゃないんだ」と言ってくる。それはそう。
「てか佐野ちゃんと付き合ってるの?」
「なんで急に…まだ付き合ってないけど」
高橋の方を見てそう言うと、高橋は口を開けるほどびっくりしているようだ。
「え!?まだ付き合ってないの!?告ったの?」
「告りはしたし告られもした」
「…え?どゆこと?じゃあ付き合ってるんじゃ?」
「俺の告白は失敗したし佐野の告白も告白じゃないというか…」
「んーよくわからんけどまあ、がんばれよ!」
「ありがとな、いろいろ」
「おうよ!両思い同士なんだろ?がんば!」
「まだ両思いって決まってない…」
「じゃ!」
俺の声を遮るように高橋はそそくさと帰っていく
「何なんだよ…」
そう呟いたと同時に母親からLIMEに『あんたいつまで外ほっつき歩いてんの!早く帰りなさい』とメッセージが送られてくる。
「へいへい」
することもないしとっとと帰ることにした。時刻はもう10時を過ぎている。だからか周りは閑古鳥が鳴いたように静かだ。
そして家に着き自分の部屋へと向かう。途中で母さんが「帰り遅くなるなら言ってよね」と言っていたが軽く流した。
部屋につきベッドに横たわる。俺は佐野が心配で仕方がない。LIMEでも送ろうかと思いスマホの電源をつけると同時に通知が来る。
誰かと思い確認すると佐野だった。
俺は急いで内容を確認する
『今日はありがとう』
ただそれだけだった。でもすごく嬉しかった。
俺は「全然気にしないで、暇だったし」と送る
すると佐野は突然こんなことを聞いてきた
『あれ聞こえてた?』
「あれって?」
俺はきっとあのことだとわかっていたがあえて知らないフリをする
『それならいいの、ごめんね』
「それより風邪引いてるんだから俺にLIME送ってないで寝てなよ」
『うん、心配かけてくれてありがと、おやすみ』
「おやすみ」
それで佐野との会話は終わった。そして俺は決心した。
今度の文化祭で佐野に告白するんだ。絶対に。そう決めたのだった。
数日後…
「おはよ!」
「あ、月嶋……おはよ」
佐野の風邪も治り、俺の体には何も異常がなくよかった。
「治った?」
「うん、おかげさまで」
「そっか」
「月嶋が看病してくれたから……なんて」
「なにそれかわいい」
つい口に出してしまう。佐野は顔を真っ赤にして下を向く。それと同時に「朝からイチャイチャするだなんて幸せですね〜」と聞こえてきた。
後ろを見ると山本が蔑むような目でこちらを見つめていた。
「別にイチャイチャしてませんよ〜」
そう言って佐野を抱き寄せる。先程まで赤かった顔はさらに真っ赤に染まる。
「…でもお前のガチ恋が見てるぞ」
「じゃれてるだけだって」
「じゃれる距離感じゃねえからだよ、そもそも席隣同士だろ」
「うるせえなぁ、佐野も俺じゃれてるだけだよな?」
「え?あ、うん…」
「ほらー佐野もそう言ってんじゃん」
「あーはいはい、そうですか」
山本はそう言いながら自分の席へ戻っていく。
「なにあれ……」
俺が呆然としていると
「ち…近い……」
佐野が小さい声でそう言ってくる。顔はよく見えないが耳はまだ赤いままだ。
「ほんとかわいいなお前」
「う、うるさい……」
「まあ嫌ならいいよ」
そう言って佐野を開放する。佐野はちょっとびっくりしたような顔をしていた。
「ん?どうかした?」
「…いや、何でも」
「ふーん……ホントはもっと一緒が良かったとか?」
「!?そんなこと…」
佐野の顔はまたもや赤くなる。わかりやすいなぁ…
俺がその様子に微笑んでいると学校のチャイムが鳴り、ホームルームが始まる。どうやら今日は文化祭の話をするようだ
「――そして今年ももうすぐ文化祭だな!あれしたいとかあるやついるか?」
望月先生のその声に手を挙げる者はいない。
「なにもないのか?あまり時間ないんだが…」
その時1人の男子が手を挙げた
「メイド喫茶とかどうすか?」
その声に女子は「いいじゃ〜ん男子に着せよ!」という。
(佐野のメイド服…)
いいじゃん、メイド喫茶
先生は「まだ決まったわけじゃないからな」と少し苦笑いする
その後の時間でも意見は出たが人気だったのはメイド喫茶でせっかくなら執事も入れようという提案によりこのクラスではメイド&執事喫茶をやることになった。
「じゃあ役割決めようか」
そう言って先生は黒板に色々と書き出す
「まずメイド役か、前半と後半で2人ずつの4人くらいか?」
「メイド服そんなに用意できるんですかー?」
「任せろ!俺の実家仕立て屋だから!」
「もっちーの家仕立て屋なん?意外〜」
「まあその話は置いといて、メイド役なりたい人〜…」
案の定手を挙げるやつはいない、誰も着たくないのだ。
「おいおい、それだとただの喫茶店だぞ?せっかくメイドまでつけたんだから…」
いや、これは逆にチャンスだ
「はーい、佐野くんがいいと思いまーす」
隣からは小さい声で「えっ」と聞こえた
そして大多数が「さんせーい」と口を揃える
「じゃあ、それでいいか?」
「はい…」
「それじゃあ決まりな!あと3人は…」
その後もクラスのマドンナなんかが推薦され執事役を決める。
「じゃあ執事役は…」
そんなとき女子が
「はーい!あの3人がいいと思います」
そう言って固まって話していた俺達の方を指差す
「俺はパス…」
高橋は即答した。高橋の絶対に嫌というオーラを感じたのか「じゃあ月嶋くんと山本くんがいいと思います」と言いなおす
俺は別になんでもよかったから快く了承したが山本は「俺も嫌だ」と言いかけていたのですかさず
「山本もやるってさー」と叫ぶ。
「じゃあ2人は決まりな!」
山本の冷たい目線が刺さる。すまんな、流石に俺1人は嫌かも。
執事役は案外早く決まり、他の装飾係なんかも決まったところで今日はこれで終わりとなった。
そして放課後
「やってくれたなお前」
「何が?」
「シラ切るつもりか?」
「あーね」
「ま、頑張りなよ3人とも!」と高橋が言う
「お前もやればいいのによ」
「えーヤダ俺どっちも似合わないよ」
「んー…確かに」
「でしょー?」
「そ、それより俺のメイドのほうが似合わな…」
「そんなことない」
俺は即答する。すかさず山本が俺にだけ聞こえる声で「まさか下心でやらせたんじゃ」と言ってきたので
「そんなわけあるだろ」と答えた
「うわぁ…」
「それより今日って暇?」
「なんか嫌な予感する、パス」
「俺も〜」
山本と高橋は断ってきたが…
「なにするの?」
佐野がそう聞いてきた。てっきり山本たちに続いて断るのかと思った。
「ん、ああ…勉強会?今日数学宿題出たじゃん」
今日は珍しく宿題が出た。俺は数学が大の苦手なので数学が得意な山本に教えてもらおうとしたが今日はちょっと無理そうだ…
「だから俺誘おうとしたんだな」
山本にはお見通しだったらしい。高橋も「今日バイトだから行くね」といい立ち去る
「じゃあこのまま俺の家行こっか」
「…え?」
結局山本も来ないまま佐野と二人きりで家に入る。すると出迎えたのは母と弟だった。
「おか……あら、新しいお友達?」
「まさか兄ちゃんの彼氏!?」
「ええ!?いつの間に!?」
この勝手に付き合ってることにしているのが母と弟。まあ彼氏にする人ではある。
「ええ!?か、彼…」
「まだ付き合ってねえよ」
「う、うん付き合ってはない…です」
「兄ちゃんの浮気者!」弟は泣きながら俺に抱きつく
「うっせーな…ごめんな佐野先行ってて、階段上がって奥の部屋」
「は、はい」
一旦佐野を避難させることはできた、次はこっちだ
「蒼真も離れろ、邪魔だ」
「俺兄ぢゃんと結婚するぅ゙ぅ゙ぅ゙」
全然泣き止まねえな…仕方ない…
「俺、蒼真の笑ってる顔好きだから泣き止んでほしいな」
そういった途端蒼真は泣き止む。ちょろい。
「ほんと!?」
「うん、あとあいつと用あるから邪魔しないで」
「えー」
「じゃあお前明日デザート抜きな」
「それはやだ!」
蒼真はそう言って俺から離れる。これで終わりかと思ったが今度は母さんが
「お父さんもすぐ帰るって!」
「は!?まさか電話した!?」
「息子に彼氏ができたんだものめでたいじゃない」
「だから彼氏じゃ…」と言いかけた途端勢いよく玄関の扉が開く。
「あの話は本当か!ついに燈也にも…!」
「違う!母さんたちも知ってるだろ!佐野だよ小学校一緒だった!」
「え?…あー!あの子!?」
「中学校別になって燈也が泣いてたって子か」
「バッ…声でけえよ!」
ちょうどそこに佐野が降りてきてしまった。
「「あ…」」
「君があの佐野くんか、燈也のことよろしくな」
「ふーん、兄ちゃんが宏太兄とか隼人兄以外連れてくるなんてね」
月嶋の弟は俺の方をすごい睨んでくる…
「な、なに…?」
「こら蒼真、人をジロジロ見ちゃいけません!」
俺は蒼真の頭を軽く叩く
「ごめんな、うるさかった?」
「いや、全然」
「ならいいけど…今のうちに逃げよう」
「う、うん」
俺らは隙をを見計らい部屋へと向かう
「ふう、なんとか逃げ切ったな」
「月嶋の部屋…」
あ、そういえば片付けてなかった…俺はズボラだから部屋が散らかってるんだった
「あ、ごめんな今片付ける…」
「いや、いいよ」
「…え?」
「こっちのほうが月嶋らしくて落ち着く」
「…そかじゃあこのままで」
「うん」
俺は床に座りこみ佐野を手招く
「こっちおいで」
「そこで勉強するの?」
「…なあ、佐野ってメリカ得意?」
「苦手じゃないかな」
「それってどっちだよ」
「わかんない」
「なんだそれ。ま、とりあえずメリカやろうぜ」
「え、勉強会じゃ」
「メリオカートの勉強しような」
「なるほど…」
そして俺達は宿題はすっぽかしてメリオカートに打ち込むのだった。
「ごめ、ちょっとトイレ」
「いってらっしゃい」
そして俺は部屋を出る。
佐野が俺の部屋にいる、そう考えるだけで落ち着けない
「兄ちゃんそんなとこで何してんの?」
部屋の前で考え込んでると蒼真が話しかけてきた。
「シーッ…静かにしろ」
「なにか隠して…」
「じゃあな」
俺は会話を打ち切り、部屋に戻る
「あ、おかえり」
「ただいま」
俺はゲームの続きをしようと元の場所に戻ったその時、足元に落ちていたペットボトルに足を取られた。
「うおっ」
「へ?」
目を開けると俺の下に佐野がいた。どうやら躓いた勢いで押し倒してしまったようだ。
いつもなら「ごめん」と謝っている。だが今日は違った。
せっかく両思いになれたのだから、少し大胆に…
俺は佐野に顔を近づける。佐野も少し恥ずかしそうだったが止めようとはしない。
俺の唇が佐野の唇に触れようとしたその時
「兄ちゃんスマホの充電器貸してー!」と言って蒼真が部屋の扉を勢いよく開ける
「「あ…」」
兄貴大好きな弟なもんだから当然何もされないわけもなく
「何しようとしてたの!俺にはそんなことしたことないくせに!」
「ちがっ…これは!」
「兄ちゃんのバカー!」
「ぐぬ…一緒に風呂入ってやるからそれでいいか?」
俺は蒼真を泣き止ませるために渋々交渉を持ちかける
「ほんと!?やったー!」
蒼真は先程までワンワン騒いでいたのがまるで嘘かのように一瞬で泣き止む。
「だから邪魔すんなよ、ほら充電器なら貸すから」
「はーい!」
蒼真はご機嫌そうに鼻歌を歌いながら充電器を持っていく
「ごめんな、蒼真が…」
「あ、いやなんでも…」
佐野はそう言うが少し残念そうな顔をしている。すぐに顔に出ちゃって、そんな佐野がかわいくて仕方がない。
そんなとき今度は母さんが部屋に来る
「あんたまたこんなに散らかして佐野くん困るでしょ」
「そんなことないってそれに歩けはするんだからいいだろ」
「はぁ…まぁあんた片付けしないタイプだしな〜」
「で?何?」
「ご飯できたんだけどさ、佐野くん!よかったらうちでご飯食べてかない?」
「…は?」母さんのその言葉に俺達は固まる。
「い、いえ大丈夫です」
「遠慮しないで!何なら泊まってきなさい!」
おいおい何勝手に…
そこに親父も加わる。
「いいじゃないか!泊まってけ!」
「でも着替えが…」
「それなら燈也のでいいわよ」
(俺は良くねーよ!)
でも佐野も両親に押されてしまったか
「じゃあ…お言葉に甘えて…」
了承してしまったか…俺的にはありがた迷惑だ。いざ好きな人と自分の家でお泊りとなると緊張する。
「じゃあ早速下で食べちゃいましょう」
「はーい…――」
佐野も親に連絡が取れたみたいなので階段を降り、食卓に着く。そこには今までに見たことがないようなごちそうが並んでいた
「うまそー!」と蒼真の声が漏れる
「今日どしたんこれ、いつもなら味噌汁とご飯みたいなのじゃん」
「ふふっ特別な日だもの」
「特別な日…」まさかまだ付き合ってるとでも思ってるのか
「いいんですか…?」
「いいのいいの、遠慮せずに食べて」
「それじゃあ…いただきます」
「アレルギーとか大丈夫だった?」
「はい、強いて言うなら花粉とか」
「それなら良かった、それに私も花粉症なのよ〜」
たしかに母さんの花粉症はこれでもかと言うほどひどい
「これおいしい…」
そう言って佐野が手を付けたのはローストビーフだった。めったに出てこない手の込んだ料理だ。
「でしょー?自信作なの」
「これ手作りなんですか!?すごい」
「やーんもお、また今度来てくれたとき作ってあげる」
「ほんとですか?」
そんな会話の中、俺達は黙々と食べ進める。母さんは話し出すとなかなか止まらないからだ。
そして夕飯も食べ終わり風呂に入ることとなった。
「友里先に入りな」
さり気なく下の名前で読んでみた。そしたら佐野は驚いた顔でこちらを見る。
「あ、うん」
風呂場へと向かう佐野を見送り俺は蒼真の相手をする
「兄ちゃんとお風呂〜」
「お前もう中2なんだから1人で入れよな……って聞いてないか……」
「………」
まさかあんなことになるなんて…それに初めて下の名前で呼んでもらったし月嶋の家に泊まることになるなんて思ってもいなかった。
月嶋のことが好きだと意識しているからこそドキドキして落ち着かない。
看病してもらったあとから月嶋との距離が近くなった気がした。
そんな事を考えながら俺はさっさとシャワーを終わらせ風呂場を出る
そして渡された月嶋の服、なんだか月嶋のいい匂いがする気がする。でも俺にはぶかぶかだった。
(弟くんなら身長もそんなに変わらないからそっちでもでも良かったのではないか?)
それにパンツまで…いいのか本当に
それは置いといて俺はリビングへと戻る
「あ、それやっぱぶかぶかだったか」
「うん」
「蒼真の着る?」
「大丈夫、これでいい」
「ふーんそう」
「え!あいつだけずるい!俺も兄ちゃんの服着たい!」
「こら、あいつだなんて言っちゃいけません、それなら1人で入れ」
「えー!」
「じゃ、風呂はいってくるわ」
「いってらっしゃい」
風呂へと向かう二人を見送りソファに座る。そこに月嶋のお母さんが座ってくる。
「ねね、佐野くん」
「なんでしょう?」
「佐野くんって燈也のこと好き?」
俺は予想もしなかった質問に戸惑う。
「え?」
「わかるわ、あなた燈也と話してるとき落ち着けてなかったじゃない」
「…はい」
「あの子モテるのにずっと彼女作ってないのよ」
「あ、聞いたことある」
「なんでかは知ってる?」
「知らない…」
「あの子好きな子がいるのよ〜その子じゃないと嫌だって」
「好きな人がいるってのは聞いたけどそんなに長く好きなのにまだ付き合ってなかったんですね」
「あの子告白ってなると言えなくなるみたいよ」
「へえ〜」
なんか俺に似てるな…
「あの子ったら中学校の頃一時期不登校だったのよ」
「え、そうなんですね。意外…」
「好きな子がいないって泣いちゃって」
ん?同じクラスになれなかったってことかな
「それでね、その子が高校では一緒になれたってなると学校が楽しみみたいでね」
月嶋にそんな一面があったなんて。知らないこともしれてちょっと近づいた気がした。
「あとは〜…」月嶋のお母さんがそう言いかけた瞬間
「なんの話してんだよ」
後ろから風呂上がりの月嶋が声を掛ける
「何ってあなたの話してあげてたの」
「あのなぁ」
「それより佐野くんどこで寝る?」
「え」
それは決められてなかったのか…
「蒼真の部屋でも私達のところでもいいわよ」
俺がどうしたもんかと悩んでいると横から
「俺の部屋でいいよ」と月嶋が言ってきた
「あんた部屋散らかってるじゃないの」
「布団敷くスペースはある」
「そう?」
ええ!?それでいい感じ!?
「てことだし部屋行こ」
「え…うん」
そして俺達は部屋についた
「あーそういえば数学のやつどする?」
すっかり忘れてた…そういえばここに来たのもそれをするためだったのに
「…ま、山本に見せてもらうか」
「でも見せてくれるのかな…」
「佐野が見せてって言えば見せてくれると思うよ」
「そうかな…」俺は正直不安だ
「それよりもっぺんゲームすっか」
「わかったよ…」
「じゃあチービィでもやる?」
「…やる」
「おっけー」
明日見せてもらえばいいから…!そう言い聞かせてゲームに没頭する
そして…
「ふあぁ…」
「あれ、友里眠い?」
「うん…ちょっと…」
「じゃあもう寝よっか」
ふと時計を見るともう夜中の2時だった。楽しい時間はあっという間だ。
「うん…じゃあ布団を…」
そう言いかけた途端部屋の電気を消される。
「まだ敷いてない」
「今度はこっち来て、一緒に寝よ」
「はぅぁっ!?」
いいんですかそんなの…でもなんで…
「お、お邪魔します…」
「いらっしゃい」
頑張れ俺…耐えるんだ…
でも意外と二人も入るんだな…ちょっと狭いがあまり気にならない。
「ね、友里」
「ん、なに?」
「友里も燈也って呼んでよ」
「えっ」
「そのほうがいいでしょ」
「え…えっと」
今まで名字で呼んでいたのを下の名前にするとなると恥ずかしい
「と、燈也…」
「なあに?」
「おやすみ…」
「もう寝ちゃう?」
「うん…」
「…じゃあさ、最後に聞きたいことあるんだけど」
「何?」
「友里って俺のこと嫌い?」
月嶋から出た言葉は思いもよらない事だった。
「嫌いじゃない…」
嫌いな訳が無い。俺知らない間に避けてたりしたっけかな
「じゃあ好き?」
「えっ…!」
「答えて?俺の事好き?」
「…うん」
俺はそう呟く。
「そっか」
流石にこれだけ近いと聞こえるらしい。あのときの言葉も結局聞かれてないのかわからないけど…
俺が考え事をしていると月嶋が俺の唇を奪う。
「!?」
それに触れて終わりではなくちょっと長い。
「おやすみ、友里」
ちょっとまってくれ、頭の整理が追いつかない…俺は混乱したまま眠りについてしまった…
翌朝…
目を覚ますと月嶋の腕の中にいた。
「お、起きた?おはよ、友里」
「お…おはよ…」
もしかしたらあれは夢かもしれない。あの月嶋が俺にキスなんて…
「もっかいちゅーする?」
「えっ?」
どうやら夢ではないみたいだ…てことは俺月嶋と…
もう一回なんてしたら死にそうだ。残念だが今回は…
「したいけどしたら死んじゃうって顔してるね」
「そ、そんなことない…」
「じゃあこれでいい?」
そう言って月嶋は俺の頭を撫でる。
「!?!?」
突然の出来事に俺はまた固まる
「じゃ、とっとと着替えて学校行こっか」
「……」
「…って二度寝しちゃった?」
「いや…寝てない…」
「じゃあ下行こっか」
「うん」
ちょうどその時弟くんが勢いよく扉を開ける
「兄ちゃんおはよー!!」
「ああ、蒼真かおはよ」
「なんで友里と兄ちゃんが一緒の布団にいんの!?」
「お前は呼び捨てすんな」
「お、俺は全然呼び捨てでも…」
「俺はやなの」
「ええ…」
「何してたの」
「別に何もしてないよな、友里」
「えっ、うん」
ついそう言ってしまった。でもキスしたなんて…
「ふーん……あ、そうそう朝ご飯できたってさ」
「お、じゃあ行くか」
月嶋に連れられながら階段を降り夕飯のときのように食卓へと向かう
「あら佐野くんおはよ」
「おはようございます」
俺は軽く頭を下げる
「燈也になにもされなかった?」
「え」
「俺がなんかやりそうみたいな言い方やめてくれるかな」
「何もされてないならいいんだけど…」
「何もされてないですよ、はは…」
「本当?だってこの子佐野くんのこと…」
「わー!もうこんな時間!早く学校いかなきゃなー!」
そのまま月嶋に引っ張られ、部屋に戻される。
「まだ7時…」
月嶋の家は学校までそう遠くはない。20分もあれば歩いても大丈夫なはずだが…
「き、着替えだな!ちょっと待ってろ」
「え、ちょ…」
俺が言い終わる前に月嶋は部屋をあとにする。そんなとき
「なあ、お前って彼女いる?」
「へ?」
前を見ると弟くんが立っていた。名前は確か
「蒼真くんどうしたの?彼女はいないけど…」
「ふーん、お前兄ちゃんのこと狙ってんだろ」
「!?そんなこと…」
「兄ちゃんは俺のだからな!」
「あはは…」俺がどう反応すればいいか困っていると
「こら、友里困らせちゃいけません」
「兄ちゃん!」
「これ、制服」
「あ、もう着替えてたんだ」
「うん、だから友里も早く着替えよ」
「うん」
「それと蒼真はもう行かなきゃじゃないか?中学校は遠いだろ」
「兄ちゃんと一緒に行く」
「遅刻したら大西先生に怒られんぞ」
「えーそれはやだ」
「じゃあ行って来い」
「はーい…」
蒼真くんは残念そうに学校へ向かった
「じゃあ着替え終わったら言えよ!」そう言って月嶋は部屋を出た。
「……」
あのときなんで俺にキスしたんだろう…好きな人いるって言ってたのに…
(そんなことより着替えよ、待たせちゃ悪いし)
「着替え終わったよ」
俺がそう言って扉を開けると月嶋はいなかった
「あれ?どこ行ったんだろ」
まさか先に行ってたり…?いや、月嶋はそんなことしないか
「あ、終わった?」
月嶋は階段を上がってくる。どうやらトイレに行っていたようだ。
「じゃあ行こ」
「うん」
俺達も家を出て学校へと向かう
「…ねぇ、俺なんかが月嶋の家泊まってよかったの?」
「ん?ダメなら泊めてねぇよ」
「そういうことじゃなくて…俺いても嬉しくないんじゃないかなって」
「なんで?めっちゃ嬉しいよ」
「でも月嶋は好きな人いるんでしょ?」
「んーいるけど」
「じゃあキスも…」
「キスは好きな人にしかしないよ」
「ふーん…!?」
え?今なんて…好きな人にしかって
「キスは嫌だった?」
「そ、そうじゃなくて…今なんて」
「嫌じゃないならいいや、ほらおいで」
月嶋は俺の手を握る。こんなところ見られたらまずいので振り払おうとしたのだが月嶋は思いの外ガッチリ握っていて振り払えない。
「あと下の名前で呼んでって言ったじゃん、苗字だとよそよそしいだろ」
「あ、はい」
「おー!カップル発見!」
前の方から聞いたことある声が聞こえる。見ると高橋が手を振っていたかと思ったら
「そんじゃ!楽しんでね!」と言って姿を消した
「え、ちょ」
「あいつ…後でお菓子取ってやる」
その言葉に思わず笑みがこぼれる。
「何笑ってんだよ」
「なんかかわいいなぁって…嫌だった?ごめん…」
「そんなことないもっと言って」
「ええ……」
「俺かわいい?」
「う、うん」
「友里もかわいいよ」
「………ありがと」
段々と生徒が多くなってきた。これだけ人がいるとちょっと話しかけづらい。それに人が増えてきたのにもかかわらず月嶋は手を離してくれないので視線が気になって仕方ない…
「あのさ…」俺が口を開こうとしたら
「よ!バカップル」と山本が話しかけてきた
「お前俺と友里が仲良くしてんの妬んでる?」
「それよりも時間やばいんじゃね」
ふと時計を見ると8時20分になりかけていた。どうやらゆっくりしすぎていたようだ。
「あと1分もない!」俺が慌てていると
「待って」月嶋が手を強く握る
「な、何?」
「どうせ間に合わないから…もっと…一緒にいたい…」
「…!」月嶋ってこんな意外な一面があったんだ…かわいい…
「まぁ…仕方ないよな…」月嶋はとても寂しそうな目をしていた。俺は月嶋の手を握り返す。
「…今日だけね」
「いいの?」シュンとした顔が少し明るくなる
「でも今日だけだよ!」
「友里ありがと〜!」月嶋は俺を強く抱きしめた
「ちょ、近い」
「あ、そうだ!文化祭一緒に回ろ!」
「え、うんいいよ」
「楽しみにしてて」
「うん」
「月嶋!佐野!遅刻だぞ!」
「げ…なんで今日に限って木村なんだよ…」
俺達はこっぴどく叱られてしまった。
でももうすぐ文化祭、楽しみだな……


