ちょっと肌寒い早朝。俺は大荷物を抱え、玄関の扉に手をかける。
「いってきます」
「楽しんでね」
「うん」
母さんに手を振りいざ外へ…とドアを開けた瞬間、目の前に月嶋が立っていた。
「ヒェッ!」
「ああ、悪い驚かせたか」
「だから言ったろ近いって」
「むにゃ」
後ろには呆れたような顔をする山本と眠そうな高橋がいた
「仕方ないだろ…」
「みんな来てたんだ」
「同じ班だろ?当たり前じゃん、とりあえず行こうぜ」
「月嶋が迎えに行きたいってしつこくて」
「むにゃぁ」
「え、そうなの?」
「そりゃあ佐野が一人で行けるのか心配だから…」
「一人でも行けるし」
「でも一緒に投稿したほうがさみしくないでしょ?」
「それは…そうだけど」
「まぁ、俺ら友達だもんな」
「うん…」
そうだった…俺達は何故か友達になったんだっけ…俺なんかが本当によかったのだろうか…
「着いたぞ」
「はっ!マジ!?」
学校に着いたと同時に先程まで眠そうにしていた高橋が突然元気になった。
そして続々とクラスメイトが登校し始め、女子たちからはいつものように歓声が上がる。高橋はその声で目が冷めたのか周りをキョロキョロ見回した。
「お前さっきまで寝てたろ」
「えへ、バレた?」
どうやら寝ながら登校していたらしい。やけに静かだと思っていたが寝ていたとは…というかどうやって寝ながら歩いていたのだろうか…これが夢遊病とやらなのだろうか?
「お、お前ら遅刻せず来れたのか!」
そう声をかけてきたのは望月先生だった。特に高橋はマイペースだから遅刻するもんかと思っていたらしい。
「でもこいつ寝ながら登校してたそうですよ」
「おいおい、ここでは寝るなよ」
「は~い」
(そこなんだ…)
てっきり寝ながら登校したことを注意するのかと思った…
「それじゃあ一旦校庭にな」
「はーい」
「楽しみだね」
月嶋がにこやかにこっちを見て話しかけてくる。正直眩しくて直視できない…
「うん、楽しみ」
「佐野は関西行ったことあるの?」
「いや…北海道から出たことない…」
「えーそうなの?中学は?」
「旅行先に台風来て道内だった」
「あーそうか」
「ねね、バスの座席どうする?だって」
バスの座席決め…俺達は真ん中辺りの席だそうだ。三人を見ると明らかに嫌そうな顔をしていた。
「前後左右女子ばっかじゃねえか…」
どうやら三人とも女子が近くにいるから嫌らしい。女子が嫌いというよりかは、キャーキャー言われるのが嫌みたい。
「いや、俺ら右だから前後左じゃん」
「俺窓側」
「えーずるい俺も窓側がいい」
窓側が人気らしい。三人は窓側を取り合い朝から揉めている。
俺はどちらでもいいので前の通路側に座ろうと立候補する。
「じゃあ俺通路側行くけど…」
「じゃあ俺佐野の隣」
俺が通路側に座ると言った途端月嶋がまさかの立候補をしてきた。二人を見るとあっさり認め、二人でじゃんけんを始めた。
「なんでわざわざ俺の隣?」
「?嫌ならいいけど」
「嫌じゃないけど…」
俺は隣が嫌というわけじゃない。ただ中学の頃の修学旅行で俺の隣に座るのが嫌だったのかじゃんけんが始まったのを覚えているから俺の隣を好んで座る理由がよくわからなかった。
そんな事を考えている間に二人のじゃんけんは終わり、高橋が通路側になったようだ。
朝のちょっとした集会も終わり俺達は次々とバスへ乗り込み、点呼を終えた。
「よし、全員いるな!それじゃあ出発するからシートベルト忘れずに!酔い止めあるやつは今のうちに飲むんだぞ」
「はーい」
俺は指示通り、バッグから酔い止めを取り出し飲み込んだ。
「吐きそうになったら言ってね」
それを見ていた月嶋は優しく声をかけてくれた。
「うん、でも酔い止め飲んだし大丈夫だと思う」
「そっか、でも無理すんなよ」
「うん」
月嶋は優しいな、こんな俺にも心配してくれるなんて…さすがイケメンだ…
「それじゃあ発車するから気をつけろよ」
望月先生の合図と一緒にバスは発車する。
バスの中ではいろいろなレクが始まり大いに盛り上がった。そんな時間もあっという間に過ぎ目的地へと到着した。
「大丈夫か?」
「うん、なんとか」
「二人とも早く行こ」
「おう」
そうして俺と月嶋は高橋と山本と一緒にバスを降り、みんなと一緒に飛行機へと乗り換える。
「それじゃあ班の誰か人数分の弁当取りに来てくれ」
「誰が行く?」
「あ、じゃあ俺が…」
「俺が行くよ」
このメンツでいるのもなんだか気まずいので俺が立候補しようとしたが先に月嶋が行ってしまった。
この待ち時間無言は俺にとってとても辛いから俺が行きたかった…
「…あいつ俺らが行かなくてよかったのか」
「ね〜」
どうやら二人は自分が行くのかと思っていたらしい。月嶋が自分から行くなんて珍しいんだとか…
「どういうこと?」
月嶋がそんなめんどくさがりにも見えないし…俺が知らないだけかもだけど気になったので聞いてみた。
二人からは「なんでもない」と返ってきたため、俺の気にし過ぎかとその話は忘れることにした。
「持ってきたぞ」
「あざす」
「つきちゃんありがと」
「ありがと」
「どういたしまして、それはそうと飛行機の座席どうする?」
「バスと同じでいいよ」
「じゃあ今度こそ俺が窓側ね!」
俺が意見を言う前にあっさり決まってしまった。二人のほうが月嶋と仲がいいだろうに、またそこ二人でよかったのだろうか…
「佐野も窓側がいい?」
「え、いや…俺は通路側でいい」
「そう?ならいいんだけど」
「それよりお弁当食べよ」
つい話をそらしてしまったが俺のお腹が結構でかめの音を鳴らしたからか月嶋は笑って席へとついた
恥ずかしさより食欲が勝った俺は席に着いたと同時にお弁当を開けた。中には味付けされたであろうホタテとトウキビが乗ったお弁当だった。バターの匂いも効いていて食欲がそそられる。
「いただきます!」
「どうぞ〜」
一口入った瞬間味の染みたホタテと、ご飯が合ってとても美味しかった。
「美味しい?」
「うん、月嶋も食べてみなよ」
「じゃあ俺もいただきます」
「どう?美味しいでしょ?」
「ホントだマジうめぇ」
「でしょ?」
「……」
俺がそう聞いた途端月嶋は俺を黙ったまま見つめてくる。
(…え?なんで急に黙り込んで俺の方を見つめるの…?)
「…佐野」
「ひゃい……」
もしかしてはしゃぎすぎててキモかったかな…
「ほっぺにご飯粒付いてるよ」
「ごめん……え?」
てっきり引かれるのかと思ったが違ったようだ。
「どこ?」
「右の方」
言われるがまま舌を右に伸ばそうとしたとき、月嶋の手が俺の右頬を拭った
「!?!?」
月嶋はご飯粒がついた指を舐め、何事もなかったようにご飯を食べ始めた。
幸いにもみんな弁当や外の景色に夢中で見られてはいないようだ。ファンに襲われる心配はなくなった…
「もうお腹いっぱい?」
「…え?いや、全然」
「もしかして食欲ない?」
「そういうわけじゃない…」
ただ驚いているだけだ…でも友達にならあんな事するのだろうか…?今まで友達ができたことがないからよくわかんない…
それよりかは隣の女子からの視線が痛い…
一瞬「羨ましい…」と聞こえたと思ったけどそんなことはなかったか…
「アテンションプリーズ、まもなく関西空港行きのフライトが出発いたします」
「佐野はコニバどこ回りたい?」
「えっ」
「絶叫系大丈夫?」
「うーん…絶叫系はちょっと」
絶叫系は昔一回だけ乗ったことがあるが気絶して帰ることになった思い出しかなくあまり好きではない。
「じゃあ進天堂ワールドとか行こっか」
「それってどんなの?」
「メリオとかの世界が再現されてんの、絶叫要素ないと思うし楽しめるよ」
「ほんと?じゃあそこ行きたい」
「だってさ、いいよな?」
高橋と山本からも「オッケー」と返ってきたので俺らは最初に進天堂ワールドへ行くことにした。
――およそ1時間後
「とーちゃーく!」
「疲れた…」
「みんなお疲れ様!ここから自由時間だ、貸切ではないので迷惑になる行為はしないこと!」
「はーい」
「それじゃあ班で固まってはぐれないように!時間も押してるので18時になったらここに集合!それじゃあ各自解散!」
解散の合図で多くの生徒が一斉にバラける。
一部の女子は俺らの班のところへ来て一緒に行こうと誘ってくるが三人は全部適当にあしらい、一瞬の隙をつき俺を連れて逃げ出した。
「あいつらしつこすぎ」
「自分の班で行動しろよな」
「ほんそれ…」
三人は一斉に女子たちの愚痴を垂らした。相手がめんどくさいだの彼氏いるくせにだの色々と…
「三人はなんで女子たちと話したりするの嫌なの?」
俺はモテたことがないからなんで断るのかがよくわからない。
三人は顔を合わせ一瞬黙り込んだ後、高橋が口を開いた。
「んー…嫌ってわけじゃないけど外見だけで寄ってきてんの分かりやすすぎ……っていうか?」
「そうそう、あいつら褒めてくんの顔だけだから」
「それに重いやつとかいるし」
「重い?」
「ストーカーしてきたり…バレンタインなんて血とか髪の毛入れてきたり」
「血!?」
そんなこともされるのか…モテ男も辛いんだな…
「じゃあタイプとかあるの?」
「タイプねぇ…」
月嶋と山本が悩んでいると高橋が真っ先に手を挙げた
「俺は〜優しくて金遣い荒くなさそうなやつ」
「お前ケチだもんな」
「なんだよそれ!」
「事実じゃん」
「奢るというより奢らせるタイプだもんな」
「それは…お金ないから…」
高橋が気まずそうに答える。月嶋と山本を見るとなんだか嘘つけと言わんばかりの顔をしている。
「お前だけだろこの中でバイトしてんの」
「うっ…」
「俺もたまにしてるから…」
高橋のフォローになるかはわからないが俺もバイトはやってる。同じくあまりお金はない…
「佐野ちゃんもわかってくれる?」
「わからなくもない…俺もいっぱいお金あるわけじゃないし」
「何に使ってるの?」
「それは…」
俺が言ったほうがいいか悩んでると月嶋が高橋を軽く叩いた。
「プライベートに口出してやんな」
「痛っ!DVだ!」
「何言ってんだ」
「やまちゃん〜つきちゃんが叩いてきた〜」
高橋が山本に泣きつくが山本は高橋が何を言っても「お前が悪い」の一点張りだった。
……でも平日とはいえ、やっぱり人が多く油断したらはぐれてしまいそうだ。
「人多いからはぐれんなよ、特に高橋」
「えー、そういうやまちゃんがはぐれたりして」
「…月嶋と俺はお前ほど方向音痴じゃないだろ」
「佐野ちゃんはわかんないでしょ!」
「俺は方向音痴ではない」
「だってよ」
「裏切り者!」
「裏切ってない…ていうかバイトやってて方向音痴って大丈夫なん?」
高橋は一瞬ギクッとした顔をしたが「まぁ歩き慣れてる道は流石に覚えるよ」と苦笑して答えた。
「歩き慣れてない道は迷うんだな」
「そうですけど?来たことないとこなんてわかんないよ」
確かに高橋の言ってることもわかる…俺だってみんなとはぐれてしまわないか心配だ。
俺がはぐれないか心配で俯いてるとそれに気づいた月嶋が声をかけてくれた
「…はぐれないように手繋ごっか?」
「え!?」
「そのほうが安全だろ?」
「………」
月嶋が好きだと自覚してからこういうのは余計しにくくなってしまった…
本当は繋ぎたい気持ちもあるけど…今繋いだら理性が持たなくなるかもしれない…
「人多いし…」
「?だからはぐれないようにするんだろ?」
「うっ…でも…」
俺がなんとか断ろうと言葉を出そうとしている間に進天堂ワールドへ着いたようだ。
着いたと同時に高橋が無邪気な子供のように真っ先に出入り口へと走った。
「おーい、いったそばからはぐれんな」
「早く来いよ〜時間ないんだから」
たしかに時間も短いし…と思い俺達も急いで高橋の方へと向かった。
進天堂ワールドの入口は土管になっていて、入るとメリオが土管に入るときの音まで再現されているようだ。
中はちょっと薄暗く、人も多くてなかなか移動できなかったがついに中へと到達した。
「着いたー!」
「やべー」
出たすぐ先ではちょうどメリオたちが通りかかったようで飛び跳ねるように歓迎してくれた
「せっかくだし写真撮ろ」
月嶋は俺の腕を引っ張り、俺をメリオと月嶋の間に立たせてスマホのシャッターを切った
「えー俺らも映せよー」
「俺らもいるのに勝手にイチャイチャしないでもらえます?」
後ろから高橋と山本が不満そうに画角に入り込んでくる
「えー俺らも映せよー」
「俺らもいるのに勝手にイチャイチャしないでもらえます?」
そう言いながら高橋と山本が不満そうに画角に入り込んでくる
「いいじゃん別に」
「佐野ちゃんは嫌かもよ?」
「そ、そんなことない…むしろ…」
「でしょ?本人が嫌がってないならいいんですー」
「俺らが嫌がってるじゃん」
「今から撮るさかい、それでいいじゃろ」
「どこの方言だよ」
急な方言にみんなで顔を合わせて笑った。
…あれ、俺何か言いかけてたような…なんだっけ
「待たせてるしさっさと撮るぞ」
「はーい」
月嶋の合図でもう一度スマホのシャッターを切り、その場を後にした。
「インスタ上げようぜ」
「人多くて繋がらなそー」
「確かに」
「まあ繋がらないなら後で上げればいいだけだろ」
「佐野ちゃんも一緒に上げよ!」
「え、うん」
高橋に促され俺もスマホを取り出すが、肝心の写真は俺のスマホで撮ってないから持ってない…
俺がどうしようかと困惑しているとLIMEの通知が鳴った。
「LIMEに送っといたからそこからダウンロードしてね」
「あ…ありがとう」
「どういたしまして」
月嶋に礼をすると月嶋はフフッと微笑みかけてくる。
俺は耐えきれずすぐ目を逸らしてしまったが嫌なやつとか思われなかっただろうか…
「さっき何言いかけてたん?」
「え」
そう声をかけてきたのは山本だった。どうやら山本は俺がなにか言いかけてたのを見ていたようだ。
「別に…なんでも…それに山本には関係ないでしょ」
「んーまぁそっか、悪いな」
山本は案外すんなりと答えてくれた。
「…でもあいつもそろそろ限界だと思うよ」
「え、何?ごめん聞いてなかった」
「なんでもな…」
「お前ら何話してんの?」
話の間に入ってきたのは月嶋だった。
「ん?別になんで初日にコニバなんだろーって」
「それな、二日目以降でよくね?時間も少ねえし」
「わかるわー」
「それはそうと俺の言ってたこと聞いてなかったべ」
「うん」
俺も山本と話してて気づかなかったから申し訳なさそうに頷いた。
「さっきも言ったように時間ないからさっさと回って色んな所行こうぜって、お土産も1時間くらいは並びそうだし」
「おけ」
「わかった…」
「じゃ、決まりな」
月嶋はそう言い、俺の手を引きアトラクションの方へと走った。高橋と山本も後ろに続くように走り出す。
人混みをうまくかき分けメリオカートが舞台のアトラクションについた。
「意外と並んでないな」
「ねー、1時間待ちとか覚悟してたけど」
そう話してる月嶋たちの横の方には目を輝かせた女性陣がたむろしている。
多分3人目当てで前を譲った人もいるのだろう。俺は見えてないはず…とりあえず刺されはしなさそう。
「ねね、あのイケメン3人衆と一緒にいる子もかわいくない?」
「わかる~!」
「………」
「つきちゃんこわーい」
俺が目立たないように隠れていると高橋が月嶋に向かってそう言った。
「どうかした?あの人達なんか話してた?」
俺が質問すると月嶋がきょとんとした顔で口を開いた。
「…聞こえてなかった?」
「え?うん…まさか悪口とか?」
俺は見えてないんじゃないのか?イケメン3人衆がいるのにアイツのせいで台無しとか言われてたり…
「いやそんなことはない、ただ…高橋がタイプだって」
「マジ?やったね」
「ならよかった…」
高橋がタイプらしいお姉さんの話をしてる間に順番は回ってきて俺達はついに搭乗した。
「楽しみだね」
「うん」
このアトラクションは4人乗りで俺の隣は月嶋。後ろには高橋と山本が座った。
「俺勝手に隣座っちゃったけど大丈夫?」
「う、うん大丈夫」
ほんとはドキドキしすぎて心臓が張り裂けそうだけど…まともに楽しめるだろうか…
「そう、よかった」
暗くても月嶋が輝いて見えてしまう。前まではこんなこともなかったのに…
そうこう考えてるうちに出発の合図が鳴り車が動き出す。
アトラクション内ではARゴーグルをかけて甲羅などのアイテムを使いながら進むらしく、横にはメリオたちがカートに乗りながら並走している。
ジェットコースターや上下するやつみたいな絶叫系とは違い、このアトラクションはそこまで激しくなく俺でもたっぷり楽しめた。
ついさっき乗ったはずのアトラクションもあっという間に終わり、俺達はゴーグルを外し外へと出た。
「楽しかった?」
「うん、めっちゃ楽しかった」
そう答えれば月嶋が嬉しそうに笑った。その笑顔につられ俺にも笑みがこぼれる。
「ねね、ふたりとも!次ここ行こ!」
振り返ると高橋が地図を指差していた。山本にはすでに許可をもらってるみたいで俺達が良ければここに行くということだ。
指を指しているところを見るとどうやらお化け屋敷のようなアトラクションのようでここからもそう遠くない。
「俺はいいけど佐野は?絶叫系じゃないみたいだけど」
「あー…うんいいよ」
「おっけー!じゃあ決まりな!」
「……」
そして俺達はそのアトラクションの前に到着した。
「あんま人並んでないね」
「平日だからじゃね」
「にしてもじゃね?」
3人がまたそんな事を話している横にも女性陣がまた集まりだした。しかもさっきより多い気がする…
並んでる人が少なかったお陰ですぐ俺達の番になった。
中は真っ暗で不気味で結構怖い。
「きゃー!やまちゃん助けてー!」
「お前逆に怖いわ」
「はー!?」
「あははっ」
高橋と山本の茶番を見て少し安心した俺はつい声に出して笑ってしまった。
…とその途端
「ギャー!佐野ちゃん後ろ!!」
「え…?」
俺は高橋が指差す後ろを見るとめちゃくちゃでかいおばけが不気味にライトアップされていた。
「ぴぃっ…!!」
俺は咄嗟に近くにあった柱にしがみつく。ただなんだかちょっと柔らかいというか人間みたいというか…
俺の頭がはてなでいっぱいになっていると突然頭に何かが触れた。恐る恐る顔を上げると月嶋が俺の頭を撫でている。柱だと思ってしがみついていたのは月嶋の腕だったらしい。
「もう外出ようか?」
「!?ご、ごめん…」
俺は咄嗟に掴んでいた腕を離し、後ろへと距離を置光とした途端足がもつれ、後ろ向きに転んでしまった。
「っぶねぇ…」
地面に頭が付く前に月嶋が俺を支えてくれたようで、月嶋に起こされる。
「あ…ありがと…」
心臓の鼓動がうるさい。月嶋が何言ってるかも入ってこない。お化け屋敷の内容もまともに入ってこない。
そしていつの間にかお化け屋敷を出たみたいで太陽の明るさで目が覚めた。
「なんか佐野結構平気だったな」
「えっ、そう?」
「うん、めっちゃ無反応だった」
「高橋がキャーキャー言いすぎて入ってこなかったとか?」
「ははっ、ありそう」
「えーそんな言ってないよ」
「そうか?俺全然集中できなかった」
「それはつきちゃんの集中力がないだけ」
「なんだそれ」
俺達は顔を合わせて笑いあった。気づけば残りもわずか。俺達は急いで次のエリアへと向かった。
「ここは?」
「ハリーカッターの魔法使える場所、楽しいよ」
「ほら、佐野にもやるよ」
そう言って月嶋が渡してきたのは木の棒のようなものだった。
ハリーカッター世界の魔法の杖らしい。
「見てて、ルーモス!」
月嶋がそう唱えると街灯が突然光りだした。
「すご!魔法使えるの!?」
「そうだよ〜佐野もやってみな」
「うん、ええと…ルーモス?」
俺は街灯に向かって魔法を唱えるが特に何も起きなかった。
「あれ?違った?」
「いや、あってると思うけど……じゃあ場所変えてみるか」
「うん」
俺は月嶋に連れられ村のような場所にあった暖炉へと連れられた。
「あの暖炉に向かって『インセンディオ』って唱えてみな」
「わかった、やってみる…」
(えーっと確か……)
「インセンディオ!」
俺が勢いよくそう唱えると今度はしっかり伝わったようで暖炉に火が着いた。
「やるじゃん」
「佐野ちゃんすごーい!」
「やったね」
三人がすごくべた褒めしてきたので俺はなんだか照れくさそうに顔を隠した。
普段褒められ慣れてないからほんとはとても嬉しいけど…
「いやぁもう終わりかぁ」
楽しかった時間もあっという間に過ぎ、俺達は帰りのバスで談笑し合った。
高橋が買った珍味ビーンズをみんなで食べようということになり俺は高橋から白色のグミを一粒貰った。
口に入れるとなんか苦いような…まるで髪を洗ってきたときに口元へ流れてきたシャンプーみたいな味…
「げぇ…雑草味だ」
「俺腐った卵…」
「あ、俺スイカだ」
「やまちゃんずるい〜、佐野ちゃんはどうだった?」
「俺はシャンプーみたいな味…」
「あー、石鹸かぁ」
珍味ビーンズには石鹸味や雑草味があるのか…高橋によるとまずい味とうまい味いろんなのが合わさってるらしい。
例えばまずいのだと雑草、石鹸、腐った卵の他にも土やミミズがあるらしい。美味しい味はスイカやバナナ、マシュマロなんだとか……
ホテルに到着し集会が終わった途端、みんなは大はしゃぎで自分の部屋へと向かった。
ただ、俺達は1組なのですぐ風呂へ向かわなくてはならない。1組のみんなは急いで準備をし、だるそうに大浴場へと向かった。
「はぁ…1組って意外とハズレだよな」
「わかる〜」
「何でもかんでもトップバッターは疲れる」
「ね〜」
1組は最初こそ時短できて嬉しかったが月嶋たちが言う通り何でもかんでも最初のことが多いのでちょっと疲れる……その疲れが取れる効能とかないかな、この温泉。
「……ちょっと早いけど上がるか」
「そだね~早くトランプとかしよ」
月嶋と高橋の提案で俺達は風呂から上がり自分の部屋へと向かった。
部屋ではトランプやUNOを楽しんでいたがそんな時間もあっという間に過ぎてしまい夕食の時間になった。
「ではいただきます!」
委員長の号令でみんな一斉に夕食に手を付ける。
味噌汁もご飯も熱くもぬるくもなくてとっても美味しかった。
おかずの煮物は以外にも好評でおかわりがすぐになくなってしまった。ゼリーにはブドウが使われていてブドウが好きな俺にとってはめちゃくちゃ嬉しかった。
「では、この後は消灯時間になるだろうから早めに寝る準備は済ませろよ!」
「はーい」
「行こうぜ」
俺達はちょっと早めに広間を出て自分の部屋へと戻った。
先生の言っていた通り自由時間なんてあんまりなく、すぐ消灯時間になった
「…じゃあおやすみ」
「待て、修学旅行らしいことしよ」
「修学旅行らしいこと?」
「ふふ…じゃあさっそく………」
静まった空気に俺は息を呑む。そして高橋から出た一言は……
「好きな人、いる?」
「……え」
恋バナ…確かに修学旅行らしいか…
てっきり怖い話でもするんじゃと思ったけど
「俺はいない」
山本は即答だった。
「俺は〜やまちゃん♡」
「きも」
「ひど!」
「ハートつけてるからな、それに初日に告白するやつなんていねえよ」
「むー……じゃあ二人は?」
今度は俺らに振られる。でも俺は月嶋のことが好きなんだろうか…ってところでまだこの気持はよくわかってない。
それに今まで人を恋愛的な目で見たこともないから一応まだいないが正解なのかな……
俺が悩んでいると月嶋が先に口を開いた。
「俺はいるよ」
その言葉に俺の心はズキッとした。いや…モヤッか?
「ふーん、どんなところが好きになった?」
「……内面褒めてくれたっていうか顔だけ見てるんじゃなくて俺が頑張ってたってきちんと見てくれたところとか?」
「へぇ~なるほどね〜」
あれ…?でもそれには聞き覚えがあるような…
「佐野ちゃんは?」
「……え、俺は…まだいないかな?」
「そっかぁ」
高橋は一瞬残念そうな顔をしたが「見つかるといいね」とすかさずフォローを入れてくれた。
俺達が恋バナで盛り上がっていると出入口の方になにか気配を感じた。
恐る恐る振り返ってみればその気配の正体は木村先生だった……
「早く寝なさい」
「げっ…木村…!怪異より怖えよ!」
「お化け!」
「ぐー……」
「おばけとは何だ、山本だけじゃないか寝てるのは。あんま大声出せねえんだからとっとと寝てくれよ、俺達だって全員寝ないと休めねんだぞ」
「はいはい」
「お前らが寝るまで見張るぞ」
「高校生の青春ですよ」
「そうだそうだ、青春を奪うな〜」
「お、俺はお先に……」
木村先生の機嫌を損ねないようにと俺は一足先に目を閉じた。
その後二人がどうなったかは知らない……無事だといいけど……
「いってきます」
「楽しんでね」
「うん」
母さんに手を振りいざ外へ…とドアを開けた瞬間、目の前に月嶋が立っていた。
「ヒェッ!」
「ああ、悪い驚かせたか」
「だから言ったろ近いって」
「むにゃ」
後ろには呆れたような顔をする山本と眠そうな高橋がいた
「仕方ないだろ…」
「みんな来てたんだ」
「同じ班だろ?当たり前じゃん、とりあえず行こうぜ」
「月嶋が迎えに行きたいってしつこくて」
「むにゃぁ」
「え、そうなの?」
「そりゃあ佐野が一人で行けるのか心配だから…」
「一人でも行けるし」
「でも一緒に投稿したほうがさみしくないでしょ?」
「それは…そうだけど」
「まぁ、俺ら友達だもんな」
「うん…」
そうだった…俺達は何故か友達になったんだっけ…俺なんかが本当によかったのだろうか…
「着いたぞ」
「はっ!マジ!?」
学校に着いたと同時に先程まで眠そうにしていた高橋が突然元気になった。
そして続々とクラスメイトが登校し始め、女子たちからはいつものように歓声が上がる。高橋はその声で目が冷めたのか周りをキョロキョロ見回した。
「お前さっきまで寝てたろ」
「えへ、バレた?」
どうやら寝ながら登校していたらしい。やけに静かだと思っていたが寝ていたとは…というかどうやって寝ながら歩いていたのだろうか…これが夢遊病とやらなのだろうか?
「お、お前ら遅刻せず来れたのか!」
そう声をかけてきたのは望月先生だった。特に高橋はマイペースだから遅刻するもんかと思っていたらしい。
「でもこいつ寝ながら登校してたそうですよ」
「おいおい、ここでは寝るなよ」
「は~い」
(そこなんだ…)
てっきり寝ながら登校したことを注意するのかと思った…
「それじゃあ一旦校庭にな」
「はーい」
「楽しみだね」
月嶋がにこやかにこっちを見て話しかけてくる。正直眩しくて直視できない…
「うん、楽しみ」
「佐野は関西行ったことあるの?」
「いや…北海道から出たことない…」
「えーそうなの?中学は?」
「旅行先に台風来て道内だった」
「あーそうか」
「ねね、バスの座席どうする?だって」
バスの座席決め…俺達は真ん中辺りの席だそうだ。三人を見ると明らかに嫌そうな顔をしていた。
「前後左右女子ばっかじゃねえか…」
どうやら三人とも女子が近くにいるから嫌らしい。女子が嫌いというよりかは、キャーキャー言われるのが嫌みたい。
「いや、俺ら右だから前後左じゃん」
「俺窓側」
「えーずるい俺も窓側がいい」
窓側が人気らしい。三人は窓側を取り合い朝から揉めている。
俺はどちらでもいいので前の通路側に座ろうと立候補する。
「じゃあ俺通路側行くけど…」
「じゃあ俺佐野の隣」
俺が通路側に座ると言った途端月嶋がまさかの立候補をしてきた。二人を見るとあっさり認め、二人でじゃんけんを始めた。
「なんでわざわざ俺の隣?」
「?嫌ならいいけど」
「嫌じゃないけど…」
俺は隣が嫌というわけじゃない。ただ中学の頃の修学旅行で俺の隣に座るのが嫌だったのかじゃんけんが始まったのを覚えているから俺の隣を好んで座る理由がよくわからなかった。
そんな事を考えている間に二人のじゃんけんは終わり、高橋が通路側になったようだ。
朝のちょっとした集会も終わり俺達は次々とバスへ乗り込み、点呼を終えた。
「よし、全員いるな!それじゃあ出発するからシートベルト忘れずに!酔い止めあるやつは今のうちに飲むんだぞ」
「はーい」
俺は指示通り、バッグから酔い止めを取り出し飲み込んだ。
「吐きそうになったら言ってね」
それを見ていた月嶋は優しく声をかけてくれた。
「うん、でも酔い止め飲んだし大丈夫だと思う」
「そっか、でも無理すんなよ」
「うん」
月嶋は優しいな、こんな俺にも心配してくれるなんて…さすがイケメンだ…
「それじゃあ発車するから気をつけろよ」
望月先生の合図と一緒にバスは発車する。
バスの中ではいろいろなレクが始まり大いに盛り上がった。そんな時間もあっという間に過ぎ目的地へと到着した。
「大丈夫か?」
「うん、なんとか」
「二人とも早く行こ」
「おう」
そうして俺と月嶋は高橋と山本と一緒にバスを降り、みんなと一緒に飛行機へと乗り換える。
「それじゃあ班の誰か人数分の弁当取りに来てくれ」
「誰が行く?」
「あ、じゃあ俺が…」
「俺が行くよ」
このメンツでいるのもなんだか気まずいので俺が立候補しようとしたが先に月嶋が行ってしまった。
この待ち時間無言は俺にとってとても辛いから俺が行きたかった…
「…あいつ俺らが行かなくてよかったのか」
「ね〜」
どうやら二人は自分が行くのかと思っていたらしい。月嶋が自分から行くなんて珍しいんだとか…
「どういうこと?」
月嶋がそんなめんどくさがりにも見えないし…俺が知らないだけかもだけど気になったので聞いてみた。
二人からは「なんでもない」と返ってきたため、俺の気にし過ぎかとその話は忘れることにした。
「持ってきたぞ」
「あざす」
「つきちゃんありがと」
「ありがと」
「どういたしまして、それはそうと飛行機の座席どうする?」
「バスと同じでいいよ」
「じゃあ今度こそ俺が窓側ね!」
俺が意見を言う前にあっさり決まってしまった。二人のほうが月嶋と仲がいいだろうに、またそこ二人でよかったのだろうか…
「佐野も窓側がいい?」
「え、いや…俺は通路側でいい」
「そう?ならいいんだけど」
「それよりお弁当食べよ」
つい話をそらしてしまったが俺のお腹が結構でかめの音を鳴らしたからか月嶋は笑って席へとついた
恥ずかしさより食欲が勝った俺は席に着いたと同時にお弁当を開けた。中には味付けされたであろうホタテとトウキビが乗ったお弁当だった。バターの匂いも効いていて食欲がそそられる。
「いただきます!」
「どうぞ〜」
一口入った瞬間味の染みたホタテと、ご飯が合ってとても美味しかった。
「美味しい?」
「うん、月嶋も食べてみなよ」
「じゃあ俺もいただきます」
「どう?美味しいでしょ?」
「ホントだマジうめぇ」
「でしょ?」
「……」
俺がそう聞いた途端月嶋は俺を黙ったまま見つめてくる。
(…え?なんで急に黙り込んで俺の方を見つめるの…?)
「…佐野」
「ひゃい……」
もしかしてはしゃぎすぎててキモかったかな…
「ほっぺにご飯粒付いてるよ」
「ごめん……え?」
てっきり引かれるのかと思ったが違ったようだ。
「どこ?」
「右の方」
言われるがまま舌を右に伸ばそうとしたとき、月嶋の手が俺の右頬を拭った
「!?!?」
月嶋はご飯粒がついた指を舐め、何事もなかったようにご飯を食べ始めた。
幸いにもみんな弁当や外の景色に夢中で見られてはいないようだ。ファンに襲われる心配はなくなった…
「もうお腹いっぱい?」
「…え?いや、全然」
「もしかして食欲ない?」
「そういうわけじゃない…」
ただ驚いているだけだ…でも友達にならあんな事するのだろうか…?今まで友達ができたことがないからよくわかんない…
それよりかは隣の女子からの視線が痛い…
一瞬「羨ましい…」と聞こえたと思ったけどそんなことはなかったか…
「アテンションプリーズ、まもなく関西空港行きのフライトが出発いたします」
「佐野はコニバどこ回りたい?」
「えっ」
「絶叫系大丈夫?」
「うーん…絶叫系はちょっと」
絶叫系は昔一回だけ乗ったことがあるが気絶して帰ることになった思い出しかなくあまり好きではない。
「じゃあ進天堂ワールドとか行こっか」
「それってどんなの?」
「メリオとかの世界が再現されてんの、絶叫要素ないと思うし楽しめるよ」
「ほんと?じゃあそこ行きたい」
「だってさ、いいよな?」
高橋と山本からも「オッケー」と返ってきたので俺らは最初に進天堂ワールドへ行くことにした。
――およそ1時間後
「とーちゃーく!」
「疲れた…」
「みんなお疲れ様!ここから自由時間だ、貸切ではないので迷惑になる行為はしないこと!」
「はーい」
「それじゃあ班で固まってはぐれないように!時間も押してるので18時になったらここに集合!それじゃあ各自解散!」
解散の合図で多くの生徒が一斉にバラける。
一部の女子は俺らの班のところへ来て一緒に行こうと誘ってくるが三人は全部適当にあしらい、一瞬の隙をつき俺を連れて逃げ出した。
「あいつらしつこすぎ」
「自分の班で行動しろよな」
「ほんそれ…」
三人は一斉に女子たちの愚痴を垂らした。相手がめんどくさいだの彼氏いるくせにだの色々と…
「三人はなんで女子たちと話したりするの嫌なの?」
俺はモテたことがないからなんで断るのかがよくわからない。
三人は顔を合わせ一瞬黙り込んだ後、高橋が口を開いた。
「んー…嫌ってわけじゃないけど外見だけで寄ってきてんの分かりやすすぎ……っていうか?」
「そうそう、あいつら褒めてくんの顔だけだから」
「それに重いやつとかいるし」
「重い?」
「ストーカーしてきたり…バレンタインなんて血とか髪の毛入れてきたり」
「血!?」
そんなこともされるのか…モテ男も辛いんだな…
「じゃあタイプとかあるの?」
「タイプねぇ…」
月嶋と山本が悩んでいると高橋が真っ先に手を挙げた
「俺は〜優しくて金遣い荒くなさそうなやつ」
「お前ケチだもんな」
「なんだよそれ!」
「事実じゃん」
「奢るというより奢らせるタイプだもんな」
「それは…お金ないから…」
高橋が気まずそうに答える。月嶋と山本を見るとなんだか嘘つけと言わんばかりの顔をしている。
「お前だけだろこの中でバイトしてんの」
「うっ…」
「俺もたまにしてるから…」
高橋のフォローになるかはわからないが俺もバイトはやってる。同じくあまりお金はない…
「佐野ちゃんもわかってくれる?」
「わからなくもない…俺もいっぱいお金あるわけじゃないし」
「何に使ってるの?」
「それは…」
俺が言ったほうがいいか悩んでると月嶋が高橋を軽く叩いた。
「プライベートに口出してやんな」
「痛っ!DVだ!」
「何言ってんだ」
「やまちゃん〜つきちゃんが叩いてきた〜」
高橋が山本に泣きつくが山本は高橋が何を言っても「お前が悪い」の一点張りだった。
……でも平日とはいえ、やっぱり人が多く油断したらはぐれてしまいそうだ。
「人多いからはぐれんなよ、特に高橋」
「えー、そういうやまちゃんがはぐれたりして」
「…月嶋と俺はお前ほど方向音痴じゃないだろ」
「佐野ちゃんはわかんないでしょ!」
「俺は方向音痴ではない」
「だってよ」
「裏切り者!」
「裏切ってない…ていうかバイトやってて方向音痴って大丈夫なん?」
高橋は一瞬ギクッとした顔をしたが「まぁ歩き慣れてる道は流石に覚えるよ」と苦笑して答えた。
「歩き慣れてない道は迷うんだな」
「そうですけど?来たことないとこなんてわかんないよ」
確かに高橋の言ってることもわかる…俺だってみんなとはぐれてしまわないか心配だ。
俺がはぐれないか心配で俯いてるとそれに気づいた月嶋が声をかけてくれた
「…はぐれないように手繋ごっか?」
「え!?」
「そのほうが安全だろ?」
「………」
月嶋が好きだと自覚してからこういうのは余計しにくくなってしまった…
本当は繋ぎたい気持ちもあるけど…今繋いだら理性が持たなくなるかもしれない…
「人多いし…」
「?だからはぐれないようにするんだろ?」
「うっ…でも…」
俺がなんとか断ろうと言葉を出そうとしている間に進天堂ワールドへ着いたようだ。
着いたと同時に高橋が無邪気な子供のように真っ先に出入り口へと走った。
「おーい、いったそばからはぐれんな」
「早く来いよ〜時間ないんだから」
たしかに時間も短いし…と思い俺達も急いで高橋の方へと向かった。
進天堂ワールドの入口は土管になっていて、入るとメリオが土管に入るときの音まで再現されているようだ。
中はちょっと薄暗く、人も多くてなかなか移動できなかったがついに中へと到達した。
「着いたー!」
「やべー」
出たすぐ先ではちょうどメリオたちが通りかかったようで飛び跳ねるように歓迎してくれた
「せっかくだし写真撮ろ」
月嶋は俺の腕を引っ張り、俺をメリオと月嶋の間に立たせてスマホのシャッターを切った
「えー俺らも映せよー」
「俺らもいるのに勝手にイチャイチャしないでもらえます?」
後ろから高橋と山本が不満そうに画角に入り込んでくる
「えー俺らも映せよー」
「俺らもいるのに勝手にイチャイチャしないでもらえます?」
そう言いながら高橋と山本が不満そうに画角に入り込んでくる
「いいじゃん別に」
「佐野ちゃんは嫌かもよ?」
「そ、そんなことない…むしろ…」
「でしょ?本人が嫌がってないならいいんですー」
「俺らが嫌がってるじゃん」
「今から撮るさかい、それでいいじゃろ」
「どこの方言だよ」
急な方言にみんなで顔を合わせて笑った。
…あれ、俺何か言いかけてたような…なんだっけ
「待たせてるしさっさと撮るぞ」
「はーい」
月嶋の合図でもう一度スマホのシャッターを切り、その場を後にした。
「インスタ上げようぜ」
「人多くて繋がらなそー」
「確かに」
「まあ繋がらないなら後で上げればいいだけだろ」
「佐野ちゃんも一緒に上げよ!」
「え、うん」
高橋に促され俺もスマホを取り出すが、肝心の写真は俺のスマホで撮ってないから持ってない…
俺がどうしようかと困惑しているとLIMEの通知が鳴った。
「LIMEに送っといたからそこからダウンロードしてね」
「あ…ありがとう」
「どういたしまして」
月嶋に礼をすると月嶋はフフッと微笑みかけてくる。
俺は耐えきれずすぐ目を逸らしてしまったが嫌なやつとか思われなかっただろうか…
「さっき何言いかけてたん?」
「え」
そう声をかけてきたのは山本だった。どうやら山本は俺がなにか言いかけてたのを見ていたようだ。
「別に…なんでも…それに山本には関係ないでしょ」
「んーまぁそっか、悪いな」
山本は案外すんなりと答えてくれた。
「…でもあいつもそろそろ限界だと思うよ」
「え、何?ごめん聞いてなかった」
「なんでもな…」
「お前ら何話してんの?」
話の間に入ってきたのは月嶋だった。
「ん?別になんで初日にコニバなんだろーって」
「それな、二日目以降でよくね?時間も少ねえし」
「わかるわー」
「それはそうと俺の言ってたこと聞いてなかったべ」
「うん」
俺も山本と話してて気づかなかったから申し訳なさそうに頷いた。
「さっきも言ったように時間ないからさっさと回って色んな所行こうぜって、お土産も1時間くらいは並びそうだし」
「おけ」
「わかった…」
「じゃ、決まりな」
月嶋はそう言い、俺の手を引きアトラクションの方へと走った。高橋と山本も後ろに続くように走り出す。
人混みをうまくかき分けメリオカートが舞台のアトラクションについた。
「意外と並んでないな」
「ねー、1時間待ちとか覚悟してたけど」
そう話してる月嶋たちの横の方には目を輝かせた女性陣がたむろしている。
多分3人目当てで前を譲った人もいるのだろう。俺は見えてないはず…とりあえず刺されはしなさそう。
「ねね、あのイケメン3人衆と一緒にいる子もかわいくない?」
「わかる~!」
「………」
「つきちゃんこわーい」
俺が目立たないように隠れていると高橋が月嶋に向かってそう言った。
「どうかした?あの人達なんか話してた?」
俺が質問すると月嶋がきょとんとした顔で口を開いた。
「…聞こえてなかった?」
「え?うん…まさか悪口とか?」
俺は見えてないんじゃないのか?イケメン3人衆がいるのにアイツのせいで台無しとか言われてたり…
「いやそんなことはない、ただ…高橋がタイプだって」
「マジ?やったね」
「ならよかった…」
高橋がタイプらしいお姉さんの話をしてる間に順番は回ってきて俺達はついに搭乗した。
「楽しみだね」
「うん」
このアトラクションは4人乗りで俺の隣は月嶋。後ろには高橋と山本が座った。
「俺勝手に隣座っちゃったけど大丈夫?」
「う、うん大丈夫」
ほんとはドキドキしすぎて心臓が張り裂けそうだけど…まともに楽しめるだろうか…
「そう、よかった」
暗くても月嶋が輝いて見えてしまう。前まではこんなこともなかったのに…
そうこう考えてるうちに出発の合図が鳴り車が動き出す。
アトラクション内ではARゴーグルをかけて甲羅などのアイテムを使いながら進むらしく、横にはメリオたちがカートに乗りながら並走している。
ジェットコースターや上下するやつみたいな絶叫系とは違い、このアトラクションはそこまで激しくなく俺でもたっぷり楽しめた。
ついさっき乗ったはずのアトラクションもあっという間に終わり、俺達はゴーグルを外し外へと出た。
「楽しかった?」
「うん、めっちゃ楽しかった」
そう答えれば月嶋が嬉しそうに笑った。その笑顔につられ俺にも笑みがこぼれる。
「ねね、ふたりとも!次ここ行こ!」
振り返ると高橋が地図を指差していた。山本にはすでに許可をもらってるみたいで俺達が良ければここに行くということだ。
指を指しているところを見るとどうやらお化け屋敷のようなアトラクションのようでここからもそう遠くない。
「俺はいいけど佐野は?絶叫系じゃないみたいだけど」
「あー…うんいいよ」
「おっけー!じゃあ決まりな!」
「……」
そして俺達はそのアトラクションの前に到着した。
「あんま人並んでないね」
「平日だからじゃね」
「にしてもじゃね?」
3人がまたそんな事を話している横にも女性陣がまた集まりだした。しかもさっきより多い気がする…
並んでる人が少なかったお陰ですぐ俺達の番になった。
中は真っ暗で不気味で結構怖い。
「きゃー!やまちゃん助けてー!」
「お前逆に怖いわ」
「はー!?」
「あははっ」
高橋と山本の茶番を見て少し安心した俺はつい声に出して笑ってしまった。
…とその途端
「ギャー!佐野ちゃん後ろ!!」
「え…?」
俺は高橋が指差す後ろを見るとめちゃくちゃでかいおばけが不気味にライトアップされていた。
「ぴぃっ…!!」
俺は咄嗟に近くにあった柱にしがみつく。ただなんだかちょっと柔らかいというか人間みたいというか…
俺の頭がはてなでいっぱいになっていると突然頭に何かが触れた。恐る恐る顔を上げると月嶋が俺の頭を撫でている。柱だと思ってしがみついていたのは月嶋の腕だったらしい。
「もう外出ようか?」
「!?ご、ごめん…」
俺は咄嗟に掴んでいた腕を離し、後ろへと距離を置光とした途端足がもつれ、後ろ向きに転んでしまった。
「っぶねぇ…」
地面に頭が付く前に月嶋が俺を支えてくれたようで、月嶋に起こされる。
「あ…ありがと…」
心臓の鼓動がうるさい。月嶋が何言ってるかも入ってこない。お化け屋敷の内容もまともに入ってこない。
そしていつの間にかお化け屋敷を出たみたいで太陽の明るさで目が覚めた。
「なんか佐野結構平気だったな」
「えっ、そう?」
「うん、めっちゃ無反応だった」
「高橋がキャーキャー言いすぎて入ってこなかったとか?」
「ははっ、ありそう」
「えーそんな言ってないよ」
「そうか?俺全然集中できなかった」
「それはつきちゃんの集中力がないだけ」
「なんだそれ」
俺達は顔を合わせて笑いあった。気づけば残りもわずか。俺達は急いで次のエリアへと向かった。
「ここは?」
「ハリーカッターの魔法使える場所、楽しいよ」
「ほら、佐野にもやるよ」
そう言って月嶋が渡してきたのは木の棒のようなものだった。
ハリーカッター世界の魔法の杖らしい。
「見てて、ルーモス!」
月嶋がそう唱えると街灯が突然光りだした。
「すご!魔法使えるの!?」
「そうだよ〜佐野もやってみな」
「うん、ええと…ルーモス?」
俺は街灯に向かって魔法を唱えるが特に何も起きなかった。
「あれ?違った?」
「いや、あってると思うけど……じゃあ場所変えてみるか」
「うん」
俺は月嶋に連れられ村のような場所にあった暖炉へと連れられた。
「あの暖炉に向かって『インセンディオ』って唱えてみな」
「わかった、やってみる…」
(えーっと確か……)
「インセンディオ!」
俺が勢いよくそう唱えると今度はしっかり伝わったようで暖炉に火が着いた。
「やるじゃん」
「佐野ちゃんすごーい!」
「やったね」
三人がすごくべた褒めしてきたので俺はなんだか照れくさそうに顔を隠した。
普段褒められ慣れてないからほんとはとても嬉しいけど…
「いやぁもう終わりかぁ」
楽しかった時間もあっという間に過ぎ、俺達は帰りのバスで談笑し合った。
高橋が買った珍味ビーンズをみんなで食べようということになり俺は高橋から白色のグミを一粒貰った。
口に入れるとなんか苦いような…まるで髪を洗ってきたときに口元へ流れてきたシャンプーみたいな味…
「げぇ…雑草味だ」
「俺腐った卵…」
「あ、俺スイカだ」
「やまちゃんずるい〜、佐野ちゃんはどうだった?」
「俺はシャンプーみたいな味…」
「あー、石鹸かぁ」
珍味ビーンズには石鹸味や雑草味があるのか…高橋によるとまずい味とうまい味いろんなのが合わさってるらしい。
例えばまずいのだと雑草、石鹸、腐った卵の他にも土やミミズがあるらしい。美味しい味はスイカやバナナ、マシュマロなんだとか……
ホテルに到着し集会が終わった途端、みんなは大はしゃぎで自分の部屋へと向かった。
ただ、俺達は1組なのですぐ風呂へ向かわなくてはならない。1組のみんなは急いで準備をし、だるそうに大浴場へと向かった。
「はぁ…1組って意外とハズレだよな」
「わかる〜」
「何でもかんでもトップバッターは疲れる」
「ね〜」
1組は最初こそ時短できて嬉しかったが月嶋たちが言う通り何でもかんでも最初のことが多いのでちょっと疲れる……その疲れが取れる効能とかないかな、この温泉。
「……ちょっと早いけど上がるか」
「そだね~早くトランプとかしよ」
月嶋と高橋の提案で俺達は風呂から上がり自分の部屋へと向かった。
部屋ではトランプやUNOを楽しんでいたがそんな時間もあっという間に過ぎてしまい夕食の時間になった。
「ではいただきます!」
委員長の号令でみんな一斉に夕食に手を付ける。
味噌汁もご飯も熱くもぬるくもなくてとっても美味しかった。
おかずの煮物は以外にも好評でおかわりがすぐになくなってしまった。ゼリーにはブドウが使われていてブドウが好きな俺にとってはめちゃくちゃ嬉しかった。
「では、この後は消灯時間になるだろうから早めに寝る準備は済ませろよ!」
「はーい」
「行こうぜ」
俺達はちょっと早めに広間を出て自分の部屋へと戻った。
先生の言っていた通り自由時間なんてあんまりなく、すぐ消灯時間になった
「…じゃあおやすみ」
「待て、修学旅行らしいことしよ」
「修学旅行らしいこと?」
「ふふ…じゃあさっそく………」
静まった空気に俺は息を呑む。そして高橋から出た一言は……
「好きな人、いる?」
「……え」
恋バナ…確かに修学旅行らしいか…
てっきり怖い話でもするんじゃと思ったけど
「俺はいない」
山本は即答だった。
「俺は〜やまちゃん♡」
「きも」
「ひど!」
「ハートつけてるからな、それに初日に告白するやつなんていねえよ」
「むー……じゃあ二人は?」
今度は俺らに振られる。でも俺は月嶋のことが好きなんだろうか…ってところでまだこの気持はよくわかってない。
それに今まで人を恋愛的な目で見たこともないから一応まだいないが正解なのかな……
俺が悩んでいると月嶋が先に口を開いた。
「俺はいるよ」
その言葉に俺の心はズキッとした。いや…モヤッか?
「ふーん、どんなところが好きになった?」
「……内面褒めてくれたっていうか顔だけ見てるんじゃなくて俺が頑張ってたってきちんと見てくれたところとか?」
「へぇ~なるほどね〜」
あれ…?でもそれには聞き覚えがあるような…
「佐野ちゃんは?」
「……え、俺は…まだいないかな?」
「そっかぁ」
高橋は一瞬残念そうな顔をしたが「見つかるといいね」とすかさずフォローを入れてくれた。
俺達が恋バナで盛り上がっていると出入口の方になにか気配を感じた。
恐る恐る振り返ってみればその気配の正体は木村先生だった……
「早く寝なさい」
「げっ…木村…!怪異より怖えよ!」
「お化け!」
「ぐー……」
「おばけとは何だ、山本だけじゃないか寝てるのは。あんま大声出せねえんだからとっとと寝てくれよ、俺達だって全員寝ないと休めねんだぞ」
「はいはい」
「お前らが寝るまで見張るぞ」
「高校生の青春ですよ」
「そうだそうだ、青春を奪うな〜」
「お、俺はお先に……」
木村先生の機嫌を損ねないようにと俺は一足先に目を閉じた。
その後二人がどうなったかは知らない……無事だといいけど……


