とある日の部活動。望月先生は俺たちを集めこう言い出した
 「もうすぐ体育祭だな!部活対抗リレーだったり色々陸上部でも練習しようと思う」
 げ…体育祭…運動は俺にとって大の苦手だ。でもマネージャーだし大丈夫だよね。
 「それでだ、佐野」
 「え、俺ですか?」
 「ああ、ちょっと頼みがあるんだが」
 「はぁ…」
 「お前マネージャーだろ、マネージャーを走らせるわけにもいかないから応援係を頼みたい」
 「ええ、それってどんなことしたら……」
 応援って何をやればいいんだろう…頭にハチマキ巻いて太鼓叩いたり?それともポンポンを持って踊ったり?何をしたらいいか悩んでる俺に声をかけてきたのは月嶋だった。
 「あまりむずかしく考えなくていいんだぞ、ただ『がんばれー』って応援してるだけでいいんだから」
 「あ、うん」
 「佐野が応援してくれるなら俺めっちゃ頑張れるよ」
 月嶋の笑顔がすごく光って見える。これがイケメンパワー…
 「ありがとう…」
 「じゃ、タイム計るらしいから」
 「あ、うんじゃあストップウォッチ取ってくる」
 「気をつけてね」
 「うん」
 月嶋は優しいな…俺なんかの心配してくれて。それに俺を安心させてくれる…それにしても月嶋どこかで会ったような…
 俺はストップウォッチを手に取りゴールの場所へと向かった。
 「じゃあ100mタイム計るぞ!一人ずつ走ってこい!」
 「はーい」
 「佐野は計測、頼んだぞ。それじゃあ荒木!始め!」
 始めの合図でストップウォッチのボタンを押す
 「ゴール!記録は?」
 「あ、15秒03です」
 「げ…」
 「まぁまぁ、まだ始めたばかりだから本番までまだあるんだから!次!」
 その後もどんどんタイムを計り、ついに月嶋の番。
 「月嶋ー!いいとこ見せちゃえ〜」
 もう走り終えた高橋は俺の隣に立ち、応援を始めた。月嶋の方を見ると目が合った…気がする
 俺は月嶋に小さく手を振りタイムの計測に移った。
 「それじゃあ、始め!」
 その合図で月嶋は全速力で駆け出した。今までの人たちより段違いで速かった。
 「が、がんばれー」
 俺がそう応援したと同時に月嶋が大きくコケてしまった。
 「いっ…」
 「大丈夫!?」俺らは急いで月嶋のもとへと駆け寄った
 「派手にころんだな月嶋、佐野保健室につれてってやってくれ」
 「え、でも…」
 「計測なら俺でもできるから、俺が行くわけにもいかないし」
 「わかりました!」そう言って俺は月嶋の手を取り、起こしあげる
 「痛っ…」
 「ご、ごめん…歩ける?」
 「ああ…ちょっと肩貸して」
 「うんわかった!」
 「頼んだぞ佐野」
 「はい!」
 「………」

 あれは小学生の時だった。
 「うわっ!」
 運動会の練習中俺は派手に転んでしまった、クラスメイトや先生はすぐ集まってきた
 「大丈夫?」「立てる?」などと心配の声が上がった
 「これくらい平気」
 「そんなわけないでしょ!保健係の人保健室まで連れてって!」
 これくらいつばつければ治るっつーの
 「い、一緒に保健室行こ?」
 その時俺を保健室まで連れてったのは佐野だった。
 「痛そう…」
 みんなそう言うし…
 どうせそんなこと思ってる訳ない。俺の近くによってくる奴らは顔しか見てない。どうせこいつも…
 (は?泣いてる?)
 「何お前泣いてんだよ」
 俺が問うと
 「だって…同じ…クラスの子が怪我したなんて…俺のせいだ」
 なんでそうなんだよ…別にお前は関係なくね?
 「月嶋くん…が…一番頑張ってたからなおさら…」
 は?なんで?他にもやる気満々のやついるだろ…
 確かに俺は運動会がめちゃくちゃ楽しみだった。だから少しでも長く練習したかったのだ。
 「失礼します…」
 保健室はやけに静かだった。
 「…あれ?先生いない…」
 こんくらいの怪我ならすぐ治るってのによ…
 「じゃあ戻ろうぜ」
 俺が声をかけると
 「だめ」とボソッと言ってきた
 「ここ座って」
 「何すんの」
 「絆創膏…」
 聞いてないのかよ…まあいっかめんどくさい。
 「怪我したら無理しちゃだめ…だよ」
 なんでお前に心配されなきゃいけねえんだよ…
 「月嶋くんには一番頑張ってほしいの…」
 「は?」
 思わず口に出る
 「あ、もちろんみんなにも頑張ってほしいよ!俺運動苦手だし…でも!月嶋くんは誰よりも…頑張ってるように見える…から、だから、ちゃんと安心して練習できるようにしてほしいの…」
 俺のことちゃんと見てくれたやつは初めてだ。俺のことを考えて止めてくれるし、結構かわいい…
 あれ?なんで俺男なのに男のこいつにドキドキしてんの?
 意味わかんね…

  中学は親の仕事の都合で別々になった。中学では高橋と出会った。中学で覚えてることと言えばそれくらいだ、後は何回か告白されたくらい。俺が好きなのは佐野だし全員振ったっけ。

  山本と出会ったのは高校に入ってから。山本は初めて会ったときから今の感じだった。打切棒(ぶっきりぼう)で、大人びている。頭は俺よりもいいし容姿端麗。だけど正直どうでもよかった。
 先に話しかけてきたのは山本だった。
 「お前月嶋だっけ、よろ」
 「おう…」
 初めはこんな挨拶を交わす程度だったがいつからか親友のような関係になっていた。
 1年の頃は佐野と別々のクラスだったし他クラス同士の交流も少なく佐野がいることは知らなかった。
 このまま一生会えないのではないかとも考えた。
 そして2年になりクラス分けを見て驚いた。俺の名前が書かれたクラスに佐野友里の名前があったのだ。同じクラスに昔から好きだった人がいる。それだけで心のなかで舞い上がっていた。

 嬉しかった。だから積極的に声をかけた。本人は何されるかわかってなさそうだったけど。
 そして今に至る。今回こそは逃さない。離れてほしくない。絶対俺に惚れさせてやる。

 「こんくらいの怪我つばつければ治るから平気だって」
 「そんなわけ無いでしょ、今日はもう見学ね」
 「えー」
 「ダメだよ、無茶したら」
 にしても佐野、ちょっと声低くなったな…当たり前だけど
 「よし!できた!これで大丈夫!」
 あのときの様子が重なる。似ている。俺が佐野を好きになったきっかけに。
 見返りを求めようともせず、優しくすれば両思いに…とか変なことも考えず俺のことを本気で心配してくれている。
 「…なぁ、お前ってなんで俺の事そんなに心配するの?仲良かった訳でもないだろ。」
  どんな回答が来るかな〜と楽しみにしてた。
 「それは…月嶋が…体育祭で頑張って欲しい…から、1番一生懸命だから…怪我して走れなくなったなんて…絶対嫌だもん」
 昔とほとんど変わらない返事だ。
 ずるい、俺やっぱ佐野が好き。大好き…俺ってすごい単純なんだな…いや、佐野が俺を中まできちんと見てくれているだけか
 おもわず佐野を抱きしめた。
 「え!?何!?」
 「んー、ちょっと目眩(めまい)が?」
 「大丈夫!?」
 「大丈夫じゃないかも」
 「ええ、寝っころがる?」
 「あのさ…」
 「ん?」
 「いや、やっぱやめた」
 今じゃないよな、もっと仲が良くなってから。
 「えー気になる」
 「お前ってさ…鈍感だよな」
 「え?なんて?」
 「なんでもない、戻ろ」
 「う、うん」
 この気持ちはまだ伝えないでおこう。そう決めた。
 「じゃあ行こうぜ」
 「うん」
 俺たちは部活に戻った。

 「お、佐野と月嶋か、大丈夫だったか?」
 「はい、なんとか」
 「今日はもう繰り上げたから帰っていいぞ」
 「はーい」
 「気をつけて帰るんだぞ」
 「はい、じゃあこのまま一緒に行く?自分で歩く?」
 「んーじゃあ一緒に帰るか」
 「答えになってなくない?まぁいいけど…」
 「連れてって」
 「…仕方ないなぁ」
 甘えれるうちはとことん甘えよう。このまま進展がないより少しでも好きってアピールしたい。
 「佐野ちゃーん!月嶋ー!」
 その声の方を見ると高橋と山本が玄関で待っていた。
 「月嶋その足大丈夫?」
 「ああ、ただの擦り傷だろ明日明後日で治るさ」
 「そんなわけ無いでしょ、1週間はいるよ」
 「へーそうなんだ、詳しいね佐野」
 「マネージャーですから!」
 佐野がフフンと自慢げに答える。ドヤ顔でかわいい。
 「佐野ちゃんかわいい〜!」
 「かっ…!?かわいくなんかない…」
 「そんなことないよ」
 つい言葉が漏れる。佐野を見ると頬が少し赤く染まっていた。
 「か、帰ろ!」
 「そだね」
 「帰ろー!」
 「おう」

 そして自宅。
 「あらそれ…」
 「こけちゃいました」
 「谷口さんじゃないんだから」
 「兄ちゃん大丈夫?」
 「ああ全然?すぐ治る」
 「そう?ならいいんだけど…蒼真も燈也怪我(けが)してるんだから迷惑かけるんじゃないよ」
 「わかってるよ〜」
 「………」
 咄嗟に目眩とか言ったけどあれ引かれてないよな…
 もし「急に抱きつくとかきもい!」とか言われたらどうしよう……それに連れてって!とか子供っぽかったよな…
 佐野ってどんなやつがタイプなんだろう?クール系?かわいい系?それとも大人系?
 かわいい系だと俺より高橋のほうが女子からかわいいって言われてるし…
 思い切って聞いてみようか?いや、今はもう夜だし寝ようとしてたら迷惑か
 今日は疲れたしもう寝よう…そうして俺は眠りについた

 翌日
 「今日はグラウンド3周終わったやつから帰っていいぞ!」
 部員からは「最悪」とか言うやつがほとんどだった。ここのグラウンドは地味に広いから俺だって嫌だ。
 「月嶋は走れるか?」
 「あーまぁ、一応」
 「そうか、じゃあ1周でいいぞ!全速力でなくてもいいから無理すんなよ!体力はつけとけ!」
 「えー月嶋だけずるーい」
 「仕方ないだろ、怪我してんだから」
 「佐野ちゃんは?」
 「え、俺は走れないから…あ、でもスポーツドリンクあるから喉乾いたら来てね」
 「おー!ありがとー!」
 「無理すんなよ!」
 「じゃあ俺も走ってきますね」
 「おう!今度は転ぶなよ!」
 「それくらい気をつけますよ」
 「あ、そうだ!お前ら熱中症になったら困るからちゃんと水分補給するんだぞ!」
 「「はーい!」」
 「頑張ってね」
 佐野に応援されると一番やる気出る…早く終わらせたい気持ちもあったから俺はどんどん加速する。
 「はは、無理すんなって言われてるのに…」
 「マネージャー!喉乾いたー!」
 「あ、はーい」
 「ありがとー助かった!」
 「あと2周頑張ってね」
 「か、かわっ…はぁい…」
 「佐野、俺にもちょうだい」
 「え!もう終わったの?さっきスタートしたばっかじゃ」
 「早く終わらせたかったから」
 「そう?はい!お疲れ様!」先程のような明るい笑顔と一緒にスポーツドリンクを渡される
 「……ありがと」
 (かわいすぎんだろ…!)
 「あれ、月嶋帰らないの?」
 「うん、あいつら待つわ」
 ホントはお前を見てたいなんて言えないし…
 「そう?」
 「もう1周してこよっかな」
 「だめだよ、また怪我してほしくないから休んでて」
 「…へいへい」
 怪我してほしくないって…俺らまだそこまで仲良くもないのにそこまで心配してくれるなんて…やっぱ好きだな…
 俺が無理に入れちゃったけど今まで辞めたいだとかも言ってないし…最初の頃こそ「なんで俺が…」みたいな顔してたけど今はいつも楽しそう。一人一人に気を遣って、一生懸命身を()にして働いている。
 それに、差し入れとしてお菓子なんかを持ってきてくれる。疲れた体に甘いお菓子はとても助かる。
 夏場は食中毒になったら困るということでだいたいクッキーだけど。
 今日のスポーツドリンクはもっちーのものだろう、あの人めちゃくちゃ生徒に甘いからきっと全員分自腹で買ったんだろう。
 「二人とも終わったって、帰ろ月嶋」
 「おけ、帰ろっか」
 「うん、二人とも先行ってるから急いで行こ」
 「ん」
 「でもあの二人いたら人集りできちゃったり…」
 「だからあの二人わざと遅く走ってたろ」
 「え!そうだったの!?」
 「だろうよ、今日暑いから観客もあんまいなかったし」
 「そうなんだ、てっきり足悪くしたのかと…」
 佐野はいつも心配が先だ。俺なんかよりお人好しでよっぽど優しい。ほんとなんでモテないのかが不思議だ。だが、俺らの隣にいても誰も何も言ってる様子はない。おそらく、その性格があるから女子たちも恨めないのだろう。多分…
 「二人ともー!帰ろー!」
 「高橋元気だね…あんなに走ったのに…」
 「まぁね〜」
 「佐野が一番疲れたんじゃない?」
 「ええ?俺走ってないよ」
 「走ってないけど全員にスポドリ渡してたろ、それだけでもすげーよあんな暑い中」
 「そんなことないよ、俺いたの日陰だったし…みんなのほうがすごいよ」
 「ま、ありがと」
 「どういたしまして…」
 「?」
 なんだか佐野の様子がおかしいような気がする…気のせいだといいんだけど
 「じゃ、俺らこっちだから行くわ」
 「ばいばい」
 「ばいばーい佐野ちゃん気をつけてね〜」
 「………」
 「…月嶋?どうしたの?」
 「……あ、いやなんでもない…俺らもさっさと帰るか」
 「えー、その前にレタバの新作飲みたいから付き合ってよ」
 「はいはい」

 とりあえず学年変わるまでにはこの気持ち伝えとかないとな……