「起立、礼、お願いします!」
「よろしくお願いします」
委員長の号令とともに40人の生徒が一斉に挨拶をした。
2回目の「最後の教育」の授業が始まろうとしている。今回はどんな意味不明な授業が行われるのだろうか? この授業を受けた誰しもが意味不明だと思ったことだろう。
「はい、やりなお〜し」
「またかよ!」
担当教師の鳴瀬 光命が挨拶のやり直しを求める。
「山崎と榊が声を出していなかった」
鳴瀬は2人の生徒の名前を出して指摘する。本当に鳴瀬が全員をチェックしていたのか、適当に名前を挙げているのかは分からない。
「起立、礼、お願いします!」
「よろしくお願いします」
委員長の号令とともに2度目の挨拶をした。
「はい、よろしく」
「じゃあ、始めよう 2回目の 最後の教育を」
鳴瀬は、プリントを配る。今回のプリントには文字は書かれている。
「各自、プリントを黙読!」
鳴瀬の合図で皆が一斉にプリントを見る。
「男会社員Gさんは、仕事帰りに柄の悪い男に襲われそうになっている若い女性を見つけ助けに入ったところ、逆上した柄の悪い男に果物ナイフで腹部を刺されました。それが致命傷になり彼は36歳で一生を終えた」
プリントに書かれていた言葉は、指摘したいものばかり。会社員をわざわざ男会社員と表現しているところや主人公であろう登場人物が出てきてすぐ亡くなっていたりと。
「何か考えがあるのだろう。鳴瀬なりの……」
おそらく、僕以外の何人もの生徒がそう思ったに違いない。
「読み終わったか? まあ、読み終わってなくても始めるんだが」
「さっそく質問、男会社員Gは何故、殺されたのか?」
「……」
「代表で誰かに答えてもらうとするか?」
僕は、鳴瀬と目を合わせないようにした。当てられたくない。1回目のように変な質問をされては答えられない。
「とりあえず、工藤、起立」
鳴瀬の合図で工藤が起立した。あのどんな授業でも立たないことで有名な「立たない工藤」が教師の起立に素直に従うとは、他の授業では考えられなかった。さすがにいつものように無視することはできなかったか。
「そりゃ、会社員のやつに力がなかったからだ。強ければ殺られることはなかっただろ」
「じゃあ、工藤は男会社員Gにも非があると思うか?」
「ああ、もちろん」
工藤の回答に僕を含めクラスの何人もが呆気にとられたはずだ。これが鳴瀬の授業だからざわつかないものの、普段ならざわついているはずだ。
「なるほど。口調と態度以外は悪くない」
鳴瀬は頷いている。工藤の回答は鳴瀬的には間違いではないようだ。
「皆はどう思った?」
「男会社員Gに非がないと思ったもの挙手!」
「…………」
誰も手を挙げなかった。鳴瀬の頷きを見て皆、非があるて答えた方がこの授業では、正解だと感じ取ったからだ。僕も最初は非がないの方が正解だと思っていたが。
「正直に答えろな。こっちの方が正解だって言われそうだがらとか考えるな。そういうやつは、減点の対象になるからな」
鳴瀬の言葉を聞いて、次々に生徒が手を挙げた。その数は半分を越えていた。そりゃそうだよな。
「なるほど、じゃあそう思った理由を誰かに聞いて見るかな~ 」
僕も手を挙げていたが指名されないように、鳴瀬と目を合わせないようにした。
「誰にするかな?」
「じゃあ、榊、起立」
「はい」
「榊は、どうして男会社員Gに非がないと? そう思った理由は?」
「それは、会社員の人は若い女性を助けようとしたわけで悪いのは柄の悪い男なわけでしょ」
「なるほど、榊の意見は分かった」
「一番悪いのは柄の悪い男。それに関しては俺もそう思う。ただ男会社員Gにも非はあるのではないか?」
「まあ、あるとは思います」
「榊、簡単に意見を変えるな! 柔軟な考えを持つことは大切だが、すぐに人に流されるのは違うな!」
「簡単に流されていいのは素麺とプールくらいだ!」
鳴瀬の冗談もこんな雰囲気では笑えない。寧ろこれが冗談なのかも分からない。
「他にいないか、男会社員Gに全く非がないと思うやつ? はい、挙手!」
「…………」
「誰もいないのか? 挙手は加点になるぞ」
その言葉を聞いて十何人が手を挙げた。90点以上の高得点を出すことは難しいとしても、クラス一番になると報酬金が貰えると鳴瀬が委員長に伝えたらしい。
「他のやつにも教えてやれ」
と言われた委員長が、初回の授業後に坂田に話し、坂田が木崎に話と噂は瞬く間に広がった。
「じゃあ青山、起立」
指名された青山は起立する。「頭脳明晰の青山」という異名の彼女は、異名通りの天才。不得意な世界史以外の教科の試験はいつも彼女が最高得点。某有名大学への進学が決まっている。負けず嫌いの天才である彼女なら、鳴瀬を納得させられるか?
「会社員の男性は、仲裁に入ったわけですから、 彼の行動は間違っていません」。罰すべきは柄の悪い男の行動です。仲裁に入られて感情的になっていたとはいえ、一番愚かな行動を取ったわけですから」
「柄の悪い男が違った行動を取っておけば会社員の男性は亡くならずに済んだはずです」
「なるほど、なかなかの答えだ」
「じゃあ、論点を少し変えて1つ質問しよう」
「男会社員Gは何故、仲裁に入ったのだろう? 仲裁に入らないという行動を取ることもできたはずだが」
「それは、女性が困っていたから放っておくことが出来なかったのでは」
「俺には、そうは思えない。人は、自分自身の利益のためだけに生きていると思っている。だから男会社員Gの行動もそうにしか見えない。男会社員Gは何かしらの見返りを求めていたのではないのかと。考えてみろ? どこに見ず知らずの他人を助けるものがいると思うか?」
「今回の件は女性だった……だがこれがもし野良犬だったり亀だったりいやいや蟻だったとしよう。蟻が襲われていて助けに入る人間がこの世にいると思うか?」
「蟻を助けてもそう簡単には竜宮城には連れていってもらえないぞ」
ところどころ挟む冗談、笑えないんだよな。
「いないと断言することは出来ないと思います。助けに入る人間だっているかもしれません」
「いいや出来る。そんな人間はいたら連れてきてほしいよ。もしいたとして、そんな人間は長生きしない」
この時の鳴瀬の表情が悲しそうだったのを僕は記憶している。
「男会社員G このGは偽善者のGだと思っている。正義の味方ぶっているが、ただの偽善者だ」
「……」
意味が分からなすぎたのか、頭脳明晰の青山でさえも黙りこんでしまった。
「よし、青山座っていいぞ」
この試合の勝者は鳴瀬。
「もう少し議論したいことがあったが時間だな」
鳴瀬は左腕につけた腕時計を確認して言う。
「時間を守る、これは大切なことだ。だから、俺の授業は延長することはない」
「……50分。君たちから預かったのは50分だからな。約束は守る」
「これで、最後の教育 2回目の授業を終わりとする、はい、号令!」
「起立、礼、ありがとうございました!」
こうして2回目の 最後の教育が終わった。授業の終わりは、何故かやり直しをさせられない。みんなが声を出しているのかどうかは分からないけれど。
「よろしくお願いします」
委員長の号令とともに40人の生徒が一斉に挨拶をした。
2回目の「最後の教育」の授業が始まろうとしている。今回はどんな意味不明な授業が行われるのだろうか? この授業を受けた誰しもが意味不明だと思ったことだろう。
「はい、やりなお〜し」
「またかよ!」
担当教師の鳴瀬 光命が挨拶のやり直しを求める。
「山崎と榊が声を出していなかった」
鳴瀬は2人の生徒の名前を出して指摘する。本当に鳴瀬が全員をチェックしていたのか、適当に名前を挙げているのかは分からない。
「起立、礼、お願いします!」
「よろしくお願いします」
委員長の号令とともに2度目の挨拶をした。
「はい、よろしく」
「じゃあ、始めよう 2回目の 最後の教育を」
鳴瀬は、プリントを配る。今回のプリントには文字は書かれている。
「各自、プリントを黙読!」
鳴瀬の合図で皆が一斉にプリントを見る。
「男会社員Gさんは、仕事帰りに柄の悪い男に襲われそうになっている若い女性を見つけ助けに入ったところ、逆上した柄の悪い男に果物ナイフで腹部を刺されました。それが致命傷になり彼は36歳で一生を終えた」
プリントに書かれていた言葉は、指摘したいものばかり。会社員をわざわざ男会社員と表現しているところや主人公であろう登場人物が出てきてすぐ亡くなっていたりと。
「何か考えがあるのだろう。鳴瀬なりの……」
おそらく、僕以外の何人もの生徒がそう思ったに違いない。
「読み終わったか? まあ、読み終わってなくても始めるんだが」
「さっそく質問、男会社員Gは何故、殺されたのか?」
「……」
「代表で誰かに答えてもらうとするか?」
僕は、鳴瀬と目を合わせないようにした。当てられたくない。1回目のように変な質問をされては答えられない。
「とりあえず、工藤、起立」
鳴瀬の合図で工藤が起立した。あのどんな授業でも立たないことで有名な「立たない工藤」が教師の起立に素直に従うとは、他の授業では考えられなかった。さすがにいつものように無視することはできなかったか。
「そりゃ、会社員のやつに力がなかったからだ。強ければ殺られることはなかっただろ」
「じゃあ、工藤は男会社員Gにも非があると思うか?」
「ああ、もちろん」
工藤の回答に僕を含めクラスの何人もが呆気にとられたはずだ。これが鳴瀬の授業だからざわつかないものの、普段ならざわついているはずだ。
「なるほど。口調と態度以外は悪くない」
鳴瀬は頷いている。工藤の回答は鳴瀬的には間違いではないようだ。
「皆はどう思った?」
「男会社員Gに非がないと思ったもの挙手!」
「…………」
誰も手を挙げなかった。鳴瀬の頷きを見て皆、非があるて答えた方がこの授業では、正解だと感じ取ったからだ。僕も最初は非がないの方が正解だと思っていたが。
「正直に答えろな。こっちの方が正解だって言われそうだがらとか考えるな。そういうやつは、減点の対象になるからな」
鳴瀬の言葉を聞いて、次々に生徒が手を挙げた。その数は半分を越えていた。そりゃそうだよな。
「なるほど、じゃあそう思った理由を誰かに聞いて見るかな~ 」
僕も手を挙げていたが指名されないように、鳴瀬と目を合わせないようにした。
「誰にするかな?」
「じゃあ、榊、起立」
「はい」
「榊は、どうして男会社員Gに非がないと? そう思った理由は?」
「それは、会社員の人は若い女性を助けようとしたわけで悪いのは柄の悪い男なわけでしょ」
「なるほど、榊の意見は分かった」
「一番悪いのは柄の悪い男。それに関しては俺もそう思う。ただ男会社員Gにも非はあるのではないか?」
「まあ、あるとは思います」
「榊、簡単に意見を変えるな! 柔軟な考えを持つことは大切だが、すぐに人に流されるのは違うな!」
「簡単に流されていいのは素麺とプールくらいだ!」
鳴瀬の冗談もこんな雰囲気では笑えない。寧ろこれが冗談なのかも分からない。
「他にいないか、男会社員Gに全く非がないと思うやつ? はい、挙手!」
「…………」
「誰もいないのか? 挙手は加点になるぞ」
その言葉を聞いて十何人が手を挙げた。90点以上の高得点を出すことは難しいとしても、クラス一番になると報酬金が貰えると鳴瀬が委員長に伝えたらしい。
「他のやつにも教えてやれ」
と言われた委員長が、初回の授業後に坂田に話し、坂田が木崎に話と噂は瞬く間に広がった。
「じゃあ青山、起立」
指名された青山は起立する。「頭脳明晰の青山」という異名の彼女は、異名通りの天才。不得意な世界史以外の教科の試験はいつも彼女が最高得点。某有名大学への進学が決まっている。負けず嫌いの天才である彼女なら、鳴瀬を納得させられるか?
「会社員の男性は、仲裁に入ったわけですから、 彼の行動は間違っていません」。罰すべきは柄の悪い男の行動です。仲裁に入られて感情的になっていたとはいえ、一番愚かな行動を取ったわけですから」
「柄の悪い男が違った行動を取っておけば会社員の男性は亡くならずに済んだはずです」
「なるほど、なかなかの答えだ」
「じゃあ、論点を少し変えて1つ質問しよう」
「男会社員Gは何故、仲裁に入ったのだろう? 仲裁に入らないという行動を取ることもできたはずだが」
「それは、女性が困っていたから放っておくことが出来なかったのでは」
「俺には、そうは思えない。人は、自分自身の利益のためだけに生きていると思っている。だから男会社員Gの行動もそうにしか見えない。男会社員Gは何かしらの見返りを求めていたのではないのかと。考えてみろ? どこに見ず知らずの他人を助けるものがいると思うか?」
「今回の件は女性だった……だがこれがもし野良犬だったり亀だったりいやいや蟻だったとしよう。蟻が襲われていて助けに入る人間がこの世にいると思うか?」
「蟻を助けてもそう簡単には竜宮城には連れていってもらえないぞ」
ところどころ挟む冗談、笑えないんだよな。
「いないと断言することは出来ないと思います。助けに入る人間だっているかもしれません」
「いいや出来る。そんな人間はいたら連れてきてほしいよ。もしいたとして、そんな人間は長生きしない」
この時の鳴瀬の表情が悲しそうだったのを僕は記憶している。
「男会社員G このGは偽善者のGだと思っている。正義の味方ぶっているが、ただの偽善者だ」
「……」
意味が分からなすぎたのか、頭脳明晰の青山でさえも黙りこんでしまった。
「よし、青山座っていいぞ」
この試合の勝者は鳴瀬。
「もう少し議論したいことがあったが時間だな」
鳴瀬は左腕につけた腕時計を確認して言う。
「時間を守る、これは大切なことだ。だから、俺の授業は延長することはない」
「……50分。君たちから預かったのは50分だからな。約束は守る」
「これで、最後の教育 2回目の授業を終わりとする、はい、号令!」
「起立、礼、ありがとうございました!」
こうして2回目の 最後の教育が終わった。授業の終わりは、何故かやり直しをさせられない。みんなが声を出しているのかどうかは分からないけれど。