「あー、良く寝たぁ」
 ベッドから起き上がり、伸びをする。
 随分と寝てしまったが、今日は休日だから大丈夫だろう。
「マジか! 十時間以上寝てる……」

 いつものようにテレビのニュースを付ける。
「この町でバラバラ殺人!? 嘘だろ。気を付けないと……」

 ニュースではキャスターが全身を細かく切り刻まれた、猟奇殺人について繰り返し報道していた。
 深夜の犯行であること。執拗に全身を刻んでいることから怨恨の線で調査を進めていること。外出は控えるように、という注意喚起。テレビから様々な情報が流れてくる。
 怖くなった俺は恋人の紗季に連絡した。

「あ、紗季? 今ニュースを見たんだけど、最近は町が物騒だから気を付けろよ」
「うん、ありがと。気を付けるね」

 そこからいくつか世間話を挟んだ後、紗季は安心した様子で言った。

「良かった。もう体調は大丈夫なんだね」
「え? 体調?」
「昨日は熱が出て大変だったでしょ?」
「あれ? そうだっけ」
「嘘でしょ!? 熱で記憶が飛んだんじゃない?」
「いや、流石にそんな」
 全く記憶はなかったが、紗季は本気で心配しているようだ。

「あ、そうだ! 信二さ、日記付けてるって言ってたじゃない。見直せば思い出すかもよ」

 俺は日記を探し始めた。
 言われてみれば、日記を付けていた気がする。うろ覚えな辺り、本当に熱で記憶が飛んだのかも知れない。
 狭い部屋だ。すぐに日記は見つかった。
 ぱらぱらとめくる。我ながらマメな性格だ。ほとんど毎日付けている。
 三日前から眺めていくことにした。その頃からの記憶が曖昧だった。


 三日前。
 紗季と一緒に流星群を見に行った。
 絶好の隠れスポットを山に見つけたので、二人でそこから眺めていた。
 
 しばらくすると、隣の山に隕石が落ちたという話がネットに出回っていた。
 俺達はこっそりと様子を見に行くことにした。
 幸い、俺達がいた山からの通路は封鎖が間に合っていないようで、素通りできた。
 そこには大きなクレーターが出来ていて、まるで映画で見た光景だった。
 ちょうど誰もいなかったので、近くで眺めて満足すると、俺達はさっさと退散した。
 紗季も楽しんでいたようだし、良いデートになったと思う。
 
 家に帰ってくると、左の親指辺りが少し腫れていた。
 痛みはないが、山で虫に刺されたのだろう。


 二日前。
 朝起きると、発熱が酷かった。風邪だと思う。
 流石に仕事を休んでしまった。今日は早く寝て休日でしっかりと治そうと思う。

 そういえば、左手の腫れはすっかり引いていた。
 こっちはもう大丈夫だろう。


 ここから急に筆跡が変わっていた。
 まるで幼児が書くような、直線的で震えるような筆跡。少なくとも俺の筆跡ではない。


 昨日。
 ここに日誌を記載する。

 母星への帰還中に予定外の惑星へ来てしまった。
 母星に早く帰りたいが、このままでは難しい。
 この星を調査する必要があるだろう。

 ひとまずはこの個体に寄生したものの、分からないことが多すぎる。
 まずは宿主の生命体について調査したい。

 解剖を試みる。

「え? なんだよ、これ……?」
 ――忘レロ。


「あー、良く寝たぁ」
 ベッドから起き上がり、伸びをする。
 昨日に引き続き、随分と寝てしまったが、今日も休日だからきっと大丈夫。
「また十時間以上寝てる……」

 いつものようにテレビのニュースを付ける。
「今日もバラバラ殺人か。物騒だなぁ」

作品を評価しよう!

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作品のキーワード

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア