ーーゲーム時間、残り1時間。


わたしは結局、何も作り上げることが出来ないままゲームの残り時間は一時間を切った。


あれからわたし以外の声は聞いていない。


このままじゃ本当にこの世界に取り残される。どうにかしてこの世界から抜け出さないと……。


そう思うのに気持ちは疲れ果て、身体は動かない。


わたしの欲しいものは全て出し切ったはずなのに。


何も、この世界には残らなかった。



「わたし……どうなるの」



この世界に取り残されたら、きっとわたしはリアルな世界から跡形もなく消えていく。


わたしが生きていた証も、何もかも全部。


リアルな世界で死ぬのとはわけが違う。



『さぁ、ゲームも残り一時間です。あなたが1番ほしいもの、理想のもの。見つかりましたか?』



この状況を見ていて全てわかっているはずなのに。


分かりきったことを聞いてくる声の主はなんて意地悪なんだろう。



「……自分のほしいもの、分からない。何が1番欲しいの。自分が求めているものは全て出し切った。あなたが理想の世界を作れって言ったのに何も作れてない!」



心が壊れそうになって。


心の底から絶望しそうになって。


八つ当たりしてしまった。



『それは……ほしいものは目に見えないから』


「……目に……?」



なんかそんなことゲームが始まる前に言っていた気がする。わたし、そんなことすら忘れていた。


目に見えないもの。


それって……。



「……やっぱり、よく分からない。誰からも必要とされないわたしはやっぱりこの世界にいた方がいいのかな」


『それです。その気持ちですよ』



ヒントを言われても分からないわたし。


呟いた言葉に声の主は反応した。



『あなたのその気持ち、言葉に表してみてください。それがあなたの“目に見えないほしいもの”ですよ』



そう言われてしばらく考え込む。


わたしがほしいもの。目に見えないもの。


……わたし……誰かに必要とされたい?


……わたし……誰かに愛されたいの?



「……何となく。ほしいもの、わかった。けどもうそれはわたしにとって叶わないものだ。あなたは意地悪ね」



ようやく声の主が言っていた欲しいものがわかった気がした。


それはきっと。


“愛”。


誰かに愛されること、誰かに必要とされること。



『でも、自分の欲しいものが見つかった。あなたはこのゲームをクリアとします』


「……え?」



自分のほしいものが見つかったと話しただけなのに。その一言であっさりとゲームはクリア宣言された。


あまりにもあっけない終わりに顔を上げる。


すると、誰もいないはずなのにふわっと優しく、懐かしい香りがして。誰かがわたしを抱きしめた。



『あなたは生きて。生きてたらいいことある。……逃げ出して、ごめんね』


「あ、……え?あの……!」



懐かしい香りに包まれながら手を伸ばす。


だけどそれは……どこにも届かずに、終わった。


そして。


わたしはそのまま意識を手放した。


***

ーーピピピ、ピピピ……。


部屋に鳴り響く目覚まし時計。


ハッとして時計を見ると時刻は朝の6時30分。何だか長い眠りから目が覚めたような感覚になり、重たい身体をゆっくり起こした。


……不思議な夢を見た。


わたしが変なゲームをさせられて、自分の理想を作らされて。


何だかリアルすぎる夢を見た。


でも。心は不思議と軽くなっていて。わたしの中では“死にたい”と思わなくなっていた。


最後はよく分からない終わり方だったけど。


夢なら、納得する。



「もう少し、頑張って見ようかな」



夢のおかげで、わたしのほしいものが見つかった。わたしは生きたい。誰かに愛されたい。


その願いを叶えるためには、もっともっと頑張って生きなきゃいけない。


それなら、“生きる意味”はあるから頑張れる。


あの優しい香りを思い出しながら。


わたしは、今日も父親と戦って、孤独な日々を生き抜ける。


いつか、誰かに愛される日を願って。


新しい1日が始まった。


『……あの子の元カレ……櫻井龍央がどうなったかって?それは……ご想像にお任せしますよ……クスクス……』


部屋の中にあった写真。


その写真には……わたし一人しか、写っていなかった。



《終わり》