高校の入学式の朝、通学路ははしゃぐ新入生たちの声で賑わっていた。
慣れない制服に身を包み、うつむいて歩く僕の視界には、明け方の雨に濡れた灰色のアスファルトと、そこにちりばめられた無数の桜の花弁、そしてそれを踏みしめる自分の足先だけが映っている。
薄桃色の花弁は道行く人々に踏みにじられ、千切れて薄汚れている。桜は散るから美しい、と誰かが言ったそうだけれど、散って、踏まれて、汚されて、やがて忘れられていくのなら、最初から咲かなければいいのに、と僕は思ってしまう。
生徒玄関に貼り出されていた紙で自分のクラスを確認し、廊下を歩いて教室に入った。春の透明な朝日が射し込む明るい教室には、既にグループを作ってお喋りをしている人や、緊張気味に席に座る人、机に突っ伏して眠っている人、色んなクラスメイトがいる。それらを横目に机の間を歩き、自分の席を見つけて椅子に座ると、鞄から文庫本を取り出して読みかけのページを開いた。
僕は知っている。誰とも関わらなければ、傷付くこともない。大切なものを持たなければ、失う痛みに苦しむこともない。
桜は咲かなければ散ることもない。それと同じだ。
僕は知っているんだ。大切な人が、大好きな人が、目の前からいなくなってしまうということが、どれだけつらく、悲しいことなのかを。
慣れない制服に身を包み、うつむいて歩く僕の視界には、明け方の雨に濡れた灰色のアスファルトと、そこにちりばめられた無数の桜の花弁、そしてそれを踏みしめる自分の足先だけが映っている。
薄桃色の花弁は道行く人々に踏みにじられ、千切れて薄汚れている。桜は散るから美しい、と誰かが言ったそうだけれど、散って、踏まれて、汚されて、やがて忘れられていくのなら、最初から咲かなければいいのに、と僕は思ってしまう。
生徒玄関に貼り出されていた紙で自分のクラスを確認し、廊下を歩いて教室に入った。春の透明な朝日が射し込む明るい教室には、既にグループを作ってお喋りをしている人や、緊張気味に席に座る人、机に突っ伏して眠っている人、色んなクラスメイトがいる。それらを横目に机の間を歩き、自分の席を見つけて椅子に座ると、鞄から文庫本を取り出して読みかけのページを開いた。
僕は知っている。誰とも関わらなければ、傷付くこともない。大切なものを持たなければ、失う痛みに苦しむこともない。
桜は咲かなければ散ることもない。それと同じだ。
僕は知っているんだ。大切な人が、大好きな人が、目の前からいなくなってしまうということが、どれだけつらく、悲しいことなのかを。
