「ストーカーに、追われてるんです」
震える声で夏夜乃にすがった少女は、目に涙を溜めて助けを求めていた。
呼吸が浅く、恐怖を必死で耐えている様子に、警察官である夏夜乃は自身の正義感を刺激された。
今まさに危険から守ってもらえる相手を探し求めていた少女の、必死に伸ばされた手。夏夜乃は怖がらせないよう、その手をそっと握った。
「わかったわ。あなたは今帰るところ? だとしたら家に帰るのは危ないわね。あなたさえよければ、一度近くの交番で休まない?」
少しでも呼吸が落ち着くように、優しく声をかける。
この様子だと、すでに危険な目に遭ったことがあるのかもしれない。だとすれば、家に送り届けるだけでは危険だろう。
警察の手を離れた途端、自宅に押しかけたストーカーに殺害されるケースはいくらでもあった。
警察とて万能ではないし、できることには限りがある。
それでも、弱い人を守りたくて警官という職を選んだ夏夜乃は、できうる最大限の力を持って少女を守ろうと決めた。
夏夜乃の決意が伝わったわけではないだろうが、少女は少し安心したようにホッと息を吐く。
「はい……お願いします」
消え入りそうな声だが、しっかりと発音された言葉に夏夜乃も安堵する。
「じゃあ、行きましょう」
促して、共に近くの交番へと向かった。
夏夜乃は、この付近で不審者が度々目撃されるということで巡回している最中だった。
職務中ではあるが、市民を守るのも職務だ。
一度交番で守ってもらい、職務を終えたらもう少し詳しい事情を聞いて今後の対応を決めよう。
そう思っていた。
交番が近づいてくると、少女の足も速くなる。
交番という安全圏に、早く行きたいということだろう。
その様子に夏夜乃自身も安堵し、少し肩の力を抜く。
(でも、あそこの派出所には男性しかいなかったわよね? 大丈夫だとは思うけれど、彼女を追い詰めるようなことを言わないように釘を刺しておいた方がいいかしら)
そんな風に、意識が少女を守る事から少し逸れた瞬間だった。
ドスッ
「……え?」
誰かが、ぶつかってきた。
同時に、異物が脇腹の辺りに突き刺さる感覚。
体当たりしてきた状態の男が、近くでブツブツと呟いている。
「邪魔、すんなよ。今日は……今日こそは、ずっと一緒にいられるようにしようって……」
震えた、だがどこか粘着性を持つ言葉に夏夜乃は瞬時に理解する。
(こいつが、ストーカー!)
「っ逃げて!」
状況に未だ気付いていなかった少女の肩を押し、交番へ走るよう促す。
驚き振り返った少女の目が見開かれると、男は夏夜乃に突き刺したナイフを引き抜いた。
「ぐあっ!」
激痛と、それに伴う熱と、あふれ出る血の感覚。その先にあるものを予測して、恐怖が夏夜乃を襲った。
だが、男が少女に向かうのを見て精神力で恐怖を押さえつける。
離れていく男の腕をつかみ、引き留めた。
せめて、少女が交番に駆け込むまでは……。
その一心で、暴れる男を背負い投げし足止めする。
だが、それが精一杯だった。
受け身も取れなかった男が苦痛に呻いている間に、夏夜乃の方が力尽きる。
崩れ落ちるように倒れ、冷えたアスファルトの上にうつ伏せになった。
途端に野次馬となっていた周囲の通行人から悲鳴が上がる。その中から「救急車を!」という声も聞こえたが、間に合うだろうか。
(力が入らない……刺されたところは熱いのに、寒い……)
本格的にマズイ状況に、夏夜乃は死を覚悟する。
だが……。
(でも、駄目。死んじゃ駄目。私がここで死んだら、家族が悲しむ。……なにより、あの子が苦しんでしまう)
助けを求めて懸命にすがってきた少女。
自分が今死んでしまったら、あの子は自分が助けを求めた所為だと自身を責めるだろう。
(だから、駄目。死んじゃ、駄目……)
意思はハッキリと決まっているのに、現実は無情だ。意識がどんどん薄れていく。
薄れていく意識の中は、後悔ばかりが埋め尽くす。
(あの子の心も守りたかったのに。でも、これじゃあ守れない)
守りたかった。
守れなかった。
そんな後悔ばかりだったからだろうか。
どこからか明かりが近づき、そこから手を伸ばしてきたものの言葉に、夏夜乃は反応する。
『助けて!』
その一言に込められた強い願いを感じ取り、夏夜乃はその手を取った。
***
光るその相手は、月を司る神・カーマシャルと名乗った。
太陽を司る神・シャズハラムスの怒りで乾いていく大地を癒やし、世界を助けて欲しい、と。
聞いたことのない神の名前。
世界を助ける、などという大層な願い。
(……もしかして、早まっちゃった?)
小説やゲームのような話の展開に、現実味がない。以前弟が読んでいたマンガに、似たような展開があったような気がする。
だが、神を名乗るカーマシャルは話について行けない夏夜乃に気付くことなく話を続けた。
「このままだとシャズハラムスの怒りは全ての大地を呑み込み、乾いた土地のみとなってしまう。あなたには魂そのものに私の加護を刻みましょう。そうすれば、地上に生まれ落ちても私の力を使うことができるわ」
神と名乗るだけあって、その声には威厳が満ちている。
だが、だからといって全てを理解し、呑み込む事ができるとは限らない。
(なんとなくはわかるけれど、魂に刻むとか大丈夫なの? 神様の力を使うって、具体的にはどんな風に?)
疑問は多かったが、言葉をはさむ隙が無かった。
カーマシャルは一方的に話し終えると、夏夜乃の意思を聞くことなく「さあ、行きなさい」と促した。
その傲慢さはある意味神らしいというべきだろうか。『助けて』などと殊勝な願いをしてきたとは思えないほど、かの神は夏夜乃が言われたとおりにすることを疑いもしない。
だが、夏夜乃自身も強い反発はなかった。
(それで大丈夫なの!?)
という不満や不安はあったが、怒りまでは抱かなかった。
そうして、月の神・カーマシャルの加護を得た夏夜乃は、太陽の神・シャズハラムスが建国したと伝えられているアズハーラ帝国に、商人の娘、カディラ・シャマールとして新たな生を受けたのだった。
***
「まあ! なぜあなたが地下から出ているの!?」
従姉妹のナイーマの金切り声に近い叫びを聞き、カディラはしまった! と顔を歪めた。
ほぼ閉じ込められていると言ってもおかしくない地下の自室。日中はけして部屋から出てはいけないと伯父夫婦に言われているのだ。
ナイーマが驚きの声を上げるのも当然といったところだろう。
「ごめんなさい、地下だと本が読みづらくて……。すぐに戻るわ」
面倒ごとを避けたくて下手に出る。
見つかってしまったものはどうしようもない。ならばせめて、これ以上嫌な思いをしないためにも自室に籠もるしかないだろう。
「地下でも術を使えば明かりは取れるでしょう? ああ、失礼したわ。あなたは火が使えなかったわね」
クスクスと小馬鹿にするナイーマは、さも簡単だというように人差し指を立て、その先に小さな火を灯す。
太陽の神・シャズハラムスの加護を強く持つアズハーラ帝国の者なら誰しも使える術だ。
同じくアズハーラ帝国の生まれでありながら、火を使えぬカディラをナイーマは嘲笑する。
カディラは「そうね」と力なく笑みを浮かべ、ナイーマの横を足早に通り過ぎ、地下への階段がある方へ急いだ。
ナイーマの態度はいつものこと。一々反論しても疲れるだけなので、カディラはその場しのぎの対応しかしない。
そんなカディラの態度も気に食わない様子ではあるが、ナイーマは睨むだけでなにかを言うことはなかった。
ナイーマの目の届かぬところまで来ると、一人の少年がちょこちょこと近づいてくる。
「カディラ様、ごめんなさい! ナイーマ様は今日は買い物に行くとおっしゃっていたので、大丈夫だと思ったのですが……」
申し訳なさそうに肩を落とす少年の頭をカディラは優しく撫でた。
少しでも日に当たりたいと願うカディラに、今日は屋敷に人が少ないから大丈夫だと教えてくれたのはこの少年・スィハールだ。
小間使いとして買われた奴隷だが、カディラは弟のようにかわいがっていた。
夏夜乃だった頃の弟も、小学生くらいの頃はこんな感じだった。大きくなってからはひねくれてかわいげが無くなってしまったので、今はかつての思い出をスィハールに重ねて存分にかわいがっている。
「いいのよ、気にしないで。どうせナイーマが急に気分を変えたのでしょう? あとで伯父か伯母に文句を言われるでしょうけど、鞭打ちされるわけでも食事を抜かれるわけでもないから」
寧ろスィハールが自分の手助けをしたと知られたら、彼が鞭打たれるのは確実だ。
日中外に出られるように色々と考えてくれるのは有り難いが、ほどほどにして欲しいと思うのも正直な気持ちだった。
「でも、ちゃんと目立つ髪も隠されていたのに……。カディラ様が閉じ込められているのはその髪が原因なのでしょう? ターバンでしっかり隠しているのですから、屋敷の中くらいはいいと思うのですけど……」
不満そうなスィハールにカディラは困り笑顔を浮かべるだけに留める。
今は隠しているカディラの髪は、銀色。月の神・カーマシャルの加護を受けた者が持つ色だ。
……シャズハラムスの加護が強いこのアズハーラ帝国では、絶対に生まれない色。
通常であればその時点で母の密通を疑うだろう。だが、カディラはアズハーラ帝国出身者特有のアンバーの目も持っていた。
アンバーの目は太陽の神シャズハラムスの加護を受けている証。
つまり、カディラはシャズハラムスの加護を受けるアズハーラ帝国の者でありながら、なぜか他国の者にしか与えられないカーマシャルの加護を受けているということになる。
両親は稀少な存在だと喜んだそうだが、親族――特に伯父夫婦は不可思議な存在であるカディラを忌避した。
それでも両親が生きていれば普通の少女として生活できていたのだろうが、カディラが十歳のとき、商品の仕入れをしに行った彼らは盗賊に襲われ亡くなってしまった。
前世から受け継ぐように、今世でも弱い者を守りたいと願っていたカディラは、両親についていかなかったことを強く後悔した。
またしても守れなかったのか、と。
カーマシャルの力を使える今の自分ならば、十歳という幼さでも両親を守ることはできたはずなのに、と。
そうして落ち込んでいる間に、カディラの家であったシャマールの屋敷は商会ごと傲慢な伯父夫婦に乗っ取られてしまっていた。
古くからいる使用人を解雇し、奴隷を買い換え、全てを自分たちの都合のいいようにしてしまった。
そうして疎んじられていたカディラは、人目に触れぬよう地下の部屋から出られぬようにされてしまったのだ。
地下の自室は、鍵などはかかっていない。自由に出入りはできるが、銀の髪を見た屋敷の者達は怪物でも見るような目でカディラを見る。
自分を疎まず人として接してくれた者達は、両親と幼い頃から接していた以前の使用人や奴隷たち、そしてスィハールくらいのものだ。
このような状態で、なにを成せるというのだろうか。
世界を助けてくれと頼まれたものの、具体的な方法などは知らされていない。
今のように屋敷から出ることすら難しい状況では、自分で探すことも困難だ。
(せめて、アズハーラ帝国以外の国にしてくれればよかったのに)
と、カーマシャルを恨まずにはいられなかった。
***
その晩、闇が深くなっても伯父夫婦は文句の一つも言いに来なかった。
ナイーマの性格ならば、確実に言いつけるだろうと思っていたのだが……。
(なにか、文句を言いに来る暇も無いほど忙しい用事でもあるのかしら?)
などと楽観的に考えながら高窓から見える曇りがちな月を眺めていたときだった。
ドンドンドン!
唐突に部屋の木戸が強く叩かれる。
一瞬伯父かと思ったが、叩く音には大人の男性の力強さまではない。
ならば伯母一人だろうか、と思いながら木戸に近づくと、聞き馴染みのある幼さの残る声が聞こえた。
『カディラ様! 早く、早く出てきて!』
「スィハール?」
こんな時間に、いったいどうしたというのだろうか。
驚いたが、ただ事ではないことは確かだ。
カディラはすぐに木戸を開ける。
「スィハール、どうし――」
「逃げて下さい! お早く!」
何事かと問い質す声すら遮られ、焦った様子のスィハールに腕を引かれた。
「なっ!? スィハール?」
いくらかわいがっている年下の少年とはいえ、何の説明もなく強引にことを進めようとするのはいただけない。
非難を込めて呼び掛けると、スィハールは焦れた様子で簡潔に事情を話した。
「旦那様が、カディラ様を奴隷商に売ると言っていたのです!」
「え?」
「なんでも、昔この都で見た銀髪の少女を気に入った高官がいるとかで……その高官に気に入られたい奴隷商が情報を集めてこの屋敷にたどり着いたのだとか」
その奴隷商が伯父に交渉し、カディラを持て余していた伯父が自分を売ることを決めてしまったのだ、とスィハールは早口で説明してくれた。
「旦那様は『あのような異端の娘でも欲しがる方がいるのか。ならばさっさと売っておけばよかったな』などと言ってすぐにでもカディラ様を奴隷商に売る契約を交わしていました」
「な……」
あまりのことにクラリと目眩がした。
貧しい家であれば、仕方なしに身内を奴隷商に売ることもあるだろうが……。シャマールの家は貧しさとは縁遠い豪商の家だ。少なくとも身内を売るなどあり得ない。
疎んじていたとしても、商売に有利となるよう嫁がせる道具として扱うだろう。
だが、スィハールの言葉が真実であれば、伯父にとって自分は道具としても使えないお荷物だったらしい。
そして、それが真実であるとカディラも気付いていた。
「逃げて下さい! 今ならば旦那様たちがここに来るまで時間があります。夜ならばベールを被っていれば髪色も気付かれないでしょう」
次々と話すスィハールの右手には、大ぶりの布があった。わざわざそんなものも用意してくれていたのか。
「でも、そんなことをしたらあなたが……」
この屋敷で唯一懐いてくれた少年を心配する。
スィハールがカディラに懐いていることは屋敷の者なら誰でも知っている。自分がいなくなれば、スィハールが逃亡を手引きしたことくらいすぐに知られるだろう。
「大丈夫です。いくらなんでも、死ぬことはないでしょうから」
ケロッとした様子で何でもないことのように話すが、鞭打ちは確実だ。伯父の怒りの度合いによっては、死んでもおかしくないほどになるだろう。
では、逃げずに大人しく売られることを選ぶのか。
(その方が、良いのかもしれない)
神に直接頼まれたが、本来カディラには世界を救う義理など無い。
元より別の世界から来た魂だ。十七年この世界で過ごしたとはいえ、守りたいと思う相手はほとんどいない。
守りたかった家族は守れず、伯父たちは守りたいと思えるほど弱くはない。
今守りたいと思えるのは、自分を慕ってくれているスィハールだけだ。
今逃亡しなければ、唯一守りたいスィハールは守れる。
だが……。
「お願いです! 僕は、優しいカディラ様には幸せになってもらいたいんです!」
必死で自分なりの正義を貫き、カディラを助けようと……守ろうとしているスィハールの姿にカディラの中で閉じ込めていた何かが疼く。
親族に売られそうな、弱い自分を守ろうとするスィハールが誰かに重なった。
(ああ、この子は私だ)
前世で少女を守り切れず、今世でも両親を守れなくて封じてしまった思い。
弱い者を守りたいという強い気持ちが、スィハールの姿を見て揺り起こされた。
(……駄目。私は、ここで終わるわけにはいかない!)
世界を救えるかなどはわからない。だが、この国にも――この世界にも弱い者は多いはずだ。
今度こそ、守りたい。
今度こそ、助けたい。
夏夜乃だった頃からある、自分の芯となる思いを思い出し、カディラは自分の腕を引くスィハールの手を掴んだ。
「わかったわ、逃げる。でも、あなたも一緒よ」
酷い目に遭うのがわかっているのに置いていくことはできない。
カディラは、強い決意を持って十七年過ごした屋敷をスィハールと共に出た。
***
「この辺りなら見つからないかしら?」
地下の部屋を出て、伯父たちがいるであろう客間に近づかぬよう人気の無いところまで来た。
屋敷の裏にあたる場所で、塀はあるがここを越えられれば誰にも見つからずに屋敷を出られる。
ろくに屋敷から出たことがなく、住み慣れたはずの都だが土地勘はないため、どこへ向かえばいいのかはわからない。
だが、とにかく逃げきって国外へ逃亡できればやりようはあるだろう。
自分が疎まれ怖がられるのは、アズハーラ帝国の者でありながらカーマシャルの力しか使えないからだ。国外であれば、カーマシャルの加護を持つ者もいる。目の色さえ隠せば、なんとか生活できるだろう。
正直、自分でも甘い考えかもしれないと思った。
前世はともかく、カディラとしては箱入りの小娘でしか無いのだから。前世での常識が、この世界で通じるはずはないのだから。
本を読みある程度の知識は得ていたが、実際に外の世界を知る機会は少ない。
だがそれでも、逃げないという選択肢だけはもう無いのだ。
「でもこの塀、けっこう高いですよね? どうやって越えましょう」
「大丈夫、ここは私が……」
困った様子で塀の壁をペチペチと叩くスィハールに下がっておくように言い、カディラは地面に手をついた。
手のひらに意識を集中し、加護の力を流し込む。
太陽の神シャズハラムスの加護が火であるならば、月の神カーマシャルの加護は水だ。
魂に直接刻まれるほどの加護を得ているカディラの力なら、水をさらに変化させることもできる。
(氷なら、階段とか作れるんじゃないかしら)
前世で観た映画などを思い出しながらイメージしていく。
順調に氷の階段はできたようで、スィハールが「わぁ」と感嘆の声を上げた。
「……行くわよ」
静かに口にして、率先して進んだ。
スィハールを先に行かせて、万が一にでも割れて落ちてしまったら申し訳ない。しっかり上れるのを確認しながら先に上る。
「よし、なんとか上に……」
塀の上まで上ったところで、カディラは言葉を止めた。
塀の向こう側も同じくらいの高さしかないと思っていたが、反対側は少々崖のようになっていて思った以上の高さがあった。
思わずヒクリと頬を引きつらせるが、ここまで来たのなら後戻りはできない。
夜ということもあり地面は暗く見えづらいが、上ったときと同じように氷の階段を出せばちゃんと降りられるはずだ。
「カディラ様、これ、大丈夫ですか?」
同じく上ってきたスィハールが不安げに見上げてくる。
カディラはその不安を払拭するように笑顔を浮かべた。
「大丈夫よ、また階段を作るから」
言い終えると、軽く深呼吸をしてまた意識を集中させる。手すり部分も作りながら、一段ずつ氷の階段を作っていった。
地面が見えていれば一気に作れるのだが、よく見えない場所だと不安の方が大きい。
着地部分が失敗して、全て砕け散ってしまいでもしたらはじめからやり直しだ。
などと考えすぎてしまったからだろうか。
数段降りた先に作った段へ足を乗せた途端、ピキリと嫌な音がした。
「あっ」
マズイ、と思ったときにはすでに遅く、体重を預けていた氷の板は粉々に砕けてしまう。
ヒュッと冷たい息を吸うと同時に、カディラの体は下へと落ちていく。
「カディラ様!?」
スィハールの呼び声に応えられるわけもなく、カディラは地面との距離があまり無いことだけを祈る。
その瞬間、雲が晴れたのだろうか。
月明かりで落ちていく先が見えるようになった。
「って、ちょっ! よ、避けてー!!」
落ちた先に人の姿が見えて、カディラは叫ぶ。
だが、地面までの距離は幸か不幸かそれほど無く、真下にいた相手がよける暇も無くカディラはその人の上に落ちてしまった。
「ぐぁっ!」
「きゃぁあ!」
硬いが、土や岩というには柔らかい感触。なによりひんやりとしたそれはカディラの体温を吸い取るように移り、同じ温かさになる。
明らかに、人を下敷きにしてしまっていた。
「っ!? すみません! だ、大丈夫ですか!?」
すぐに起き上がり、下敷きにしてしまった人物の無事を確かめる。
月光の明かりのみで見えた相手は、アンバーの瞳を大きく開き驚きの表情をしていた。
暗い色の髪と、日に焼けた肌。男らしい凜々しさもあるが、繊細な美しさもともなっている。
そのあまりの美しさについ見惚れていると、周囲から焦りの声が上がった。
「お、おい娘! すぐにその方から離れるのだ!」
「そうだ、今の皇帝は理性が効かぬ! 死ぬぞ!」
「え? へ?」
『死ぬぞ』という強い言葉に戸惑う。現時点で死に直面するような危険など感じないのだから。
(いえ、それよりも……今、皇帝と言った!?)
まさか、下敷きにしてしまった相手はこのアズハーラ帝国を治める皇帝だというのか。
あまりの不敬に一気に血の気が引く。
(あら? でも、周囲の方々は寧ろ私の心配をしている様な?)
周囲の人物は皇帝の臣下のようであるし、彼を害そうとしている様にも見えない。
ならば寧ろ、皇帝を下敷きにしたとしてカディラは即座に首を切られてもおかしくはない状況のはずだ。
なのに心配するというのはどこかおかしい気がした。
疑問に思っていると、下にしていた男が起き上がる。
「きゃっ、え?」
まだ上になっていたカディラは反動で落ちそうになるが、力強い腕に背を支えられた。
気付くと、座った状態の皇帝の腕に抱えられていた。
仕事一筋だった前世でも、閉じ込められていた今世でも異性との触れ合いがまともになかったカディラは、自分とは違う筋肉質な体を感じ息が止まった。
(ちょっ、待って。これ、どうすれば!)
バクバクと大きくなる鼓動に翻弄されているすぐ近くで、皇帝は力を抜くようなため息をついた。
「……騒ぐな! もう、大丈夫だ」
美しい響きなのに、低く重い声で紡がれた言葉に、周囲の緊張が緩む気配がした。
「へ? ほ、本当によろしいので?」
「いつもは二、三人骨を折るくらいはしないと治まらないのに……」
なにやら物騒なことを口にする臣下の者達。
だが皇帝は気にすることなく視線をカディラに向けた。
「お前、名は?」
「へ!? あ、かっカディラ・シャマールと申します」
見下ろしてくるアンバーの瞳にたじろぎながらも、カディラはしっかりと名乗った。
アズハーラ帝国の者は皆同じアンバーの目をしているというのに、皇帝の目の色は他の者とは違う気がした。
「そうか。ではカディラ、お前は我が後宮へ入れ」
「は……はいぃ!?」
驚き、疑問たっぷりの声だったが、皇帝は言葉だけを取って了承と受け取ったらしい。
抱いていたカディラを離し、周囲にいる臣下たちに指示を出し始めた。
「聞いたな? すぐに手配しろ。宮殿へ戻るぞ」
『はっ!』
臣下たちは疑問を口にすること無く、即座に動き始める。
その中の一人、薄茶の髪をした細身の男がカディラに近づいてきた。
「さ、カディラ様。行きましょう」
皇帝の側に来れるほどの臣下ならば高官だろう。その高官が突然現れた小娘に敬称を付けるなど。カディラは状況が呑み込めず不敬とは思いつつ声を上げた。
「あ、あの! なぜ私をお連れになるのですか!?」
カディラの言葉に、皇帝は立ち上がり彼女を見下ろした。その目にはなんの熱も込められてはいない。
カディラを後宮にと突然言い出した皇帝だが、その真意が一目惚れなどというものではないことは確かだった。
「……お前が、俺の太陽神の熱を抑えたからだ」
「シャズハラムス、ハラーラ?」
聞き馴染みのない言葉に首を傾げる。だが、その疑問に答えたのは皇帝ではなく近くにいた臣下の者だった。
「太陽神の熱はアズハーラの男なら誰しも持っている心の力ですよ。戦地では存分に力を発揮するのですが、平時では押さえが効かず困ることもしばしば……。皇帝シャリフは特にその力が強いのです」
はじめて聞く話だったが、続いた説明で高官にしかその心の力は発現しないのだと聞いて納得した。
高位の者にしか認知されていない力であれば、父や伯父のような一介の商人が知っているはずもない。知っていたとしても、頻繁に話題に上るようなことでもないだろう。
「通常であれば月の神カーマシャルの加護を持つ国外の者を妾にして、側に置くことで抑えられるのですが……シャリフ様の太陽神の熱は特に強く、幾人もの他国の妾や側室を側に置いてもわずかにしか抑えられなかったのです」
「そういうことだ。先程も後宮にいるだけでは抑えが効かず、こうして外に出て臣下相手に発散していたのだ」
皇帝――シャリフも説明に加わり、その鋭い目を細めた。
「だが、お前が側に来た途端俺の熱は治まった。その髪色といい、かなり強い月の神の加護を持っているのだろう。俺の熱を抑えるにはお前が必要だ。側にいろ」
シャリフの言葉は、願いではなく命令だった。
それが許される立場であるし、背くことは死を意味する。アズハーラ帝国の皇帝とはそういうものだった。
(籠の鳥でいるわけにはいかないのだけど……)
弱い者を守りたいという信念を貫くならば、後宮などという籠に入るわけには行かない。
だが、箱入りで無知な自分がこの世界で渡り歩いていけるのかというと不安が大きいどころか無謀なのも確か。
(少なくとも、後宮であれば今までより自由が利くわよね?)
なにより、命令に背いて死を選ぶわけにはいかない。
選択肢を与えられていないカディラは、そうして自分を納得させた。
そのとき、頭上から悲鳴が聞こえてくる。
「わあぁーーー! カディラ様ぁー!」
「っ! スィハール!?」
幼さの残る声に、すぐさまスィハールの存在を思い出す。
忘れていたわけではないが、気にかけるほどの余裕もなかったので仕方ない。
それよりも、声の様子からして彼もあの塀から落ちてきたのだろう。
そこまで高くはなかったが、さすがに怪我はしてしまう。
カディラはあわてて術を使おうとしたが、シャリフの方が早かった。
彼は軽く手を振っただけで炎を出し、滞留する空気を動かし風を起こした。
その見事な術は、規則正しく美しさすらある。
風を起こすほどの炎を操ることからも、相当強い加護を受けているのだとわかった。
「わあぁぁー……あれ?」
落ちてきたスィハールはシャリフの起こした風により落下の速度を落とし、地面につくころには落ちた衝撃などほぼ無かった。
キョトンとするスィハールだったが、カディラの姿を見つけるとすぐに駆けよってくる。
「カディラ様! よかった! お怪我はございませんか!?」
自分も今危なかったというのに、カディラの心配ばかりするスィハールにホッと肩の力が抜ける。
「私は大丈夫よ。あなたの方こそ怪我は無い?」
「はい! 大丈夫です!」
互いの無事を確認すると、スィハールはやっと周囲の様子を伺う。
「それで、その……これはいったいどういう状況なのでしょうか?」
少々怯えたように周囲を見回すスィハール。
カディラを追って塀から落ちてきたら見知らぬ男たちに囲まれているのだ。不安になるのも当然だろう。
だが、そんなスィハールをシャリフは無遠慮に覗き込む。そして横目でカディラを見た。
「連れか?」
「は、はい。できれば置いていきたくはないのですが……」
無理だろうなと思いつつ願ってみると、シャリフは思いのほか優しく微笑んだ。
「まあいい、そいつも俺の小姓として連れて行ってやる」
「あ、ありがとうございます!」
小姓ということは自分が連れて行かれる後宮には入れないだろうが、それでもこのまま放置することにならずに済む。
伯父に見つかって鞭打たれることはないだろう。
「行くぞ」
短く指示を出し、夜でも明るい宮殿に向かい足を進めたシャリフに、皆が付き従う。
カディラも、事情がわからず戸惑うスィハールを伴いついていく。
月の神カーマシャルの加護があっても、世界を救うなど大層なことができるかなどわからない。
これから後宮という鳥籠に入ってしまえば、尚更できるとは思えない。
だが、少なくともシャリフは自分を必要としている。
その確かな真実のために、カディラは彼の後宮に入ることを決意した。
震える声で夏夜乃にすがった少女は、目に涙を溜めて助けを求めていた。
呼吸が浅く、恐怖を必死で耐えている様子に、警察官である夏夜乃は自身の正義感を刺激された。
今まさに危険から守ってもらえる相手を探し求めていた少女の、必死に伸ばされた手。夏夜乃は怖がらせないよう、その手をそっと握った。
「わかったわ。あなたは今帰るところ? だとしたら家に帰るのは危ないわね。あなたさえよければ、一度近くの交番で休まない?」
少しでも呼吸が落ち着くように、優しく声をかける。
この様子だと、すでに危険な目に遭ったことがあるのかもしれない。だとすれば、家に送り届けるだけでは危険だろう。
警察の手を離れた途端、自宅に押しかけたストーカーに殺害されるケースはいくらでもあった。
警察とて万能ではないし、できることには限りがある。
それでも、弱い人を守りたくて警官という職を選んだ夏夜乃は、できうる最大限の力を持って少女を守ろうと決めた。
夏夜乃の決意が伝わったわけではないだろうが、少女は少し安心したようにホッと息を吐く。
「はい……お願いします」
消え入りそうな声だが、しっかりと発音された言葉に夏夜乃も安堵する。
「じゃあ、行きましょう」
促して、共に近くの交番へと向かった。
夏夜乃は、この付近で不審者が度々目撃されるということで巡回している最中だった。
職務中ではあるが、市民を守るのも職務だ。
一度交番で守ってもらい、職務を終えたらもう少し詳しい事情を聞いて今後の対応を決めよう。
そう思っていた。
交番が近づいてくると、少女の足も速くなる。
交番という安全圏に、早く行きたいということだろう。
その様子に夏夜乃自身も安堵し、少し肩の力を抜く。
(でも、あそこの派出所には男性しかいなかったわよね? 大丈夫だとは思うけれど、彼女を追い詰めるようなことを言わないように釘を刺しておいた方がいいかしら)
そんな風に、意識が少女を守る事から少し逸れた瞬間だった。
ドスッ
「……え?」
誰かが、ぶつかってきた。
同時に、異物が脇腹の辺りに突き刺さる感覚。
体当たりしてきた状態の男が、近くでブツブツと呟いている。
「邪魔、すんなよ。今日は……今日こそは、ずっと一緒にいられるようにしようって……」
震えた、だがどこか粘着性を持つ言葉に夏夜乃は瞬時に理解する。
(こいつが、ストーカー!)
「っ逃げて!」
状況に未だ気付いていなかった少女の肩を押し、交番へ走るよう促す。
驚き振り返った少女の目が見開かれると、男は夏夜乃に突き刺したナイフを引き抜いた。
「ぐあっ!」
激痛と、それに伴う熱と、あふれ出る血の感覚。その先にあるものを予測して、恐怖が夏夜乃を襲った。
だが、男が少女に向かうのを見て精神力で恐怖を押さえつける。
離れていく男の腕をつかみ、引き留めた。
せめて、少女が交番に駆け込むまでは……。
その一心で、暴れる男を背負い投げし足止めする。
だが、それが精一杯だった。
受け身も取れなかった男が苦痛に呻いている間に、夏夜乃の方が力尽きる。
崩れ落ちるように倒れ、冷えたアスファルトの上にうつ伏せになった。
途端に野次馬となっていた周囲の通行人から悲鳴が上がる。その中から「救急車を!」という声も聞こえたが、間に合うだろうか。
(力が入らない……刺されたところは熱いのに、寒い……)
本格的にマズイ状況に、夏夜乃は死を覚悟する。
だが……。
(でも、駄目。死んじゃ駄目。私がここで死んだら、家族が悲しむ。……なにより、あの子が苦しんでしまう)
助けを求めて懸命にすがってきた少女。
自分が今死んでしまったら、あの子は自分が助けを求めた所為だと自身を責めるだろう。
(だから、駄目。死んじゃ、駄目……)
意思はハッキリと決まっているのに、現実は無情だ。意識がどんどん薄れていく。
薄れていく意識の中は、後悔ばかりが埋め尽くす。
(あの子の心も守りたかったのに。でも、これじゃあ守れない)
守りたかった。
守れなかった。
そんな後悔ばかりだったからだろうか。
どこからか明かりが近づき、そこから手を伸ばしてきたものの言葉に、夏夜乃は反応する。
『助けて!』
その一言に込められた強い願いを感じ取り、夏夜乃はその手を取った。
***
光るその相手は、月を司る神・カーマシャルと名乗った。
太陽を司る神・シャズハラムスの怒りで乾いていく大地を癒やし、世界を助けて欲しい、と。
聞いたことのない神の名前。
世界を助ける、などという大層な願い。
(……もしかして、早まっちゃった?)
小説やゲームのような話の展開に、現実味がない。以前弟が読んでいたマンガに、似たような展開があったような気がする。
だが、神を名乗るカーマシャルは話について行けない夏夜乃に気付くことなく話を続けた。
「このままだとシャズハラムスの怒りは全ての大地を呑み込み、乾いた土地のみとなってしまう。あなたには魂そのものに私の加護を刻みましょう。そうすれば、地上に生まれ落ちても私の力を使うことができるわ」
神と名乗るだけあって、その声には威厳が満ちている。
だが、だからといって全てを理解し、呑み込む事ができるとは限らない。
(なんとなくはわかるけれど、魂に刻むとか大丈夫なの? 神様の力を使うって、具体的にはどんな風に?)
疑問は多かったが、言葉をはさむ隙が無かった。
カーマシャルは一方的に話し終えると、夏夜乃の意思を聞くことなく「さあ、行きなさい」と促した。
その傲慢さはある意味神らしいというべきだろうか。『助けて』などと殊勝な願いをしてきたとは思えないほど、かの神は夏夜乃が言われたとおりにすることを疑いもしない。
だが、夏夜乃自身も強い反発はなかった。
(それで大丈夫なの!?)
という不満や不安はあったが、怒りまでは抱かなかった。
そうして、月の神・カーマシャルの加護を得た夏夜乃は、太陽の神・シャズハラムスが建国したと伝えられているアズハーラ帝国に、商人の娘、カディラ・シャマールとして新たな生を受けたのだった。
***
「まあ! なぜあなたが地下から出ているの!?」
従姉妹のナイーマの金切り声に近い叫びを聞き、カディラはしまった! と顔を歪めた。
ほぼ閉じ込められていると言ってもおかしくない地下の自室。日中はけして部屋から出てはいけないと伯父夫婦に言われているのだ。
ナイーマが驚きの声を上げるのも当然といったところだろう。
「ごめんなさい、地下だと本が読みづらくて……。すぐに戻るわ」
面倒ごとを避けたくて下手に出る。
見つかってしまったものはどうしようもない。ならばせめて、これ以上嫌な思いをしないためにも自室に籠もるしかないだろう。
「地下でも術を使えば明かりは取れるでしょう? ああ、失礼したわ。あなたは火が使えなかったわね」
クスクスと小馬鹿にするナイーマは、さも簡単だというように人差し指を立て、その先に小さな火を灯す。
太陽の神・シャズハラムスの加護を強く持つアズハーラ帝国の者なら誰しも使える術だ。
同じくアズハーラ帝国の生まれでありながら、火を使えぬカディラをナイーマは嘲笑する。
カディラは「そうね」と力なく笑みを浮かべ、ナイーマの横を足早に通り過ぎ、地下への階段がある方へ急いだ。
ナイーマの態度はいつものこと。一々反論しても疲れるだけなので、カディラはその場しのぎの対応しかしない。
そんなカディラの態度も気に食わない様子ではあるが、ナイーマは睨むだけでなにかを言うことはなかった。
ナイーマの目の届かぬところまで来ると、一人の少年がちょこちょこと近づいてくる。
「カディラ様、ごめんなさい! ナイーマ様は今日は買い物に行くとおっしゃっていたので、大丈夫だと思ったのですが……」
申し訳なさそうに肩を落とす少年の頭をカディラは優しく撫でた。
少しでも日に当たりたいと願うカディラに、今日は屋敷に人が少ないから大丈夫だと教えてくれたのはこの少年・スィハールだ。
小間使いとして買われた奴隷だが、カディラは弟のようにかわいがっていた。
夏夜乃だった頃の弟も、小学生くらいの頃はこんな感じだった。大きくなってからはひねくれてかわいげが無くなってしまったので、今はかつての思い出をスィハールに重ねて存分にかわいがっている。
「いいのよ、気にしないで。どうせナイーマが急に気分を変えたのでしょう? あとで伯父か伯母に文句を言われるでしょうけど、鞭打ちされるわけでも食事を抜かれるわけでもないから」
寧ろスィハールが自分の手助けをしたと知られたら、彼が鞭打たれるのは確実だ。
日中外に出られるように色々と考えてくれるのは有り難いが、ほどほどにして欲しいと思うのも正直な気持ちだった。
「でも、ちゃんと目立つ髪も隠されていたのに……。カディラ様が閉じ込められているのはその髪が原因なのでしょう? ターバンでしっかり隠しているのですから、屋敷の中くらいはいいと思うのですけど……」
不満そうなスィハールにカディラは困り笑顔を浮かべるだけに留める。
今は隠しているカディラの髪は、銀色。月の神・カーマシャルの加護を受けた者が持つ色だ。
……シャズハラムスの加護が強いこのアズハーラ帝国では、絶対に生まれない色。
通常であればその時点で母の密通を疑うだろう。だが、カディラはアズハーラ帝国出身者特有のアンバーの目も持っていた。
アンバーの目は太陽の神シャズハラムスの加護を受けている証。
つまり、カディラはシャズハラムスの加護を受けるアズハーラ帝国の者でありながら、なぜか他国の者にしか与えられないカーマシャルの加護を受けているということになる。
両親は稀少な存在だと喜んだそうだが、親族――特に伯父夫婦は不可思議な存在であるカディラを忌避した。
それでも両親が生きていれば普通の少女として生活できていたのだろうが、カディラが十歳のとき、商品の仕入れをしに行った彼らは盗賊に襲われ亡くなってしまった。
前世から受け継ぐように、今世でも弱い者を守りたいと願っていたカディラは、両親についていかなかったことを強く後悔した。
またしても守れなかったのか、と。
カーマシャルの力を使える今の自分ならば、十歳という幼さでも両親を守ることはできたはずなのに、と。
そうして落ち込んでいる間に、カディラの家であったシャマールの屋敷は商会ごと傲慢な伯父夫婦に乗っ取られてしまっていた。
古くからいる使用人を解雇し、奴隷を買い換え、全てを自分たちの都合のいいようにしてしまった。
そうして疎んじられていたカディラは、人目に触れぬよう地下の部屋から出られぬようにされてしまったのだ。
地下の自室は、鍵などはかかっていない。自由に出入りはできるが、銀の髪を見た屋敷の者達は怪物でも見るような目でカディラを見る。
自分を疎まず人として接してくれた者達は、両親と幼い頃から接していた以前の使用人や奴隷たち、そしてスィハールくらいのものだ。
このような状態で、なにを成せるというのだろうか。
世界を助けてくれと頼まれたものの、具体的な方法などは知らされていない。
今のように屋敷から出ることすら難しい状況では、自分で探すことも困難だ。
(せめて、アズハーラ帝国以外の国にしてくれればよかったのに)
と、カーマシャルを恨まずにはいられなかった。
***
その晩、闇が深くなっても伯父夫婦は文句の一つも言いに来なかった。
ナイーマの性格ならば、確実に言いつけるだろうと思っていたのだが……。
(なにか、文句を言いに来る暇も無いほど忙しい用事でもあるのかしら?)
などと楽観的に考えながら高窓から見える曇りがちな月を眺めていたときだった。
ドンドンドン!
唐突に部屋の木戸が強く叩かれる。
一瞬伯父かと思ったが、叩く音には大人の男性の力強さまではない。
ならば伯母一人だろうか、と思いながら木戸に近づくと、聞き馴染みのある幼さの残る声が聞こえた。
『カディラ様! 早く、早く出てきて!』
「スィハール?」
こんな時間に、いったいどうしたというのだろうか。
驚いたが、ただ事ではないことは確かだ。
カディラはすぐに木戸を開ける。
「スィハール、どうし――」
「逃げて下さい! お早く!」
何事かと問い質す声すら遮られ、焦った様子のスィハールに腕を引かれた。
「なっ!? スィハール?」
いくらかわいがっている年下の少年とはいえ、何の説明もなく強引にことを進めようとするのはいただけない。
非難を込めて呼び掛けると、スィハールは焦れた様子で簡潔に事情を話した。
「旦那様が、カディラ様を奴隷商に売ると言っていたのです!」
「え?」
「なんでも、昔この都で見た銀髪の少女を気に入った高官がいるとかで……その高官に気に入られたい奴隷商が情報を集めてこの屋敷にたどり着いたのだとか」
その奴隷商が伯父に交渉し、カディラを持て余していた伯父が自分を売ることを決めてしまったのだ、とスィハールは早口で説明してくれた。
「旦那様は『あのような異端の娘でも欲しがる方がいるのか。ならばさっさと売っておけばよかったな』などと言ってすぐにでもカディラ様を奴隷商に売る契約を交わしていました」
「な……」
あまりのことにクラリと目眩がした。
貧しい家であれば、仕方なしに身内を奴隷商に売ることもあるだろうが……。シャマールの家は貧しさとは縁遠い豪商の家だ。少なくとも身内を売るなどあり得ない。
疎んじていたとしても、商売に有利となるよう嫁がせる道具として扱うだろう。
だが、スィハールの言葉が真実であれば、伯父にとって自分は道具としても使えないお荷物だったらしい。
そして、それが真実であるとカディラも気付いていた。
「逃げて下さい! 今ならば旦那様たちがここに来るまで時間があります。夜ならばベールを被っていれば髪色も気付かれないでしょう」
次々と話すスィハールの右手には、大ぶりの布があった。わざわざそんなものも用意してくれていたのか。
「でも、そんなことをしたらあなたが……」
この屋敷で唯一懐いてくれた少年を心配する。
スィハールがカディラに懐いていることは屋敷の者なら誰でも知っている。自分がいなくなれば、スィハールが逃亡を手引きしたことくらいすぐに知られるだろう。
「大丈夫です。いくらなんでも、死ぬことはないでしょうから」
ケロッとした様子で何でもないことのように話すが、鞭打ちは確実だ。伯父の怒りの度合いによっては、死んでもおかしくないほどになるだろう。
では、逃げずに大人しく売られることを選ぶのか。
(その方が、良いのかもしれない)
神に直接頼まれたが、本来カディラには世界を救う義理など無い。
元より別の世界から来た魂だ。十七年この世界で過ごしたとはいえ、守りたいと思う相手はほとんどいない。
守りたかった家族は守れず、伯父たちは守りたいと思えるほど弱くはない。
今守りたいと思えるのは、自分を慕ってくれているスィハールだけだ。
今逃亡しなければ、唯一守りたいスィハールは守れる。
だが……。
「お願いです! 僕は、優しいカディラ様には幸せになってもらいたいんです!」
必死で自分なりの正義を貫き、カディラを助けようと……守ろうとしているスィハールの姿にカディラの中で閉じ込めていた何かが疼く。
親族に売られそうな、弱い自分を守ろうとするスィハールが誰かに重なった。
(ああ、この子は私だ)
前世で少女を守り切れず、今世でも両親を守れなくて封じてしまった思い。
弱い者を守りたいという強い気持ちが、スィハールの姿を見て揺り起こされた。
(……駄目。私は、ここで終わるわけにはいかない!)
世界を救えるかなどはわからない。だが、この国にも――この世界にも弱い者は多いはずだ。
今度こそ、守りたい。
今度こそ、助けたい。
夏夜乃だった頃からある、自分の芯となる思いを思い出し、カディラは自分の腕を引くスィハールの手を掴んだ。
「わかったわ、逃げる。でも、あなたも一緒よ」
酷い目に遭うのがわかっているのに置いていくことはできない。
カディラは、強い決意を持って十七年過ごした屋敷をスィハールと共に出た。
***
「この辺りなら見つからないかしら?」
地下の部屋を出て、伯父たちがいるであろう客間に近づかぬよう人気の無いところまで来た。
屋敷の裏にあたる場所で、塀はあるがここを越えられれば誰にも見つからずに屋敷を出られる。
ろくに屋敷から出たことがなく、住み慣れたはずの都だが土地勘はないため、どこへ向かえばいいのかはわからない。
だが、とにかく逃げきって国外へ逃亡できればやりようはあるだろう。
自分が疎まれ怖がられるのは、アズハーラ帝国の者でありながらカーマシャルの力しか使えないからだ。国外であれば、カーマシャルの加護を持つ者もいる。目の色さえ隠せば、なんとか生活できるだろう。
正直、自分でも甘い考えかもしれないと思った。
前世はともかく、カディラとしては箱入りの小娘でしか無いのだから。前世での常識が、この世界で通じるはずはないのだから。
本を読みある程度の知識は得ていたが、実際に外の世界を知る機会は少ない。
だがそれでも、逃げないという選択肢だけはもう無いのだ。
「でもこの塀、けっこう高いですよね? どうやって越えましょう」
「大丈夫、ここは私が……」
困った様子で塀の壁をペチペチと叩くスィハールに下がっておくように言い、カディラは地面に手をついた。
手のひらに意識を集中し、加護の力を流し込む。
太陽の神シャズハラムスの加護が火であるならば、月の神カーマシャルの加護は水だ。
魂に直接刻まれるほどの加護を得ているカディラの力なら、水をさらに変化させることもできる。
(氷なら、階段とか作れるんじゃないかしら)
前世で観た映画などを思い出しながらイメージしていく。
順調に氷の階段はできたようで、スィハールが「わぁ」と感嘆の声を上げた。
「……行くわよ」
静かに口にして、率先して進んだ。
スィハールを先に行かせて、万が一にでも割れて落ちてしまったら申し訳ない。しっかり上れるのを確認しながら先に上る。
「よし、なんとか上に……」
塀の上まで上ったところで、カディラは言葉を止めた。
塀の向こう側も同じくらいの高さしかないと思っていたが、反対側は少々崖のようになっていて思った以上の高さがあった。
思わずヒクリと頬を引きつらせるが、ここまで来たのなら後戻りはできない。
夜ということもあり地面は暗く見えづらいが、上ったときと同じように氷の階段を出せばちゃんと降りられるはずだ。
「カディラ様、これ、大丈夫ですか?」
同じく上ってきたスィハールが不安げに見上げてくる。
カディラはその不安を払拭するように笑顔を浮かべた。
「大丈夫よ、また階段を作るから」
言い終えると、軽く深呼吸をしてまた意識を集中させる。手すり部分も作りながら、一段ずつ氷の階段を作っていった。
地面が見えていれば一気に作れるのだが、よく見えない場所だと不安の方が大きい。
着地部分が失敗して、全て砕け散ってしまいでもしたらはじめからやり直しだ。
などと考えすぎてしまったからだろうか。
数段降りた先に作った段へ足を乗せた途端、ピキリと嫌な音がした。
「あっ」
マズイ、と思ったときにはすでに遅く、体重を預けていた氷の板は粉々に砕けてしまう。
ヒュッと冷たい息を吸うと同時に、カディラの体は下へと落ちていく。
「カディラ様!?」
スィハールの呼び声に応えられるわけもなく、カディラは地面との距離があまり無いことだけを祈る。
その瞬間、雲が晴れたのだろうか。
月明かりで落ちていく先が見えるようになった。
「って、ちょっ! よ、避けてー!!」
落ちた先に人の姿が見えて、カディラは叫ぶ。
だが、地面までの距離は幸か不幸かそれほど無く、真下にいた相手がよける暇も無くカディラはその人の上に落ちてしまった。
「ぐぁっ!」
「きゃぁあ!」
硬いが、土や岩というには柔らかい感触。なによりひんやりとしたそれはカディラの体温を吸い取るように移り、同じ温かさになる。
明らかに、人を下敷きにしてしまっていた。
「っ!? すみません! だ、大丈夫ですか!?」
すぐに起き上がり、下敷きにしてしまった人物の無事を確かめる。
月光の明かりのみで見えた相手は、アンバーの瞳を大きく開き驚きの表情をしていた。
暗い色の髪と、日に焼けた肌。男らしい凜々しさもあるが、繊細な美しさもともなっている。
そのあまりの美しさについ見惚れていると、周囲から焦りの声が上がった。
「お、おい娘! すぐにその方から離れるのだ!」
「そうだ、今の皇帝は理性が効かぬ! 死ぬぞ!」
「え? へ?」
『死ぬぞ』という強い言葉に戸惑う。現時点で死に直面するような危険など感じないのだから。
(いえ、それよりも……今、皇帝と言った!?)
まさか、下敷きにしてしまった相手はこのアズハーラ帝国を治める皇帝だというのか。
あまりの不敬に一気に血の気が引く。
(あら? でも、周囲の方々は寧ろ私の心配をしている様な?)
周囲の人物は皇帝の臣下のようであるし、彼を害そうとしている様にも見えない。
ならば寧ろ、皇帝を下敷きにしたとしてカディラは即座に首を切られてもおかしくはない状況のはずだ。
なのに心配するというのはどこかおかしい気がした。
疑問に思っていると、下にしていた男が起き上がる。
「きゃっ、え?」
まだ上になっていたカディラは反動で落ちそうになるが、力強い腕に背を支えられた。
気付くと、座った状態の皇帝の腕に抱えられていた。
仕事一筋だった前世でも、閉じ込められていた今世でも異性との触れ合いがまともになかったカディラは、自分とは違う筋肉質な体を感じ息が止まった。
(ちょっ、待って。これ、どうすれば!)
バクバクと大きくなる鼓動に翻弄されているすぐ近くで、皇帝は力を抜くようなため息をついた。
「……騒ぐな! もう、大丈夫だ」
美しい響きなのに、低く重い声で紡がれた言葉に、周囲の緊張が緩む気配がした。
「へ? ほ、本当によろしいので?」
「いつもは二、三人骨を折るくらいはしないと治まらないのに……」
なにやら物騒なことを口にする臣下の者達。
だが皇帝は気にすることなく視線をカディラに向けた。
「お前、名は?」
「へ!? あ、かっカディラ・シャマールと申します」
見下ろしてくるアンバーの瞳にたじろぎながらも、カディラはしっかりと名乗った。
アズハーラ帝国の者は皆同じアンバーの目をしているというのに、皇帝の目の色は他の者とは違う気がした。
「そうか。ではカディラ、お前は我が後宮へ入れ」
「は……はいぃ!?」
驚き、疑問たっぷりの声だったが、皇帝は言葉だけを取って了承と受け取ったらしい。
抱いていたカディラを離し、周囲にいる臣下たちに指示を出し始めた。
「聞いたな? すぐに手配しろ。宮殿へ戻るぞ」
『はっ!』
臣下たちは疑問を口にすること無く、即座に動き始める。
その中の一人、薄茶の髪をした細身の男がカディラに近づいてきた。
「さ、カディラ様。行きましょう」
皇帝の側に来れるほどの臣下ならば高官だろう。その高官が突然現れた小娘に敬称を付けるなど。カディラは状況が呑み込めず不敬とは思いつつ声を上げた。
「あ、あの! なぜ私をお連れになるのですか!?」
カディラの言葉に、皇帝は立ち上がり彼女を見下ろした。その目にはなんの熱も込められてはいない。
カディラを後宮にと突然言い出した皇帝だが、その真意が一目惚れなどというものではないことは確かだった。
「……お前が、俺の太陽神の熱を抑えたからだ」
「シャズハラムス、ハラーラ?」
聞き馴染みのない言葉に首を傾げる。だが、その疑問に答えたのは皇帝ではなく近くにいた臣下の者だった。
「太陽神の熱はアズハーラの男なら誰しも持っている心の力ですよ。戦地では存分に力を発揮するのですが、平時では押さえが効かず困ることもしばしば……。皇帝シャリフは特にその力が強いのです」
はじめて聞く話だったが、続いた説明で高官にしかその心の力は発現しないのだと聞いて納得した。
高位の者にしか認知されていない力であれば、父や伯父のような一介の商人が知っているはずもない。知っていたとしても、頻繁に話題に上るようなことでもないだろう。
「通常であれば月の神カーマシャルの加護を持つ国外の者を妾にして、側に置くことで抑えられるのですが……シャリフ様の太陽神の熱は特に強く、幾人もの他国の妾や側室を側に置いてもわずかにしか抑えられなかったのです」
「そういうことだ。先程も後宮にいるだけでは抑えが効かず、こうして外に出て臣下相手に発散していたのだ」
皇帝――シャリフも説明に加わり、その鋭い目を細めた。
「だが、お前が側に来た途端俺の熱は治まった。その髪色といい、かなり強い月の神の加護を持っているのだろう。俺の熱を抑えるにはお前が必要だ。側にいろ」
シャリフの言葉は、願いではなく命令だった。
それが許される立場であるし、背くことは死を意味する。アズハーラ帝国の皇帝とはそういうものだった。
(籠の鳥でいるわけにはいかないのだけど……)
弱い者を守りたいという信念を貫くならば、後宮などという籠に入るわけには行かない。
だが、箱入りで無知な自分がこの世界で渡り歩いていけるのかというと不安が大きいどころか無謀なのも確か。
(少なくとも、後宮であれば今までより自由が利くわよね?)
なにより、命令に背いて死を選ぶわけにはいかない。
選択肢を与えられていないカディラは、そうして自分を納得させた。
そのとき、頭上から悲鳴が聞こえてくる。
「わあぁーーー! カディラ様ぁー!」
「っ! スィハール!?」
幼さの残る声に、すぐさまスィハールの存在を思い出す。
忘れていたわけではないが、気にかけるほどの余裕もなかったので仕方ない。
それよりも、声の様子からして彼もあの塀から落ちてきたのだろう。
そこまで高くはなかったが、さすがに怪我はしてしまう。
カディラはあわてて術を使おうとしたが、シャリフの方が早かった。
彼は軽く手を振っただけで炎を出し、滞留する空気を動かし風を起こした。
その見事な術は、規則正しく美しさすらある。
風を起こすほどの炎を操ることからも、相当強い加護を受けているのだとわかった。
「わあぁぁー……あれ?」
落ちてきたスィハールはシャリフの起こした風により落下の速度を落とし、地面につくころには落ちた衝撃などほぼ無かった。
キョトンとするスィハールだったが、カディラの姿を見つけるとすぐに駆けよってくる。
「カディラ様! よかった! お怪我はございませんか!?」
自分も今危なかったというのに、カディラの心配ばかりするスィハールにホッと肩の力が抜ける。
「私は大丈夫よ。あなたの方こそ怪我は無い?」
「はい! 大丈夫です!」
互いの無事を確認すると、スィハールはやっと周囲の様子を伺う。
「それで、その……これはいったいどういう状況なのでしょうか?」
少々怯えたように周囲を見回すスィハール。
カディラを追って塀から落ちてきたら見知らぬ男たちに囲まれているのだ。不安になるのも当然だろう。
だが、そんなスィハールをシャリフは無遠慮に覗き込む。そして横目でカディラを見た。
「連れか?」
「は、はい。できれば置いていきたくはないのですが……」
無理だろうなと思いつつ願ってみると、シャリフは思いのほか優しく微笑んだ。
「まあいい、そいつも俺の小姓として連れて行ってやる」
「あ、ありがとうございます!」
小姓ということは自分が連れて行かれる後宮には入れないだろうが、それでもこのまま放置することにならずに済む。
伯父に見つかって鞭打たれることはないだろう。
「行くぞ」
短く指示を出し、夜でも明るい宮殿に向かい足を進めたシャリフに、皆が付き従う。
カディラも、事情がわからず戸惑うスィハールを伴いついていく。
月の神カーマシャルの加護があっても、世界を救うなど大層なことができるかなどわからない。
これから後宮という鳥籠に入ってしまえば、尚更できるとは思えない。
だが、少なくともシャリフは自分を必要としている。
その確かな真実のために、カディラは彼の後宮に入ることを決意した。



