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 少し前から物書きを始めた者です。運よく何冊か本を出版することができ、かといって作家と名乗るにはまだまだ力不足な気がしていますので、肩書は『物書き』と名乗っています。本を出していることは周りの人には誰にも教えていない小心者です。このペンネームは本名をかすりもしていないので、気づかれることもないです。

 元々、私は看護師としてA県にある大学病院、M病院で働いていました。高校卒業後に看護学校に通って国家試験を合格し、M病院に就職。ちなみに科は消化器内科でした。他の病院はわかりませんが、M病院では希望の病棟を第三希望まで聞いてくれます。私は第二希望が通りました。

 実は第一希望は小児科。第三希望が整形外科でした。小児科は私の学校では圧倒的人気で、倍率が凄かったので無理だろうなと思っていました。内科に配属され、もまれながら看護師をこなす日々が、今は懐かしく思います。

 というのも、今は退職してしまったので。看護師は辞めて、細々と物書きをしています。

 元々、看護師と物書きは並行してやっていました。趣味の延長線上で小説を書き続け、在職中に本を出版しました。

 退職した理由は『物書き一本でやっていくから』なんてことではないです。さすがにそこまで思い切る勇気はないですからね。今、作家業だけで生活していける人はほんの一握りではないでしょうか。

 ですがM病院は退職者が多かったので、私は珍しい存在ではなかったと思います。M病院が、というより、どこの病院もそうなのではないでしょうか? 看護師は激務です。感染する危険もあり、命を預かる危機感もあり、とにかく疲弊する仕事でした。無論、やりがいも大きいのですが。

 今はM病院から離れ、パソコンと向き合っている日々です。

 今回、小説というより私が体験したお話を書いてみよう、と思い立ったのは、とにかく誰かに聞いてほしいという気持ちが大きかったんだと思います。

 いえ、私が体験した……と書きましたが、幽霊を見ただとか、そういう体験は全く味わっていないです。ややこしい書き方をしてしまいました。正確に言えば、『M病院にいた頃、私の周りで起こっていた不思議な現象』です。

 恐らく、あの頃M病院に勤めていた多くの看護師が知っていることだと思います。あの病院には、不思議な訪問者がいました。

 少し前の記憶なので曖昧な部分もありますが、なるべく正確に書くように努めます。それは、うちの病棟にあった不思議なインシデントレポートが気になったところから始まります。

 インシデントレポートは、ナースステーションの隅にファイリングされており、誰でも見ることが出来ます。内容によっては、朝の申し送りの時に読み上げられ、全員に情報共有をします。

 普通は患者が転倒・転落しただとか、流す薬剤を間違えてしまっただとか、認知症の患者が点滴を自己抜針してしまっただとかの内容が書かれるのですが、その時は一風変わった内容だったので、酷く印象に残っています。

 このインシデントレポートから、あれは始まったのだと思います。

 また、当然ながら出てきます人物名は一部を除き全て仮名となっております。