イスルギさんは基本的に数人数で遊ぶものだ。一緒に遊ぶ子が見つかったら、一枚の紙を用意し、全員で真ん中に人型を書く。これはその時々によって描きかたを変えてよいらしく、例えば目や鼻などがある顔面だけでもよいし、細かく全身を描いてもいい。これが『イスルギさん』とする。
じゃんけんで順番を決めたら、一人ずつイスルギさんの好きな部位を鉛筆で塗りつぶして消していく。
一人が『目』を消す。
二人目が『鼻』を消す。
三人目が『手の指』を消す。
……というように、とにかく体の一部分を塗りつぶす。ここには具体的なルールは存在しないらしく、例えば片目だけを消してもよいし両目一気に消してもよいのだそう。
順番にそれをしていくと、当然ながらイスルギさんの体は真っ黒に塗りつぶされてしまう。最後、塗る部位が無くなった人が負けなのだそう。
そして真っ黒になったイスルギさんの体には、全員で、
『イスルギさん、お迎えです』
と唱えて紙を捨てなければならない。
……これが、由真ちゃんが説明してくれた『イスルギさん』のやり方だった。
真栄田さんはこの話を聞いたとき、なんとも嫌な気になった。子供とは、大人には理解できないものを楽しんだり興味を持ったりする生き物で、決してそれを否定したりしてはいけないと重々承知していたのだが、こればかりは言わずにいられなかった。
「それ、何が面白いの……?」
「んーなんか、よくわかんないけど流行ってる」
「誰が始めたの?」
「わかんない」
由真ちゃんは首を傾げてそう答えた。話を聞く限り、あまりいい遊びとは言えないのではないか。簡単な絵だとはいえ、人間の体の一部を消していき、最後に『お迎え』だなんて……。
だが由真ちゃんを責めるつもりはないので、真栄田さんはそれをとりあえずナースステーションに持って帰った。そして、先輩看護師に相談をした。
院内学級では普通の小学校とは違い、休憩時間も常に医療者がそばに付き添っている。子供が急に体調を崩した時に対応しなくてはならないからだ。先輩看護師は、院内学級で待機している先生に話を聞いてみよう、と言って電話を掛けた。
相手はすぐに出て話を聞いてくれた。だが、イスルギさんの遊びについてはまるで知らなかったらしい。確かに、女子が机を囲んで静かに遊んでいることはしょっちゅうあるが、遠目から見守っているだけで、どんな遊びをしているかまで目を光らせていなかったのだそう。
確かに、普通なら絵を書いているのかなとか、本を見てるのかな、と思い、あんな不気味なことをしているとは思わなかったのだろう。
この遊びについて、『漠然とした不気味さと、教育への悪影響を感じる』と反対する者と、『子供ならそれくらいの遊びをすることはある。大方怖いテレビや本を見て誰かが始めたのだろうし、無理に辞める必要はない。子供はすぐに飽きるだろう』という者に分かれた。
だがそんな矢先、教室にあるごみ箱を調べたところ、イスルギさんで使った紙がいろんな学年の教室から発見された。どれも黒く塗りつぶされた人型はあまりに不気味で、大人たちは息を呑んだ。そして、結局イスルギさんの遊びは禁止することになった。
ここで不思議だったのは、一体どこからイスルギさんの遊びが導入されたのか最後までわからなかったことだ。誰もテレビや本で見た、という子はいなかったし、誰が始めたとも言わなかった。みんな不思議そうに首を傾げ、いつどうやって流行ったのかわからないとのことだった。
こうしてイスルギさんの遊びは、大人に禁止されることで消失した。
じゃんけんで順番を決めたら、一人ずつイスルギさんの好きな部位を鉛筆で塗りつぶして消していく。
一人が『目』を消す。
二人目が『鼻』を消す。
三人目が『手の指』を消す。
……というように、とにかく体の一部分を塗りつぶす。ここには具体的なルールは存在しないらしく、例えば片目だけを消してもよいし両目一気に消してもよいのだそう。
順番にそれをしていくと、当然ながらイスルギさんの体は真っ黒に塗りつぶされてしまう。最後、塗る部位が無くなった人が負けなのだそう。
そして真っ黒になったイスルギさんの体には、全員で、
『イスルギさん、お迎えです』
と唱えて紙を捨てなければならない。
……これが、由真ちゃんが説明してくれた『イスルギさん』のやり方だった。
真栄田さんはこの話を聞いたとき、なんとも嫌な気になった。子供とは、大人には理解できないものを楽しんだり興味を持ったりする生き物で、決してそれを否定したりしてはいけないと重々承知していたのだが、こればかりは言わずにいられなかった。
「それ、何が面白いの……?」
「んーなんか、よくわかんないけど流行ってる」
「誰が始めたの?」
「わかんない」
由真ちゃんは首を傾げてそう答えた。話を聞く限り、あまりいい遊びとは言えないのではないか。簡単な絵だとはいえ、人間の体の一部を消していき、最後に『お迎え』だなんて……。
だが由真ちゃんを責めるつもりはないので、真栄田さんはそれをとりあえずナースステーションに持って帰った。そして、先輩看護師に相談をした。
院内学級では普通の小学校とは違い、休憩時間も常に医療者がそばに付き添っている。子供が急に体調を崩した時に対応しなくてはならないからだ。先輩看護師は、院内学級で待機している先生に話を聞いてみよう、と言って電話を掛けた。
相手はすぐに出て話を聞いてくれた。だが、イスルギさんの遊びについてはまるで知らなかったらしい。確かに、女子が机を囲んで静かに遊んでいることはしょっちゅうあるが、遠目から見守っているだけで、どんな遊びをしているかまで目を光らせていなかったのだそう。
確かに、普通なら絵を書いているのかなとか、本を見てるのかな、と思い、あんな不気味なことをしているとは思わなかったのだろう。
この遊びについて、『漠然とした不気味さと、教育への悪影響を感じる』と反対する者と、『子供ならそれくらいの遊びをすることはある。大方怖いテレビや本を見て誰かが始めたのだろうし、無理に辞める必要はない。子供はすぐに飽きるだろう』という者に分かれた。
だがそんな矢先、教室にあるごみ箱を調べたところ、イスルギさんで使った紙がいろんな学年の教室から発見された。どれも黒く塗りつぶされた人型はあまりに不気味で、大人たちは息を呑んだ。そして、結局イスルギさんの遊びは禁止することになった。
ここで不思議だったのは、一体どこからイスルギさんの遊びが導入されたのか最後までわからなかったことだ。誰もテレビや本で見た、という子はいなかったし、誰が始めたとも言わなかった。みんな不思議そうに首を傾げ、いつどうやって流行ったのかわからないとのことだった。
こうしてイスルギさんの遊びは、大人に禁止されることで消失した。