けれど高校生活が始まって一ヶ月経った頃、僕についてとある噂が流れ始めた。
『如月恭介は中学時代、不良だったらしい。』
ある朝、母さんが体調を崩してしまった。僕は母さん用の朝食と昼食を用意し、看病もしていると登校がギリギリになってしまった。いつもなら朝に見ることがないたくさんの人で混雑している廊下を通って教室に入ると、今まで向けられることのなかったくらい、多くの視線が僕に向けられた。僕のほうを訝しげに見ながらコソコソ何か言っている。不思議に思いながらも自分の席に座る。とても居心地が悪い。そうしていると、翠生がどこからか戻ってきた。僕と目があうと数回目を瞬かせた後、心配そうな表情を浮かべて僕の方へ来ようとした。
だが、彼女は僕の方に来ることはできなかった。
「水無瀬、もうあいつと関わるな。」
彼女の腕を掴んでそう言ったのは、山掛悠真。山掛はクラスのリーダー的存在だ。
山掛は僕の席へ向かってツカツカと歩いてきた。バンっと音を立てて両手を僕の机についてギロリと睨みつけられた。
「お前、中学の時に喧嘩で相手に大怪我負わせたんだよな?不良だったんだろ?隠さなくてもいいって。今日も喧嘩してきたから遅くなったんだろ?」
クラスメイトに目配せをしながら山掛は大きな声でそう言い、ニヤッと口角を上げて笑った。僕は喧嘩なんてしていない。今日は母さんの看病をしていたから遅れたんだ。中学の時だって、本当は僕が大怪我を負わされた。母さんが必死に頭を下げて泣きながら謝罪していた景色が脳裏によぎる。
僕は教室の空気に耐えきれず、教室を飛び出した。翠生が僕の名前を呼ぶのが後ろから聞こえる。僕は足を止めることなく屋上に駆け込んだ。手すりに掴まってスピードを落とす。崩れ落ちるように僕はその場にしゃがみ込んだ。目頭が熱い。
