僕たちは一緒に教室に戻った。僕は彼女とたくさん話をした。彼女が読書が好きなこと、星空を眺めることが好きなこと、お化けは苦手で、歌を歌うのが得意なこと。彼女について知ることができるのはとても嬉しいことだった。そんな世間話をしながら廊下を歩いていると彼女が、はっと何かを思い出したように言った。
「私、ちょっとお手洗い行ってくるから先に教室戻ってて。」
彼女のあまりに慌てように僕はただ頷くことしかできなかった。
走ってトイレに向かっていた彼女の後ろ姿を追いかけていると、彼女が一瞬立ち止まり、引き返してきた。
「私の目の色、見たよね?」
気まずそうに聞いてくる彼女に僕が軽く頷くと、ガクッと音が鳴りそうなくらい彼女が肩を落とした。そんな彼女を見て僕があたふたしていると俯きながら彼女が小さく口を開いた。
「このこと、二人だけの秘密にしておいて欲しいんだけど、いいかな?」
彼女はどうやらアースアイであることを隠しているらしい。僕は大きく頷いた。すると、彼女はぱぁっと明るく笑った。
「じゃあ、私カラコンつけてくるから。先に教室行っててね。」
そう言いながら走り出す彼女の腕を僕は無意識に掴んでいた。
きょとんとしている彼女の顔を見て自分がしたことを自覚する。僕は咄嗟に手を離し、彼女から視線を逸らしながら呟いた。
「僕も着いて行くよ。他の人にバレないかも心配だし。トイレの入り口近くで待ってるから。」
彼女は数回目を瞬かせてクスッと笑った。
「恭介くんが付いてきてくれるんだったら安心かも。」
そう言いながらもくすくす笑っている彼女から僕は目が離せなかった。
