忘れてしまう君だけど

展望デッキに立つと、山頂にある湖が見えた。こんなところに湖があるのかと僕は驚いた。
説明の書いてある看板を見てみると、この湖はカルデラ湖と言う種類の湖らしい。
一緒に見た景色を決して忘れないように、僕たちは何枚も何枚も写真を撮った。
湖はもちろん、湖を見つめる彼女の後ろ姿も、振り返って見せた彼女の笑顔も。
優しく吹く風によって乱れる髪を抑え、スカートを靡かせている彼女を見ていると、
僕と翠生が出会ったあの入学式の日に屋上で見た彼女の後ろ姿を思い出した。

ふと、彼女の動きが止まった。彼女は湖のほうを見つめてぼうっと立っている。
何かあったのかと思い、僕は彼女のほうへ歩み寄り、顔を覗き込んでみた。
すると、彼女の瞳から一筋の涙が流れ落ちていた。
「こうやって一緒に作っていった楽しい思い出も私の心には留まってくれないの。」


「翠生、君は僕にとって一番大切な人だ。君が背負っているものもその辛さもわかってる。それでも僕は君のことが大好きなんだ。」
「私も恭介くんのことが大好き。恭介くんのことが大好きだからこそ、私はこれからもたくさんのことを忘れていく。」

ベンチに腰掛けて、僕は今まで翠生と撮った写真を振り返りながら翠生が忘れてしまった思い出について話した。
はじめは、
「この時はどんなことしたの?」
「楽しかった?」
などたくさん写真に関する質問を僕にした。
忘れてしまっていても翠生が、僕との思い出を大切にしようとしてくれているのだと感じて僕はとても嬉しかった。
 

 嬉しさの余り僕はひたすら、翠生が今までの僕との出来事を思い出すことができるようにこれまでの話をたくさんした。
 翠生が涙を流していることにも気づかないくらい夢中で。