忘れてしまう君だけど




 僕と翠生は路線バスに乗って山の麓へ向かった。
 路線バスは、地域の過疎化によって最近はあまり利用者が少ないようだった。
バスの中に乗っていたのは僕たちと一組の老夫婦だけだった。
山道をどんどん進んで行く。そよ風に揺れる葉、やさしく差し込む木漏れ日、バスの心地よい揺れ。すべて趣のあるものだった。

 同じバスに乗っている老夫婦に目を向ける。話している内容は聞こえなかったが、窓の外を指差して、微笑みながら話している老夫婦を見ていると、どこか心を暖かくするものがあるように感じた。
いつか、この老夫婦のように翠生と仲睦まじく歳を重ねたい。そんな思いを口にはすることができなかった。
隣に座る翠生の横顔を見つめる。窓の外を輝く瞳で見つめる彼女が遠足に出かける子供のようで愛らしかった。


そして、二人でロープウェーに乗った。
ワクワクした様子で2人分のチケットを空に掲げて微笑んでいる彼女の姿を僕は写真に収めた。
ロープウェーを降りて、あまり舗装されていない道を二人で手を繋いで歩いた。
日常生活の中では見ることのできないような景色に目を奪われる。
自然に包まれ穏やかな空間の中、翠生と一緒にいる。
僕はこれまでに感じたことのないくらい幸せだった。