デロリアンというのは楓馬が乗ってきた未来の車で、タイムマシンの機能がある。時空を自由にすっ飛べるので、こうして今から数か月前の世界の異国の地まで一瞬で行くことも可能。楓馬はたった百年後の未来から来たっていうけれど、百年でこの世界は信じられない進歩を遂げたようだ。
「パオなんかには絶対わからないよね、女の子にとって、いや恋人同士にとって、クリスマスがどれだけ大事なものか」
マーケットの風景を見下ろしながら言う。吐いた息は煙みたいに真っ白で、瞬く間に宙に溶けていく。
「大事な人ができると、その人と甘いクリスマスを過ごしたいって思うものなのに。家族や友だちと過ごすクリスマスより、ずっと特別な聖夜。まあ、私も楓馬に出会うまでは、よくわからない感覚だったけど」
言いながらちょっと頬が熱くなる。
恋愛に疎い上、ろくに友だち付き合いもしてこなかった私。そんな私は楓馬によって、変わった。
この世界と私たちの運命を変える大事なその日の前に、二人で恋人たちのクリスマスをやりたい。そう思うくらいには。
「みんな、幸せそうだよね」
楓馬がマーケットの風景を見下ろしながら言う。クリスマスプレゼントを買ってもらってはしゃぐ子どもたち、肩を並べて歩く老夫婦、私たちみたいなカップル。みんな幸せそうだ。
「こんなにたくさんの笑顔を見ていると、やっぱり人間って素晴らしいなって。この世界は本当にいいところだって、思うんだ」
「うん」
「だから、絶対守らなきゃいけないよね」
楓馬が手を握ってきて、私はその華奢だけど力強い手を握り返す。
そう、私は世界まるごとの運命を変えるためのある決断をして、今から数日後、そのために大きな行動に出る。
楓馬とこんなふうに呑気にしていられるのも、あとわずかのことなのかもしれないんだ。
大聖堂を降り、渋る楓馬を引っ張って、広場のメリーゴーランドに乗る。ほとんど子どもばっかりだけど、なかには大人の姿もある。木馬が曲に合わせて回転しだし、上下する。景色がゆっくりと回り出す。
「きれい……」
きらきらした飾りつけも立派なクリスマスツリーも、集まる人たちの笑顔も。
すべてが愛しくて、やっぱり守っていかなきゃいけないと心から思う。
私がいちばん守りたいのは楓馬。だけど、自分たちさえ幸せならいいっていうのは、愚かで浅はかな考えだ。
楓馬を守ることが世界を守ることにつながるから、私は勇気を出して運命と立ち向かえる。
「ほう、なかなかいいじゃないか」
「パオ!」
いつのまにやら出て来たんだろう、気が付けばパオが木馬の頭の、ツノとツノの間に腰を下ろし、気持ち良さそうに目を細めている。
「過去の遺物だと思ってたが、これはたしかに馬鹿なニンゲンたちが夢中になるはずだ。悪くないぞ、うん」
「もう、どうしていつもそう上から目線なのよ!」
思わず大きな声を出してしまって私を見て、楓馬が笑ってる。
どこからか、マライアキャリーの歌が聞こえてくる。曲はもちろん、「恋人たちのクリスマス」。
サンタさん、今年はプレゼントはいらないよ。
欲しいものはもう、手に入ったから。
<END>
「パオなんかには絶対わからないよね、女の子にとって、いや恋人同士にとって、クリスマスがどれだけ大事なものか」
マーケットの風景を見下ろしながら言う。吐いた息は煙みたいに真っ白で、瞬く間に宙に溶けていく。
「大事な人ができると、その人と甘いクリスマスを過ごしたいって思うものなのに。家族や友だちと過ごすクリスマスより、ずっと特別な聖夜。まあ、私も楓馬に出会うまでは、よくわからない感覚だったけど」
言いながらちょっと頬が熱くなる。
恋愛に疎い上、ろくに友だち付き合いもしてこなかった私。そんな私は楓馬によって、変わった。
この世界と私たちの運命を変える大事なその日の前に、二人で恋人たちのクリスマスをやりたい。そう思うくらいには。
「みんな、幸せそうだよね」
楓馬がマーケットの風景を見下ろしながら言う。クリスマスプレゼントを買ってもらってはしゃぐ子どもたち、肩を並べて歩く老夫婦、私たちみたいなカップル。みんな幸せそうだ。
「こんなにたくさんの笑顔を見ていると、やっぱり人間って素晴らしいなって。この世界は本当にいいところだって、思うんだ」
「うん」
「だから、絶対守らなきゃいけないよね」
楓馬が手を握ってきて、私はその華奢だけど力強い手を握り返す。
そう、私は世界まるごとの運命を変えるためのある決断をして、今から数日後、そのために大きな行動に出る。
楓馬とこんなふうに呑気にしていられるのも、あとわずかのことなのかもしれないんだ。
大聖堂を降り、渋る楓馬を引っ張って、広場のメリーゴーランドに乗る。ほとんど子どもばっかりだけど、なかには大人の姿もある。木馬が曲に合わせて回転しだし、上下する。景色がゆっくりと回り出す。
「きれい……」
きらきらした飾りつけも立派なクリスマスツリーも、集まる人たちの笑顔も。
すべてが愛しくて、やっぱり守っていかなきゃいけないと心から思う。
私がいちばん守りたいのは楓馬。だけど、自分たちさえ幸せならいいっていうのは、愚かで浅はかな考えだ。
楓馬を守ることが世界を守ることにつながるから、私は勇気を出して運命と立ち向かえる。
「ほう、なかなかいいじゃないか」
「パオ!」
いつのまにやら出て来たんだろう、気が付けばパオが木馬の頭の、ツノとツノの間に腰を下ろし、気持ち良さそうに目を細めている。
「過去の遺物だと思ってたが、これはたしかに馬鹿なニンゲンたちが夢中になるはずだ。悪くないぞ、うん」
「もう、どうしていつもそう上から目線なのよ!」
思わず大きな声を出してしまって私を見て、楓馬が笑ってる。
どこからか、マライアキャリーの歌が聞こえてくる。曲はもちろん、「恋人たちのクリスマス」。
サンタさん、今年はプレゼントはいらないよ。
欲しいものはもう、手に入ったから。
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