「できたよ」「こっちも」柚子と若菜が私のヘアメイクをしてくれて3人で記念写真。
秋晴れの文化祭。
東川高校第57回[ 翔華祭 ]。
パフォーマンス開始まで後15分、準備は完了。校門を入って真っ直ぐ進んだロータリーに5メートル四方の画用紙をセットした。
「このタトゥーもヘアゴムも神崎くんが用意したの?」
「うん。
ツナギも全部お揃いで用意してくれた」
衣装は俺に任せて、と言っていたけれど……さっき渡されたアイテムは全部が青色で私好み。
二人がタトゥーシールを頬に、髪を2つに編み込んでくれた。
「神崎くん、色々考えてくれたんだね。真白のこと」
私はぎゅっと唇を詰むんで返事に困る。
葵くんにはいつも振り回されてるような気もするけれど……
いつだって独りよがりのワガママではなくて、お返しやエールをちゃんとくれた。
今日までも準備に悩んだり考えたり、私が首を傾げるポーズを取る度に「じゃあ、こうゆうのはどぉ?」次々にアイデアを出して、いとも簡単に私の不安を解消してくれてきたのだ。
昨日も最後の準備、納得いくまで空書きを二人で繰り返した。
道具の使い方や試し塗りは何度もしたけれど、通しで色をつけて描くのは一発本番。完成図は私達の頭の中に。
理想どおりにうまくできるかな……
何回練習しても自信がつかない。
『失敗もあり! それも即興のお楽しみだから』葵くんは言った。
どれだけ勇気を貰ったことだろう。
「あーあー、マイクテスト……」
「もう音出てるって!」
突然校舎のスピーカーから知った声が。葵くんと純平だ。
「みなさ~ん、美術部からのお知らせです! 今から校舎前ロータリーでアートパフォーマンス始めます! ぜひ見に来てね〜」
学校中に告知が響き渡り、私は胸に手を当てて深呼吸をする。これから始まる大挑戦に冷静さと闘志と高める私が珍しかったのか、おもむろに二人はかしこまって告げた。
「私さ、真白は独りで絵を描くのが好きなんだと思ってた。でも違ったね……」
「そうだね、人前も苦手だと思ってたけど……凄いよ! 絵のチカラ伝えようって気持ちが勝ってるもん」
「神崎くんは、ちゃんとわかってたんだね」
柚子と若菜が顔を合わせて苦笑いする。
「私達も真白の絵、大好きだからね」
「成功するよう応援してるっ」
二人は笑顔で私に力強い声援をくれた。いつも励まして支えてくれるお陰で、私の芯がピンと張る。
すると校舎から葵くんと純平が出てきて私を呼んだ。
葵くんも頬にタトゥーをして、前髪をあげて1つに結んでいた。ほんとにヘアゴムまでお揃いでつけるとは、幼いような可愛らしい姿に意表を突かれて肩で一瞬笑う。
「お! 似合ってるじゃん。俺らペンキ屋みたいだな?」
葵くんのひと声に「ははっ。じゃあ始める合図送って!」純平が笑いながら通り過ぎて行った。
「それじゃ、お楽しみ始めますか!?」
葵くんが拳を私に向けるので、ガッチリと突き合わせた。
キラン、キラン♪
小さな星が弾ける。
もう確信してしまった―――。
これが高校生活一番の思い出になる……
ううん、人生でかけがえのない経験になる!
きっと一生、死ぬまで忘れたりしない!!
ロータリーにたくさんのオーディエンスが集まった。校舎の窓から覗き込む人達も、先生達も遠巻きに見守るように。
葵くんとスタンバイは完了。
それぞれにウォーターガンを抱えて構える。この格好にはお決まりのゴースト退治の映画ソングが大音量で流れると、いよいよスタートだ!
「わぁ〜!」私達が観客に向けて打つ仕草をするとたじろぐ男子にどよめきが起きる。葵くんの狙い通り。私達は目を合わせるとせーのっでキャンバスに向けて発射した。
「おぉ〜」歓声が一瞬沸く。ウォーターガンの中には青色の絵の具。それを飛ばし続けて双方から空をまず描く。
中身が切れた。よし、移動して次!
画用紙の端に準備したモップを手に取る。純平は曲をオーバー・ザ・レインボーに。
赤・桃・橙の配色されたモップをキャンバスに乗せると私は反対の端までアーチを引く。
続いて葵くんが黄・緑・紫のモップを私のに沿わせて内側に引いた。
大きな虹が出来上がると拍手と感嘆の声が耳に届いた。
それは私のクオリアを爆発させたみたい。右手にチカラがみなぎる。
水挿しのバケツに入れた絵の具を持ちながら、虹の下に我が校の外観を大胆に一振りずつ描き始める。なるべく一筆書きで毛の掠れ具合で陰影をつけて。
一方で純平は扇風機を近づけて乾燥を促し、葵くんは青空にチョコ色で「Shoka Fes.」となんと天地逆向きで挑戦。私の邪魔にならないように画用紙の外から。
きっと大丈夫。
葵くんは英語が得意なはず。イヤホンで聴いていたのは洋楽だったし、山での鼻歌も英語を口ずさんでたから。
音楽がQUEENを代表する愛の曲に移ると手拍子も大きくなって、キャンバスも白い部分はあと地の部分を残すのみ。
私はバケツと刷毛を持ち替えてスペースに向日葵を咲かせる。
反対側は葵くんがダンボールとスポンジで手作りした桜の花のスタンプを押して満開に。
ペイントはこれで終了だ。
私の最後の仕上げは接着剤の付いた箒でキャンバスを一周はらって葵くんの元に戻る。
「できた!」
「オッケ!」
掻き消されそうな私達の声はちゃんと伝わりあった。音楽もピッタリ終盤。
私は箒を置くと耳を両手で塞ぎ、葵くんはバズーカ砲を手にして観客に見せびらかす。
これがパフォーマンスの最後の一振り。「おぉ〜」と期待の声があがる中、葵くんは空に向けて大きな破裂音と共にそれを放った。
パアァーンッ!!
―――キラキラ、キラキラ。
星屑が舞い降りる。
う、わぁ……
葵くんは本当に……星を降らせてくれた。
―――キラリ、キラリ。
眩い輝き……
それは、希望の光……
幸せの証。
また奇跡が起きたみたい。
山で見た虹を再現できた。
あの感動をまたこの瞳に映せるなんて……泣いてしまいそうだ。
はっ!!
割れんばかりの拍手喝采に驚いて観客を見渡すと、皆もキラキラのオーラに包まれていて。
伝わったんだ、絵に込めた想いが……
胸が熱くなって私の中を幸せだけが占領する―――。
「……! 葵くん?」
「真白、行こ」
ぼーっと立ち尽くす私を葵くんはキャンバスの前に連れて行く。慌ててお辞儀をして御礼をした。
若菜と柚子は目を擦りながら拍手をしてくれて。
葵くんは長い一礼の後、満遍なく手を振って頭を下げた。礼儀正しい、そんな姿勢を私も真似をした。
たくさん感謝をした後に改めて葵くんと顔を合わせると、開放感で表情がほころぶ。
「大成功、でいんじゃない?」
「うん」
葵くんの掌が私に向けられて、私はぱちんと軽快な音を鳴らした。
でも葵くんは……
「もっとだよ!」イタズラ顔で自分の頭よりはるか高く手を挙げたんだ。
私を、私の喜びを引き出すかのように。
高らかに空に上げた大きな手をめがけて、私はぴょんとジャンプして、今の気持ちと同量の大きな音を出して見せた。
ぱっちーん!
葵くんと私の手が合わさって星を出す。
葵くんは満足気に笑ったあと、なぜか真顔で驚いていたんだ。
「笑って……」ぼそっと呟いて私をまじまじと見る。
今日の私達はお揃いだから、きっと写し鏡でしょう?
今すっごく嬉しいの、心に収めておけない。今まで一番幸せな気分なの、閉じ込めておけない。
葵くんがニコニコしてるから、私もそうして同じようにしていたんだと、思う。
「「 !?!? 」」
わっと周りで見ていた友達が寄ってくる。笑顔の輝きに囲まれて私達の文化祭は幕を閉じた。
秋晴れの文化祭。
東川高校第57回[ 翔華祭 ]。
パフォーマンス開始まで後15分、準備は完了。校門を入って真っ直ぐ進んだロータリーに5メートル四方の画用紙をセットした。
「このタトゥーもヘアゴムも神崎くんが用意したの?」
「うん。
ツナギも全部お揃いで用意してくれた」
衣装は俺に任せて、と言っていたけれど……さっき渡されたアイテムは全部が青色で私好み。
二人がタトゥーシールを頬に、髪を2つに編み込んでくれた。
「神崎くん、色々考えてくれたんだね。真白のこと」
私はぎゅっと唇を詰むんで返事に困る。
葵くんにはいつも振り回されてるような気もするけれど……
いつだって独りよがりのワガママではなくて、お返しやエールをちゃんとくれた。
今日までも準備に悩んだり考えたり、私が首を傾げるポーズを取る度に「じゃあ、こうゆうのはどぉ?」次々にアイデアを出して、いとも簡単に私の不安を解消してくれてきたのだ。
昨日も最後の準備、納得いくまで空書きを二人で繰り返した。
道具の使い方や試し塗りは何度もしたけれど、通しで色をつけて描くのは一発本番。完成図は私達の頭の中に。
理想どおりにうまくできるかな……
何回練習しても自信がつかない。
『失敗もあり! それも即興のお楽しみだから』葵くんは言った。
どれだけ勇気を貰ったことだろう。
「あーあー、マイクテスト……」
「もう音出てるって!」
突然校舎のスピーカーから知った声が。葵くんと純平だ。
「みなさ~ん、美術部からのお知らせです! 今から校舎前ロータリーでアートパフォーマンス始めます! ぜひ見に来てね〜」
学校中に告知が響き渡り、私は胸に手を当てて深呼吸をする。これから始まる大挑戦に冷静さと闘志と高める私が珍しかったのか、おもむろに二人はかしこまって告げた。
「私さ、真白は独りで絵を描くのが好きなんだと思ってた。でも違ったね……」
「そうだね、人前も苦手だと思ってたけど……凄いよ! 絵のチカラ伝えようって気持ちが勝ってるもん」
「神崎くんは、ちゃんとわかってたんだね」
柚子と若菜が顔を合わせて苦笑いする。
「私達も真白の絵、大好きだからね」
「成功するよう応援してるっ」
二人は笑顔で私に力強い声援をくれた。いつも励まして支えてくれるお陰で、私の芯がピンと張る。
すると校舎から葵くんと純平が出てきて私を呼んだ。
葵くんも頬にタトゥーをして、前髪をあげて1つに結んでいた。ほんとにヘアゴムまでお揃いでつけるとは、幼いような可愛らしい姿に意表を突かれて肩で一瞬笑う。
「お! 似合ってるじゃん。俺らペンキ屋みたいだな?」
葵くんのひと声に「ははっ。じゃあ始める合図送って!」純平が笑いながら通り過ぎて行った。
「それじゃ、お楽しみ始めますか!?」
葵くんが拳を私に向けるので、ガッチリと突き合わせた。
キラン、キラン♪
小さな星が弾ける。
もう確信してしまった―――。
これが高校生活一番の思い出になる……
ううん、人生でかけがえのない経験になる!
きっと一生、死ぬまで忘れたりしない!!
ロータリーにたくさんのオーディエンスが集まった。校舎の窓から覗き込む人達も、先生達も遠巻きに見守るように。
葵くんとスタンバイは完了。
それぞれにウォーターガンを抱えて構える。この格好にはお決まりのゴースト退治の映画ソングが大音量で流れると、いよいよスタートだ!
「わぁ〜!」私達が観客に向けて打つ仕草をするとたじろぐ男子にどよめきが起きる。葵くんの狙い通り。私達は目を合わせるとせーのっでキャンバスに向けて発射した。
「おぉ〜」歓声が一瞬沸く。ウォーターガンの中には青色の絵の具。それを飛ばし続けて双方から空をまず描く。
中身が切れた。よし、移動して次!
画用紙の端に準備したモップを手に取る。純平は曲をオーバー・ザ・レインボーに。
赤・桃・橙の配色されたモップをキャンバスに乗せると私は反対の端までアーチを引く。
続いて葵くんが黄・緑・紫のモップを私のに沿わせて内側に引いた。
大きな虹が出来上がると拍手と感嘆の声が耳に届いた。
それは私のクオリアを爆発させたみたい。右手にチカラがみなぎる。
水挿しのバケツに入れた絵の具を持ちながら、虹の下に我が校の外観を大胆に一振りずつ描き始める。なるべく一筆書きで毛の掠れ具合で陰影をつけて。
一方で純平は扇風機を近づけて乾燥を促し、葵くんは青空にチョコ色で「Shoka Fes.」となんと天地逆向きで挑戦。私の邪魔にならないように画用紙の外から。
きっと大丈夫。
葵くんは英語が得意なはず。イヤホンで聴いていたのは洋楽だったし、山での鼻歌も英語を口ずさんでたから。
音楽がQUEENを代表する愛の曲に移ると手拍子も大きくなって、キャンバスも白い部分はあと地の部分を残すのみ。
私はバケツと刷毛を持ち替えてスペースに向日葵を咲かせる。
反対側は葵くんがダンボールとスポンジで手作りした桜の花のスタンプを押して満開に。
ペイントはこれで終了だ。
私の最後の仕上げは接着剤の付いた箒でキャンバスを一周はらって葵くんの元に戻る。
「できた!」
「オッケ!」
掻き消されそうな私達の声はちゃんと伝わりあった。音楽もピッタリ終盤。
私は箒を置くと耳を両手で塞ぎ、葵くんはバズーカ砲を手にして観客に見せびらかす。
これがパフォーマンスの最後の一振り。「おぉ〜」と期待の声があがる中、葵くんは空に向けて大きな破裂音と共にそれを放った。
パアァーンッ!!
―――キラキラ、キラキラ。
星屑が舞い降りる。
う、わぁ……
葵くんは本当に……星を降らせてくれた。
―――キラリ、キラリ。
眩い輝き……
それは、希望の光……
幸せの証。
また奇跡が起きたみたい。
山で見た虹を再現できた。
あの感動をまたこの瞳に映せるなんて……泣いてしまいそうだ。
はっ!!
割れんばかりの拍手喝采に驚いて観客を見渡すと、皆もキラキラのオーラに包まれていて。
伝わったんだ、絵に込めた想いが……
胸が熱くなって私の中を幸せだけが占領する―――。
「……! 葵くん?」
「真白、行こ」
ぼーっと立ち尽くす私を葵くんはキャンバスの前に連れて行く。慌ててお辞儀をして御礼をした。
若菜と柚子は目を擦りながら拍手をしてくれて。
葵くんは長い一礼の後、満遍なく手を振って頭を下げた。礼儀正しい、そんな姿勢を私も真似をした。
たくさん感謝をした後に改めて葵くんと顔を合わせると、開放感で表情がほころぶ。
「大成功、でいんじゃない?」
「うん」
葵くんの掌が私に向けられて、私はぱちんと軽快な音を鳴らした。
でも葵くんは……
「もっとだよ!」イタズラ顔で自分の頭よりはるか高く手を挙げたんだ。
私を、私の喜びを引き出すかのように。
高らかに空に上げた大きな手をめがけて、私はぴょんとジャンプして、今の気持ちと同量の大きな音を出して見せた。
ぱっちーん!
葵くんと私の手が合わさって星を出す。
葵くんは満足気に笑ったあと、なぜか真顔で驚いていたんだ。
「笑って……」ぼそっと呟いて私をまじまじと見る。
今日の私達はお揃いだから、きっと写し鏡でしょう?
今すっごく嬉しいの、心に収めておけない。今まで一番幸せな気分なの、閉じ込めておけない。
葵くんがニコニコしてるから、私もそうして同じようにしていたんだと、思う。
「「 !?!? 」」
わっと周りで見ていた友達が寄ってくる。笑顔の輝きに囲まれて私達の文化祭は幕を閉じた。