「凜!」 

 あ、来た。
 私を呼ぶ声の方へ、すぐ顔を向けた。

 ゴメン ×10……て連呼しながら、テーブルの席に着く。

 ふふっ、いつもの優さんだ。

「早く会いたかったよ〜」

 この嬉しそうに嘆く話し方も、優さんらしくて……好き。

 会社の駅前のカフェ。
 彼は出張帰りに、東京へ戻らず地元に来てくれた。

 同じ会社だけど、今は2年間の出向中。今日も2週間ぶりに会う。

「ほんとに短くなった…… 」

 優さんは向かいの席から手を伸ばして、私の髪を指ですいてくる。

「なんか、お手入れが追いつかなくて……」

 さっき美容室に行ってきたばかり。ロングだった髪を、結構バッサリいった。

 ふうん……何度も髪を指でとかして、優しい視線を送ってくる。

 彼に触れられるのも、見つめ合うひとときも、この安心感が本当に落ち着く。

 こり固まってた体が、ほぐされてくみたいに……心から、溶けだしてくるの。

 優さんが愛しいなぁ、って。

 良かった。
 私、ちゃんと、うまくやれてる。

 梶くんとの事があって……
 一番不安だったのは、気持ちが揺らいだら、どうしようって―――。

 今、いつも通りに彼を想う自分に安心した。

 それで、たぶん……
 もっと好きになってる。優さんを。

 身勝手な私の話を聞いてくれて、全部受け入れてくれてる優さんのこと。

 前より、もっと、大切だと想う―――。