プシュー。 
 新幹線のドアが閉まる。

 優さんに背中を押されて、弾みで乗り込んだ。

 何で、優さんも……
 梶くんみたいな、抱き方……!?

 振り返って、窓越しに見えた優さんは、泣きそう―――。 

 どうして、そんな顔?

 遠ざかる彼の姿を、窓にへばりついて覗いてみていた。
 けれどすぐ景色に消えてしまった。

 私、何か……あっ。

「あの! 落としましたよ」

 隣の号車から通り過ぎる人に、急いで声をかけた。

 落ちた乗車券を拾って、手渡した時、変な違和感を覚えて……?

 「ありがとう」その人が去った後も、自分の左手をまじまじと見て、気付いた。

 私、いつから、こんな風に……薬指だけ曲げてる。 

 何でだろう?
 って、そう。

 昨夜みたいに、ふとした拍子に、指輪が抜けてしまうから。

 これをしてないと、自分を見失い……そうで?

 無理に? 

 婚約者で、あり続けようとした……??

 だから、優さんに、あんなこと言わせた……。


 私が、優さんに……あの抱き方をさせたんだ!

 はっ―――。
 自分で自分に引いて、息をのんだ。

 私が優さんを、利用してた!

 梶くんの為に……優さんを利用したんだ!

 私は優さんを愛しながら、梶くんのことも大事に想ってる……

 優さんに愛されながら、私は……
 梶くんを思い浮かべて、助けたいと望んでる。

 正直に、キスの事故も言えなかった……

 もし話して、梶くんをとがめられたら、もう会いに行けなくなる。

 それは避けたいからだよね?

 今回だって、会いに来たのは……
 愛し合う行為はないって、わかってたからでしょう?

 だって、今までと同じになんて……
 自信なかったもの……


 私はズルイ。最っ低だ!
 これは完全な不貞行為だ!

 こんなの……大馬鹿もんでしょうがっ!

 どっちにも不誠実で、中途半端で、私がふたりとも傷つけている。


「……はっ、はぁ、はぁ、くっ」

 息が苦しい。
 涙があふれる。
 溺れそうだ。

 もう時間がないのに……
 泣いてる時間なんてないのに……

 あがいても、もがいても、この世界でどう生きるのか―――
 答えは見つからなかった。