まだ隆平は7歳だってのに……。

 わかってはいたけど、ツライ現実は、昔の記憶を呼び起こす。

 両親の死がフラッシュバックして、その時の悲しみが感覚を蘇らせた。

 うつむき加減だった俺の首筋に……

 ポタッ、ポタッ。

 肩に滴るこの感じは……俺、これ覚えてる。



 凜が言ってくれた時だ。
 中学の部室で……ひとりにしないって、俺の背中に響く声で。

 そして肩が熱くなって、どんどん湿って……!

「凜!」

 泣いてる―――そうだろ?
 あんときみたいに!

 振り返ると、凜は口を手で覆って、顔をそむけた。

「……凜?」

 こもったうめき声が降ってくる。

「こっち、来て……」

 手を差し出したものの、凜はすり抜けて、よれよれとうずくまった。

 俺に背を向けて、小さくなって……

 時折、波打つように背中を震わせて、いっそう縮こまる。
 声を押し殺して……。

 ごめん、凜。
 また俺が泣かせたんだ。

 ごめん、泣くな。
 凜が泣いてると、俺……。

 ためらいながら、手が伸びていってしまった。

 ずっと……
 この手は、凜に伸ばしちゃいけない―――気がしてたんだ。

 つかまえちゃいけない、って。
 でも!

 いつだって凜は、寄り添ってくれるのに、ひとりで泣かせておくなんて―――


 俺のクソ野郎!
 何で届かねーんだよ!
 何で車椅子なんか乗って……

 動けよ! 俺の体! 

 ―――凜に、手を、伸ばせ!!

 ガシャン! 
 車椅子は傾いて大きく音を立てた。

「……っ」

 ジーンと体を駆け巡った痛みの中で、ちゃんと俺……凜をつかんでた。


 必死に伸ばした俺の手が、凜の涙でぬれた小さな手を、しっかりぎゅっとつかまえてた。

 すっぽり腕の中に、凜をしまえてた。


「うぅ……どうしてっ!
 何で!  いつも、梶くんばっかり!」

 凜の体が暴れてる。

「梶くんばっかり、こんなめに!!」

 ありったけの力で、凜の上下する肩を受けとめた。

 わかった。
 わかったよ、凜……

 泣きたかったワケじゃないんだろう?
 俺が手をとってしまったから……吐き出してくれてるんだよな。

 俺の代わりに……
 俺が飲みこんでた本音を、凜がくみ取って、わめき散らしてるんだ。


 本当は俺が、そう、叫びたかったんだ!


 ぎゅうっと抱きしめて、凜の肩に顔をうずくめる。

 もういいんだ、凜。
 俺のせいで、もう苦しまなくていい―――。

 凜が壊れないように、力いっぱい願った。


 凜の慟哭が、俺の心と共鳴する。
 繋がり合おうと、求めてしまう……
 一緒にまた涙を流してしまう……

 どうか、止めてくれ!
 頼むから、この俺達の衝動を―――

 どうか、この時間を止めてしまってくれ!