なぜか梶くんが、よそよそしい……

 せっかく距離が縮まったかと思ったのに、また元に戻った気がして。

 私、何かした?
 ふりだしからやり直し、みたいで……
 なんか、やる気に火がついた。

 商業イベントに乗っかって、ハロウィンのお菓子を大量に買い込んで登場したら、久しぶりに梶くんの笑った声が聞けた。

 小袋に詰めてリボンをして、梶くんのベットがお菓子だらけになった。

 小児科にプレゼントして、春見さんのお子さんにも、隆平くんにも。

 学校の文化祭みたい、ってふたりでゆったり過ごした。

 思い切って……
 「クリスマスも、またやろうね」言ってみたけど。

 「……うん」て、小さな返事がひとつだけだった。

 それでも、私、めげない!

 12月は……奇跡をおこしたい!

 梶くんの元気が損なわれていくと、私は躍起になっていた。

 夕方の散歩に車椅子を押して、お気に入りのベンチへ……

 誰か……いる。

 梶くんと顔を合わせたけど、お互いに??。

 柵の前に立って、景色を眺めているようだった。

「こんにちは」

 私が声をかけると、びっくりしてこちらにふり向いた。

 あぁ! 
 もう1度、梶くんと顔を見合わせて、うんうん。 

 隆平くんのお母さんだ!

 ちょうど隆平くんにもお菓子を……って、何だか、様子がおかしい。

「あの……」

 梶くんが声をかけると、奥さんはぐっとこらえて、ふりしぼるように言った。

「主人は、先日……旅立ちました」

 え―――えっ!?

「自宅で、家族に見守られながら……穏やかな最期でした。どうか、どうか……あなたは、1日でも長く―――」

 そのあとの言葉は聞き取れなかった。

 顔を手で覆って、頭を下げると、足早に立ち去って行った。

 梶くんが後れながら頭を下げて、私も慌ててマネをした。

 一瞬、気がどうかしてた……。
 まだ声が、出せない。

 しばらく続いた沈黙を、梶くんが破った。

「……最近、全然見かけなくなって。
 もしかしたら、って」

 先月、ここで会ったばかりなのに?
 ……こんな、すぐに? 

 待って!

 梶くん、もしかしたらって……死の兆候……
 わかるの!?

 私、こんな急に病気が進行するなんて、死に繋がるなんて、考えてもみなかった……

 もっと徐々に、少しずつって……違うの?


 梶くんは、自分のタイムアップ……
 感じて、いるの ――?

「隆平が心配だな……」

 梶くんがそっとつぶやく。

 あ……
 私の記憶が瞬く間にスクロールする。

 過去の梶くんが、悲しげな姿ばかりが、サーッと。

 ダメ、ダメ。
 梶くんと隆平くんが重なり合ってしまう―――。

 ダメって言ってるのに!

 堪えきれない想いが溢れた。