(むぐら)はふ

下にも年は()ぬる

身のなにかは

玉の(うてな)をも見む


「確かに。私が姫ならば、此の様な断りを入れるだろうが……」

宮中にお戻りになられた帝は、姫からの返歌を、繰り返しご覧になられていた。

──つる草が生い茂るような家で、年月を過ごしてきた身分の低い者でございます。玉のように貴いお方とは、つりあいません──

つれない返事といえば、それまで。ただ、詠われているように、身分の差は歴然たるもの。

帝は、いたく心を乱された。

姫の言い分は確か。それに返す言葉がなかったからだ。

さて、宮中には、美女という美女が集められている。しかし、つい、袖を掴んでしまうほど、光り輝く美しさを持つ者はいなかった。あの時、視界に飛び込んで来た姫の姿が忘れられず、帝は、ただただ、やるせなさに、さいなまれておられた。

そして、帝は、決心なされる。

無難な断りが返って来るであろうと、ご理解なされておられたが、どうしても、姫の心の内をお知りになりたく、文をしたためられたのだ。

とはいえ、立場上、一人の姫君へ向けて、文を送るのは、良からぬこと。

そこで、勅旨を下される体で、誰に、とは分からぬよう、事を進められた。

帝からの、御触れが下されたと、さっそく、諸事を取り仕切る中将の、高野大国(たかののおおくに)が、帝のおわす御簾の向こう側で平伏している。

中将の内でも非常に生真面目で、強い忠誠心を持つこの男を帝はお選らびになられた。姫君へ文を送る旨を、他に知られない為に──。

事の真相を聞き、中将は、非常に驚いたが、帝のお望みとあらばと、素直に命に従い、異例中の異例、帝の文を、一介の女人に届けるという重責を人知れず果たした。

内には、勅旨の知らせだと、我が勤めを全うするだけ、外には、噂のかぐやの姫君が、気になると、口実にして。

こうして、帝からの文は、姫君へ無事に届けられるが、姫も、帝のお心に触れたことで、何かしら思うところがあったのか、お返事をと、中将へ託したのだった。