カフェで会議をしていた幸近のスマホが鳴る――。
電話をかけてきたのは、いつもとは少し様子の違うカレルだった。
「幸近君やるじゃないか、僕を出し抜くだなんて」
「カレル! あんたの目的はなんだ?」
「まぁ僕の話を聞いてくれよ。まず君達が今日気付いてしまった事を警察に話せば、子供たちの命はないと思ってくれ」
「なんだと……」
「そして真実を知った君たちが生きていると僕も都合が悪い……そこで僕とゲームをしようじゃないか?」
「ゲームだと!?」
「明日、僕の目的は達成される予定でね。明日の夜8時、この事実を知った君達だけで研究所に来てくれたまえ」
「そこで何をしようって言うんだ」
「それは来てからのお楽しみだよ。君たちが約束を守ってくれると信じているよ――」
そうして電話は切られた。
「くそっ! 気付かれちまった!」
「なんでバレたのかしら……」
「こうなってしまったら、もう俺達だけでなんとかするしかないか……」
ケンちゃんは皆に向けて諭すように言った。
「幸ちゃん、それにみんな、聞いて? こうなってしまったからにはあたしも協力するけど、非常に危険な戦いになるわ。こんなこと言いたくはないけど、相応の覚悟もしておいて欲しいの」
「ケンちゃん殿、覚悟とは死ぬ覚悟ということだろうか?」
山形が問うと、ケンちゃんは長い瞬きをして続ける。
「それもそうだけど……あなたたちにはもっと辛いものよ。あの子達や他の仲間に、例え何があったとしても前に進む覚悟よ」
すると5名は、それぞれ覚悟を決める。
「そうさせない為に俺達は行くんだ」
「あの子達が笑って暮らせる未来を必ず守ってみせるわ」
「あたしも、あの子達とは似た境遇だから助けてあげたい!」
「私も逃げないぞ! この剣に誓って助けてみせる!」
「あんた達、わたしの足引っ張らないでよね!」
ケンちゃんはその覚悟を受けとると、前を向く。
「今日はお店はお休みにするわ。今できる事を考えて、入念に準備をしましょう」
翌日、約束の時間にオレ達は研究所へとやってきた。すると放送で音声が流れ出す。
「やぁ君たち、約束を守ってくれたようで嬉しいよ」
「子供達はどこだ!」
「そんなに焦るなよ。ではゲームのルールを説明しよう。
まず子供達の居場所だが、昨日説明した3つのドーム状の建物に1人ずつ子供達はいる。だがその建物は今から30分後に崩壊するようプログラムしておいた。
それを止めるには研究棟の最上階にある管制室に来なくてはならない。制限時間内に子供達を救出するか、管制室でこのプログラムを解除するか、どちらか好きなほうを選んでくれたまえ。
僕は昨日の研究室にいるから会いたければここまで来るといい。ではゲームスタートだ」
放送が鳴り止むと、ケンちゃんが皆に指示を飛ばす。
「みんな、昨日説明した通り相手が分断を測った場合のメンバー編成でいくわよ!
まず子供達の救出には3チームに分かれましょう。クリスタちゃんと唯ちゃんが向かって左のドーム。ソフィちゃんが向かって右のドームへ。サーシャちゃんは奥にあるドームに向かってちょうだい! あたしと幸ちゃんは研究棟へ向かうわよ!」
「了解!!」
俺達は一斉に走り出した。
「何かあればすぐにインカムでみんなの状況を教えてちょうだい!」
彼等の耳には、常に情報交換が出来るようにインカムがつけられていた。幸近達が研究棟へと向かっていると、唯の異能を使っていち早くドームへ到着したクリスタから通信が入る。
「大変よ! ドームの入口はどこも封鎖されている!」
それを聞いたケンちゃんがそれに応える。
「唯ちゃん! 真剣を使って入口を切り開きなさい!」
「承知した!」
幸近と唯の背中には、真剣が入った刀袋を背負っていた。
「サーシャちゃんとソフィちゃんも! 恐らく同じ状況の筈だから、入口を能力で破壊しなさい!」
「了解」
「了解だよー!」
唯の剣によって入口を切り開いた2人は、ドームの中へと入る。そこにはいつも笑顔で、少し生意気だけど決して憎めない少年がいた。だが今日のタケマルはいつもの様子とはほど遠く、目を赤く充血させ涎を垂らし憎悪に満ちた表情で2人を威嚇していたのだった。
「タケマル! 助けに来たわよ!」
「私達と一緒に帰ろうタケマル!」
「う゛ぅ゛ぅ゛ぅあ゛ぁ゛ぁ……」
2人の呼びかけも虚しく、呻き声を上げたタケマルは飛行しながら距離を詰め、持っていた杖のような長い棒を振り回しクリスタを殴り飛ばした。
「きゃっあ……」
「クリスタ殿! 大丈夫か!?」
クリスタは、ゆっくりと起き上がりながら答える。
「な、なんとかね……」
「こちら唯! タケマルを発見したが様子がおかしい!」
唯が通信を飛ばすとケンちゃんが尋ねる。
「どうおかしいの?」
「何というか凶暴化していてこちらの声も届いていない様子だ。それに力が今までよりも大幅に強くなっている」
「もしかしたらカレルに何か薬品を投与されているのかもしれないわ」
「どうすればいいだろうか?」
「とりあえず、今は時間が惜しいわ! なんとか無力化して外に連れ出しなさい!」
「心得た!」
クリスタは宙に浮いているタケマルを指差した。
「あんたとは学校で初めて会った時もこのマッチアップだったわね。覚悟しなさい! 必ずあんたを助ける!」
クリスタがタケマルに向かって発砲すると、タケマルはそれを空中で避けながらスピードを上げて反撃に向かってくる。
杖を振りかぶった所に、唯は加速によってクリスタとタケマルの間に入り込み刀で受けた。唯とタケマルの押し合いになったが、唯が押されていた。
「なんなんだ、この力は……」
「うう゛ぁぁあ゛あ゛あ゛!!」
と、タケマルが唸り声が響かせ、更に力が強まる。
唯が競り負けそうになったところに、クリスタの銃弾が放たれると、タケマルはそれを避けて距離をとった。
「唯! たぶんタケマルは正気を失っているけど、異能は機能していてわたし達の行動を読めるみたいだわ」
「では闇雲に攻撃しても仕方ないか……」
「あの時と同じようにわたしの能力で動きを止められれば……」
「それなら私に考えがある。でもその為には、まずタケマルを地上に降ろす必要がある!」
2人は近づいて作戦を確認しあった。
「なるほど……分かったわ!」
「クリスタ殿、歯を食いしばってくれ! せーのっ!」
唯が思い切り上に向かって振った剣の峰に足を乗せ、クリスタはそれと同時に跳躍をした。タケマルよりも高い位置に到達すると発砲し、標的をは地面近くへと誘導することに成功した。
そこに目掛けて唯が剣を振るが、それは空を切る。落下中のクリスタが攻撃を避けたタケマルに再度発砲すると今度は翼に当てる事に成功した。
「う゛があ゛ぁ……」
苦しむ声を上げたタケマルだったが、すぐに唯に向かって突撃し、杖を振りかぶって攻撃を仕掛けた。唯はそれを正面から刀で受けたが、吹き飛ばされ壁に叩きつけられてしまう。
倒れている唯に追い討ちをかけようとするタケマルにクリスタが発砲するが、それを後ろを向いたまま避けると、クリスタに狙いを変え杖の先で腹を突いた。
「がはっ……」
クリスタは目を見開いた苦しい表情を浮かべると、唯とは逆方向の壁に激突した。
起き上がった唯は『加速』しながらタケマルに向かっていく。
「山形流剣術一の太刀『一閃』!」
その攻撃も容易く避けられてしまい、唯はクリスタのいる反対方向の壁まで一直線に衝突した。猛スピードでぶつかった衝撃により辺りには土煙が舞っていたが、即座に振り返りもう一度『加速』をする。
だが今度は剣を振るうことはせずに、そのままタケマルの手前で速度を落とし……急停止する。
するとタケマルの動きが止まった――。
「唯! 今よ!」
「山形流剣術一の太刀『一閃』!」
動かなくなったタケマルに唯の剣が、やっと……当たる。
「安心してくれ、峰打ちだ……」
唯が剣を鞘に納めるとタケマルは倒れ込み、そのすぐ傍にいたクリスタに優しく抱き寄せられた。
唯の1度目の『一閃』は囮で、その真の目的はクリスタを抱えてタケマルに近づくことだった。そして2人一緒に2度目の『加速』によってタケマルに近づき、クリスタが幻惑をかけたのだった。
「こちらクリスタ、タケマル確保成功よ!」
第1部16話 ゲームスタート 完
《登場人物紹介》
名前:金土 たまも
髪型:黒髪ロング
瞳の色:黒
身長:145cm
体重:38kg
誕生日:4月10日(カレルと出会った日)
年齢:11歳
血液型:O型
好きな食べ物:いなり寿司、卵
嫌いな食べ物:なし
ラグラス:妖狐
様々なものに擬態する炎を生み出せる
その炎を纏い自分の姿を変化させる事も可能