「幽霊?」
俺がそう尋ねると、クリスタは話しを続けた。
「そうなのよ! 隣のクラスの子が昨日の夜、忘れ物をとりに学校に忍び込んだらしいの……。
廊下を歩いている時、ふと窓の外を見ると空を飛ぶ黒い影を見かけて、慌てて逃げ出すと廊下の奥には無数の人魂が浮いてたんだって……。
そしてなんとか忍び込んだ非常口まで辿り着いたんだけど、そこにはツノの生えた鬼がいたって言うのよ……」
「バカらしい、その子の見間違いでしょう」
冷たくあしらうソフィ。
「でも本当ならぜひ手合わせしてみたいものだ!」
と、脳筋な山形。
「あたしとお友達になってくれるかなぁ……」
サーシャは……まぁなんでもいい。
「だから今日の夜みんなで幽霊退治に行きましょう!」
クリスタのこの発言にオレとソフィは大反対をした。だがノリノリな残り3名のバカ達のせいで多数決に負け、今晩俺たちはゴーストハントへ出動する事になったのだ。
夕食を食べながら夏鈴にその話をする。
「お兄ちゃん怖いの苦手なのに大丈夫なの?」
「大丈夫な訳ないだろ。今すぐにでも風邪をひきたい気分だよ……」
「仕方ないなぁ。じゃあかりんもついてってあげる」
俺は知っている。こいつのこの顔は決して俺を心配している訳ではなく、ただ楽しそうだからついて行きたいだけだという事を。
約束の時間に学校へ集まった俺達は、クリスタの提案で3チームに分かれることに。反対してもどうせ多数決で負ける為、俺とソフィは諦めて覚悟を決めていた。今だけは民主主義を壊したい。
なぜか準備良く紙とペンを持っていたクリスタが即席でくじを作った。
「じゃあ、せーので引きなさい? せーのっ!」
くじ引きの結果、このような組み合わせになった。
クリスタ&山形ペアが校舎の外。
ソフィ&夏鈴ペアが校舎の中1階。
サーシャ&幸近ペアが校舎の中2階。
こうして俺たちの深夜の大冒険は始まったのだった。
――校舎外のクリスタ&唯ペア――
「夜の学校ってなんか雰囲気あるわね……」
「クリスタ殿、もし本当に幽霊が出てきたら竹刀は当たるのだろうか……」
「どうなのかしら、一応お札を作ってきたわ!」
「それは心強い!」
その時、地面に映る大きな影が素早く動き、それと同時に風が吹き上がる。
「「キャーー!!」」
――校舎1階のソフィ&夏鈴ペア――
「い、今何か聞こえなかったかしら……?」
「え? 聞こえなかったよソフィお姉ちゃん」
「か、夏鈴……もう少しゆっくり歩きましょう?」
ソフィは夏鈴にしがみついていた。
「もしかしてソフィお姉ちゃんも怖いの苦手なの? なんだかお兄ちゃんみたい」
「わ、私には怖いものなんてないわ……」
ソフィが慌てて夏鈴から手を離し進んで行くと、廊下の先に人魂が1つ、2つと次々に灯ったのである。
「「キャーー!!」」
――校舎2階のサーシャ&幸近ペア――
「おい、サーシャさんや……もう少しゆっくり……」
「みんなで肝試しなんて楽しいねぇ♪」
「なんでそんなにルンルンなんだ……」
「今藤堂くんの隣にいるのは幽霊みたいなものだよ? 今さら何を怖がるの?」
「お前は幽霊じゃなくて友達だ。くそっ、なんでこんな事に……」
「ねぇ藤堂くん、あの子誰だろ?」
そう言ってサーシャの指差した方を見ると、着物を着た少女がそこには立っていた。特筆して言うことがあるとすれば、その少女の額からは長いツノが生えていたということだろう。
「お、鬼……」
そう言って、俺は気を失った。
幸近達に気づいたその鬼の少女は、逃げようとしたが吸血鬼の力を解放したサーシャが『ブラッドバット』(血で作られた複数の蝙蝠を飛ばす技)を放つ。鬼の少女は振り返ると、輪郭よりも膨れ上がった大きな口を開け、その技を「バクンっ」と、一口で食べてしまった。
少女はまた逃げようとしたが、今度はサーシャの『影縛り』(影を縄のようにして相手を捕らえる技)によって動きを封じられ捕らえられた。
――校舎外、クリスタ&唯ペア――
動いた影を目で追うと、そこには黒い翼を生やし、袈裟に身を包んだ小学校高学年くらいの少年が、ふわふわと宙に浮いていたのだ。
クリスタは咄嗟に銃でその少年を撃ったが、それはヒラリと簡単に避けられた。避けた先へ、すぐさま唯の加速を伴った『一閃』が向けられる。
だがその少年は、常人ならば目では追えない速度の剣技を空中で避けると「ふぁあ……」と、退屈そうに欠伸をしたのだ。驚いた2人だったが、避けた先はクリスタの異能効果範囲だった。
幻惑にかけられた少年の動きは止まり、唯の『一閃』を額に受けた少年は気を失った。
――校舎1階、ソフィ&夏鈴ペア――
人魂を見たソフィは、腰を抜かして座り込んでしまった。
夏鈴は動けないソフィに代わって、その正体を確かめるべく人魂に走って近づいた。するとそれは恐ろしいナマハゲのような姿の化け物に変身したのだが、夏鈴は恐れずにそのままのスピードで化け物に飛び蹴りを食らわせたのだった。
「ふぎゃぁあ……」
そう声を上げた化け物が倒れると、その姿は狐の耳と尻尾が生えた、巫女装束の少女に変わっていた。
皆と連絡を取り合い校庭に集まると、捕らえた子供達をどうするか話し合いになった。
「まさか幽霊の正体が、こんな子供たちだったなんてね……」
クリスタは少し残念そうにしていた。
「見たところ、みんな先天異能の持ち主のようね」
ソフィが冷静に子供達を観察する。
「とにかく、警察に保護してもらうのが1番じゃないか?」
すると、今まで俺達しかいなかった筈のこの場所に、突如として1人の男が姿を現したのだ。
「やぁ、こんばんわ。僕の子達が迷惑をかけてしまって申し訳ない」
「お前は誰だ!? どこから現れた!」
「怪しいものではないよ。僕は『金土カレル』。異能警察内部で研究者をしているものだ」
そう言って名刺を差し出すと、男は続ける。
「驚かせてすまない、僕のラグラスは『迷彩』。自分がそこにいる事に気付かれず、どんな所にも紛れ込む事が出来る能力なんだ。ちなみに僕の周りにいる人間も任意で効果の対象にする事が出来る」
「って事は、あんたずっとそこにいたのか?」
「あぁ、様子を見させてもらっていたよ」
「この子達はあなたの子供なの?」
クリスタが問う。
「少し長い話になる。良かったらみんな座って聞いてくれるかな?」
カレルは地面に腰を下ろし、話を始めた――。
第1部13話 学校の怪談 完
《登場人物紹介》
名前:金土 カレル
髪型:飴色ベリーショート
瞳の色:黒
身長:168cm
体重:72kg
誕生日:3月8日
年齢:44歳
血液型:A型
好きな食べ物:すき焼き、お茶菓子
嫌いな食べ物:タコ、くらげ
ラグラス:迷彩
自分の存在を他者に認識させない
自身の周りであればその能力は指定した他者にも及ぶ