ある日の学校の帰り道、野太く甲高い声に呼び止められた。

「あらぁ、もしかして幸ちゃんじゃない?」
「……?」
「やっぱり幸ちゃんだわ!」
「ひ、久しぶりケンさん……」
「ちょっとぉ、何がケンさんよぉ! あたしのことはケンちゃんって呼んでって昔から言ってるじゃないの、やぁねぇ〜!」

 大きなサングラスをかけ、妙な話し方をするその人物は、広い歩幅で近寄ってくる。
「今暇? 暇でしょ? 暇ならお店きなさいよぉ、珈琲ご馳走するから」

 この人はケンちゃん。本名『南郷謙(なんごうけん)』、いわゆるオカマだ。
 なぜ俺がこのオカマと知り合いなのかと言うと、昔から家族ぐるみの付き合いといった感じなのである。
 お店というのはケンちゃんが経営している昼はカフェ、夜はバー形態のお店の事である。

 俺はカウンターに座り、ケンちゃんが淹れてくれた珈琲を頂いていた。
晴臣(はるおみ)さんは元気? 最近会ってるの?」
「親父は全然帰ってこないよ、夏鈴がかわいそうだ」
真鈴(ますず)が亡くなってから、晴臣さんなりに思うところがあるのよ……」
「一体どこで何をやっていることやら……」

ケンちゃんはサングラスを外し、目線を合わせ尋ねる。
「幸ちゃんも真鈴との約束……叶えられそうなの?」
「日々の訓練は欠かさずやってるよ」
「お友達はできた?」
「あぁ……面白い奴らがたくさん居て、いい刺激を貰えてる」
「それはなによりね……。そういえば聞いたわよ! 例の道場破りを捕まえたって」
「相変わらず、すごい情報網だな」
「オカマの情報網なめないでっ!」


「その事件を担当していたレナードって警部いたでしょ? あいつには気を付けなさい、奴の異能はかなり厄介な能力だから」
「どんな能力なんだ?」
「さすがに学生相手に能力を使ったとは思えないけど、あいつは『嘘』を見抜けるの。幸ちゃんのラグラスの秘密は隠し通しなさい?」
「分かっているよ……」
 ……
「それともう一つ、その道場破りは異能犯罪組織の一員だったのよ。組織名は『カタストロフ』。規模は数人程度の少人数組織なんだけど、そこのボスがまぁヤバい奴で元々はデニグレの幹部を務めていた男なの」
「……」
「半年前、異能警察官を殺害した脱獄犯の事件があったの覚えてるかしら?」
「なんとなく覚えてるような」
「名をレッド・ビスク。ラグラスは『人狼(ワーウルフ)』という強力な先天異能の持ち主よ」
(吸血鬼の次は狼男かよ……)

「もしかしたら……幸ちゃんに報復に来るかもしれないから気を付けてね」
「強いのか?」
「奴の実力はグレイシスト7に相当するとも言われているから、遭遇した時は必ず逃げなさい」
「肝に銘じておくよ」

 店を出ると同い年くらいの黒いスーツの男が話しかけてきた。
「君が藤堂君かな」
「お前は誰だ?」
「これは失礼した。僕は『四葉信久(よつばのぶひさ)』。どうぞよろしく」
「それでなんで俺の名前を知ってる? 俺に何の用だ」
「特段用があった訳ではないんだが、どんな人物なのか少し気になったものでね……。今日は挨拶だけでもしておこうかと思い声をかけたんだ」
「お前、どこかで会ったことあるか……?」
「いや初対面だよ。ではまた機会があれば……」
そう言って男は去っていった。不吉で不穏な雰囲気を纏った奴だと幸近は感じていた。


 ――薄暗い倉庫内。

 そこは犯罪組織カタストロフのアジトであった。襟足の長い白髪で巨体の男が椅子に座り骨付き肉を貪り食っている。
 そこへ先ほど幸近と会話していたスーツの男が現れた。

「お前は……もしかして若なのか?」
「久しぶりだねレッド」
「おう随分とでかくなったもんだ、こっちにきて一緒に飯を食おうじゃないか」
「生憎、先ほど夕食は済ませてしまってね」
「それは残念だ、良い肉を仕入れていたんだが……」
そう言って骨を投げ捨てると、そこには様々な動物の骨が溜まっており、その中には人骨らしきものも見られた。

「今日はひとつ、お知らせしたい事があって来たんだ」
「どんな内容だ?」
「君のところの気倉井と日鏡をやった学生のこと……知りたくないかい?」
「ほぅ……それは興味深いな……」
スーツの男は気味の悪い笑みを浮かべた。

第1部9話 オカマの情報屋 完

《登場人物紹介》
名前:南郷 謙
髪型:パステルカラーの水色でショートボブ(恐らくウィッグ)
瞳の色:ブラウン
身長:190cm
体重:59kg
誕生日:6月10日
年齢:42歳
血液型:O型
好きな食べ物:色気があってガタイの良い男
嫌いな食べ物:無口でクールぶってる男
ラグラス:情報処理(ハイスペック)
脳内の情報処理能力が高く、本であればパラパラと捲るだけでほぼ記憶することができる
状況に応じて瞬時に明確な解答をだせる