全身に汗をかく。紫外線を全身に浴びて、肌がじりじりと痛む。零れた汗が目に入って、思わず目をつぶる。くらくらする頭を押さえつけて、自転車を漕ぐ。

 あーもう、夏ってなんだよ。なにが楽しくてこんな暑い中自転車を漕がなきゃならないんだ。夏休みなんだから休ませろよ。

 内心悪態をついても、それを口に出すほどの余裕はなく、はあはあと切れる息は温い空気を吸って悲鳴を上げる。

 この暑さだから、急に熱中症になってもおかしくないんじゃないだろうか。水分はちゃんと摂っているけど。

 しかし、学校に着いたら、泳げる。シャワーを浴びれる。暑い中浴びるシャワーの心地よさは想像がつくし、暑さで揺らめく空気の中から冷たい水の中に飛び込む快感はペダルを押す。



「おはよう」

「おはようございます」

 先輩は筋肉がすごい。

 それはともかく、早く水に入りたいので、タオルを取り出し腰から下を覆って水着に着替える。

 上裸になってもプールサイドの蒸し暑さは汗を促し、外よりも暑いのではないかと錯覚する。

 しかし着替え終わるともう楽で、冷たいシャワーを浴びて、思ったより冷たいことに身体を震わせ、思ったよりも温いプールの目の前に立つ。

 ゴーグルをつけると、そこはもう自分の世界だった。

 あとは飛び込むだけ。

 水面は、抵抗なく俺の身体を受け止める。ぬるっと水中に潜る感覚と、前進しようと水を蹴る足が心地よい。

 浮上。

 すぐにストロークを始める。何年も共に戦ってきた我が腕は、今日も期待に応えて水をかく。

 ほぼ眼前に迫る壁に、頭を沈めて方向転換。

 プール一往復泳ぎぎったころには、夏の暑さなんてどこかに吹っ飛んでしまった。

「お前、水の中じゃ生き生きしてるな」

 俺が泳いでいるうちにプールに入っていた同級生が軽口をたたく。

「まあ、俺両生類だから」

「じゃあ沈めても大丈夫か」

 そう言って彼は俺の肩に手を載せ押し込む。本気で沈める気の彼に、俺は必死で両手両足を使って浮き上がる。

「おお、弱いな。全然浮けるぞ」

「おらっ」

 両手を載せて全体重をかけられるとさすがに沈む。

 ぶくぶくと泡を吹きながら底まで沈み、地面を蹴って一気に浮き上がる。

 こういう遊びも、今の内しかできないと思うと貴重な時間に思えてくるから不思議だ。

「それじゃあスイムやろっか」

 俺は爆散した。千何百メートルとかそんな長距離泳げません。



 まあ、最終的には抵抗の甲斐なく泳ぐことになるんだけど。

 泳いで泳いで、切れ切れの息に無理やり水筒の水を流し込む。次のメニューのことも考えると、ここで息を整えておかなければならない。

 深く息を吸って、吐く。

 プールサイドの赤台に身体を預ける。横になると、夏の暑さが際立つみたいだ。

 しばし寝転んだ末、立ち上がる。

 時計を見る。休憩が始まってから五分くらいだろうか。そろそろ練習も再開されるだろう。

「そろそろ練習再開しようか」

 言った傍から、先輩が呼んでいる。

 俺はプールのふちに足をかけ、思い切り夏の水に跳んだ。