のどを潤しつつ軽くおしゃべりをしてスタバを出た僕たちは――素敵な空間に長居をしたかったけど、時間が限られているので泣く泣く早めに切り上げた――神戸の観光地を次々とめぐっていく。

「モトコーは第二次大戦後の闇市が発祥らしいよ」
「うわー、歴史があるんだね」
「だからこんなに雑多で狭いんですね」
「すれ違うのも大変だもんな」

 元町高架下――通称「モトコー」と呼ばれる、JRの線路が走る高架の下に作られた細長い商店街を、軽くウインドウショッピングして。


「アキトくんアキトくん。ここの豚まん、ちょっと前にテレビでやってたよ。お店の名前覚えてるもん。食べてみない?」

「へぇ、そうなんだ。せっかく神戸に来たんだし、テレビに出るくらい有名な豚まんってのを食べてみよっか」

「お昼も近くなって、小腹も好いてきましたしね」

「俺は小腹どころか、かなり腹が減ってるぞ。ってわけで、いろいろ買い食いしたい。もうさっきからいい匂いがあちこちからしててさ。腹がやばいんだ」

 南京町(いわゆる中華街)では、名物の豚まんを食べ歩いた。

(高瀬だけは豚まん以外にも、中華そばやシュウマイなどアレコレたくさん買って食べていた。観光客向けに食べ歩きできるように売られているみたいだ)


 南京町からさらに海側へと南進し、メリケンパークと呼ばれる海岸沿いの開けたエリアに到着する。


「海からいい風吹いてる~!」
「吹いてるねぇ。これぞ港町って感じだね」

 嬉しそうに両手を広げてタイタニックのポーズをとるひまりちゃんを、僕はスマホでパシャリとする。

「えへへ、可愛く撮れてる?」
「いい感じに撮れてるよ」

 透きとおった青空と海をバックにしたひまりちゃんは、本人がアイドル顔負けなのもあって、まるでCMの1カットのようだ。

「逆に、神戸ってかなり海の近くまで来ないと、意外と海って見えないですよね?」

「それ俺も思った。高速道路が邪魔しててぜんぜん海が見えないんだよな」

 実際に神戸に来てみないと分からない意外な発見をしつつ、僕たちは爽やかに吹き抜ける初夏の海風をいっぱいに浴びた。

 あー、気持ちいい!
 僕もついつい両手を上げてタイタニックをしてしまった。

 旅先ってついつい開放的になっちゃうよね。


 さらには「BE KOBE」と書かれた巨大なプレートや、鉄筋でできた巨大な鯛のモニュメント(すごく有名な建築家の無名時代の作品らしい)、 帆船の帆と波をイメージした真っ白なパビリオンのような神戸海洋博物館の前などで、記念撮影をする。

 そしてここにもあった震災遺構の「破壊された船着き場」を見て、心に焼き付けて。

 リニューアルしたばかりのポートタワー(神戸の象徴だそうだ)の展望台から、神戸の街や海を一望したりもした。

 さらにハーバーランドと呼ばれる隣接した臨海商業区域をぶらつきながら、その中でも「モザイク」と呼ばれるエリアに僕たちはやってきた。


「すっごーい! これ、ネットで見たアングルだし!」

「ここはストリートビューで何度もチェックしたんだ。神戸で一番映えるスポットの一つだと思うよ」

 ポートタワーと先ほどの真っ白な博物館が、手前に海、奥に山というロケーションで1つのフレームに収まる神アングル。
 それがここモザイクだ。

 神戸に来るにあたって、この場所と、ここへくる方法は、入念に事前チェックをしていた。

「ここもう絶対、みんなで記念写真撮らないとだよね! えへー、あとでクラスの子に自慢しようっと」

「ここからの景色は、まさにイメージ通りの神戸です。まるで写真の中みたい……」

 雪希がその景色に思わずと言ったように見とれ、

「うぉ、すっげー! マジすっげー! これも神崎兄が調べてくれなかったら、俺たちだけじゃ見れなかったんだよな。マジありがとな!」

 高瀬は興奮気味に僕の背中をバシバシと叩いてきた。

「地味に痛いんだけど……」
「わりぃ、つい興奮しちゃってさ。へへっ」


 そんな感じで。
 その後も僕とひまりちゃんと雪希と高瀬は、神戸の街をこれでもかと満喫したのだった。