スタバにつくと店内は既にお客さんでいっぱいだったものの、タイミングよく4人組がお店を出ていくところで、入れ替わるように僕らは席につくことができた。

 四人掛けのボックス席に僕と高瀬、ひまりちゃんと雪希が、それぞれ隣り合わせで座る。

「ナイスタイミング♪ やったね、座れちゃった♪」
 会心の笑みを浮かべるひまりちゃんが、早速メニューを開く。

「ひまりさん、ちょうど新作のフラペチーノが出てますよ」
 雪希が横から覗き込みながら、メニューの一部を指差す。

「あ、ほんとだ。じゃあわたし、これでー」
「私もこれにします」

 ひまりちゃんと雪希が揃って新作フラペチーノを頼み、僕と高瀬は定番のコーヒーフラペチーノを頼んだ。
 すぐに4つのフラペチーノが運ばれてくる。

「それにしても綺麗なお店だよね。まるで海外映画の登場人物にでもなったみたいだ」

 フラペチーノをチューチューしながら、僕はついキョロキョロと店内を見まわしてしまう。
 店内は全国チェーンの飲食店とは思えないほどにオシャレな内装で、異国情緒がそこかしこに漂っていて、喉を潤すフラペチーノも心なしか優雅に流れていくように感じられた。
 
「ほんとだよね。日本じゃないみたい――って、異人館に来てから、もう何回も同じこと言ってるけど。あははー」

 ひまりちゃんがフラペチーノ片手に楽しそうに笑い、

「いいところですね、神戸って」
 雪希はしみじみとした口調で呟いた。

 と、そこで。

「ねぇねぇ、アキトくん。コーヒーフラペチーノ、一口ちょうだい?。わたしのもあげるから」
 ひまりちゃんが一口交換を申し出てきた。

「いいよ」
 断る理由は特にないので即答する。

「わーい♪」

 ひまりちゃんは僕のコーヒーフラペチーノを受け取ると、さっそくストローでチューっとした。
 僕もひまりちゃんの新作フラペチーノを一口、ストローでチューッとする。

「うん、美味しい。さすがスタバ。スタバの新作に外れなしだね」
「定番のコーヒーフラペチーノも美味しいよー」

 と、僕らはお互いに感想を言い合っていたのだが。

「あの……えっと……」
「お、おまえら……」

 雪希と高瀬がびっくりしたような顔で僕らを見ていることに気が付いた。

「2人とも変な顔をしてるけど、どうしたの? なにか気になることでもあった? そりゃちょっとお行儀が悪かったかもだけど、味見くらい普通でしょ?」

 どうして2人が驚いた顔をしているのか、さっぱりわからないんだけど。

「だって今のか、か、か……」
 雪希が何ごとか言おうとして、もにょもにょと口ごもったまま、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「かかか……? 暗号?」
 首をかしげる僕。

「だから今の間接キスだろ」
 縮こまってしまった雪希の代わりに高瀬が説明してくれた。

「ああ、そういうこと」

「そういうことって――」

「僕とひまりちゃんは兄妹だから、それくらいはすることもあるよ」
「だよねー」

 僕とひまりちゃんは、うんうんと頷き合う。

「ですが兄妹と言っても、義理なんですよね?」
「まぁ、それはそうだけどさ」

「え、お前ら義理なの?」

「あれ? 高瀬には言ってなかったっけ? 実はそうなんだ。別に隠してるわけじゃないんだけど、積極的には言ってないんだ」

「でも義理だともっとマズくないか? だってたしか義理の兄妹って結婚できるわけだろ? それが間接キスって――」

「逆だよー。実兄妹だとちょっとまずいかもだけど、義理の兄妹なら結婚もできるんだし、間接キスくらい普通ってこと」

 ひまりちゃんがにへらーと言うと、

「ん? まぁ? 言われてみれば、そうなのか……?」
 高瀬は首を傾げながら、一応は納得してくれたみたいだった。

 ちなみに今のは完全な論点ずらしである。

 高瀬が疑問に思ったのは、「結婚できる2人が、付き合ってもいないのに、間接とはいえキスするのはまずくないか?」ということだったんだけど。

 ひまりちゃんは「結婚できる2人なんだから、間接キスしても問題ないよね」と答えている。

 ちゃんと質問に答えているようで、実は全く答えていないのだ。

 さすがひまりちゃん。
 にこやかな笑顔の下で、これでもかと冴え渡る論破芸だった。

 ちなみに雪希はというと、なんともしょんぼりと肩を落としていた。

 どうしたんだろう?

 少し疲れてるのかな?
 なにせ異人館に来る時に、かなり急な坂を上ってきたから。

 女の子には地味にしんどかったのかもしれない。
 そういう意味では、スタバで座れたのは大きかったかな。