小さく質素な社の前で、僕たち4人は手を合わせて願掛けをした。

(ちゃんと勉強するので、この先も高校の勉強についていけますように)

 菅原道真は学問の神様なので、今の僕の勉強面での素直な想いをお願いする。
 中間テストはいい感じでクリアできたけど、この先どんどんと学習難易度が上がっていくはず。

 神頼みでもひまり先生でも何でも、頼れるものがあれば頼りたい。

「アキトくんは何をお願いしたの?」

 目を開けて手を下ろすと、すぐにひまりちゃんが尋ねてきた。

「高校の勉強についていけますようにって」
「ふつう~」

「願掛けなんてこんなもんでしょ? そう言うひまりちゃんは、何をお願いしたの?」

「わたしはアキトくんとずっと一緒にいられますようにって、お願いしたよー」
 ひまりちゃんが、にへらーといつものように可愛く笑う。

「僕たちは兄妹だからそもそもずっと一緒だし、菅原道真は学問の神様だよね?」
「そうだねー」

 ついツッコんじゃったけど、ひまりちゃんはにへらーと笑って聞き流す。

「今どきは願いごとも多様性の時代なのかもしれませんね」

「そうそう、雪希ちゃんわかってるぅー。神さまだって長いこと祭られてたら、得意分野が変わったり、広がったりしてそうだよねー」

「な、なるほど?」
 納得できたような、できなかったような。

「ちなみに高瀬は何を――」
「全・国・制・覇ッ!」

 高瀬が親指をグッと立てて、自信満々に言った。

「あはは、高瀬はそうだよね」

 僕は小さく苦笑する。

 何で、とは聞かなくても分かる。
 バスケしかない。

 インターハイなり、ウインターカップなりで優勝ってことだよね。
 うちの高校はまぁまぁバスケ部が強いみたいだし、バスケに情熱を捧げる高瀬なら本当に成し遂げてしまうのかもしれない。

 これまた学問の神様には関係ないんだけれど。

「じゃあ最後に、雪希は何をお願いしたの?」

 ここまできて雪希に聞かない選択肢はないので、話題を広げる。

 すると雪希はなぜかハッとしたように目を見開くと、胸の前でわたわたと両手を左右に振った。

「な、内緒です!」
 さらには妙に強く言われてしまったので、

「そ、そう」
 僕は勢いに飲まれるように、こくこくと頷いた。

「じー……」
「な、なんですかひまりさん?」

「べーつにー?」
「決してやましいことはお願いはしていません……よ?」

「わたし何にも言ってないしー」
「そ、そうですか……」

「内緒ねー。ふーん」
「こ、こほん……」

 ひまりちゃんに見つめられた雪希が、そそくさと視線を逸らした。

 なにこれ?
 今のはどういうやり取り?

 2人のやり取りがイマイチよくわからなかったんだけど。

 ともあれ。

「それじゃあ願掛けも終わったし、次に行こうか」
「さんせー!」

 僕たちは生田神社での参拝を無事に終えて、次なる目的地へと向かうことにした。