「これもう絶対みんな、遠足のしおりを見てるよね。やったじゃん、アキトくん。効果は抜群だったねー」

「それだけ暁斗くんの用意したお勧めルートが、素晴らしかったということですね」

 遠足のしおり効果で、大勢の生徒で溢れかえった境内を見たひまりちゃんが、にへらーと嬉しそうに笑い、雪希もなんとも嬉しそうに微笑んでいる。

「全員が全員、同じ行動してるのは、自由行動的にはどうなんだろうと、ちょっと思わなくもないんだけど。それはそれとして、こうやって実際に意義を感じられるのは、すごく嬉しいな」

「わたしもー。作った甲斐があったよね」
「私も同感です」

「くー! そんな面白いことしてたんなら、教えれくれよな? 俺も遠足のしおり作りに混ぜて欲しかったぜ! 次からは俺にも声をかけてくれよな?」

 ここまで僕たちの話を興味深そうに聞いていた高瀬が、なんとも悔しそうに言ってくる。

「そんなこと言って、高瀬はバスケ部で忙しいでしょ? 1年生レギュラーなんだから。朝練も毎日あるって聞いてるし」

「うぐっ、それはまぁ、そうだな……。俺は学業以外は、バスケを優先せざるを得ない……」

「でしょ? それに高瀬だって、昼休みに製本を手伝ってくれたしね。アレはすごく助かったんだから」

 午後のホームルームでの配布に間に合わせるため、猫の手も借りたいほど忙しかった月曜日の昼休みに、スポーツマンらしくキビキビと働く高瀬という強力助っ人がいてくれたのは、本当に助かった。

「そ、そっか。そう言ってもらえると嬉しいぜ。で、どうするんだ? みんなが一斉に来たせいで、参拝するにはちょっと時間がかかりそうだぞ? 参拝は諦めて次に行くか?」

 持ち前の背の高さを生かして、込み合う境内の先を見ながら高瀬が言う。

「この展開はちょっと想定外だったかな」
 自由行動なのに、まさか学年全体が同じ行動をとるなんて、さすがに思わないじゃん?

「まぁ? お参りしなくても、生田神社に来ただけで目的は一応は果たせてはいるかも? 次、行っちゃう?」

「でしたら本殿ではなく、隣にある小さな(やしろ)に参拝しませんか?」

 と、そこで雪希がそんな提案をしてきた。

「隣の社? そこには何かあるの?」
「えっと、自由行動でここに来ることになったので、事前に調べたんですけど――」

「さすが雪希ちゃん、抜かりなし。やるぅ!」
「それでそれで?」

「本殿の隣の小さな社に、なんとあの菅原道真(すがわらのみちざね)が分祀されているそうなんです」

「菅原道真って『学問の神様』の? 九州の太宰府天満宮に祭られている人だよね?」
「わわっ、それすっごーい!」

「誰も道真公の小社には行っていませんし、学問の神様にお参りするのは私たち学生にはうってつけだと思いませんか?」

「異議なーし!」
「僕も賛成だ」
「決まりだな、行こうぜ!」

 僕たちは雪希の提案に従って、本田の隣にある小さな社に参拝することにした。

「わーお、本当にちっちゃいねー」
「僕も、思ってたよりも小ぢんまりとしてる気がしたかも」
「一応狛犬もあるけど、あの有名な菅原道真が祭られているにしては質素だよな」

 菅原道真が祭られている社は本当に小さな社で、装飾とかもほとんどなくて木の色そのままで真っ茶色。

 生田神社の本殿がとても綺麗で大きいのもあって、全然目立たっていなかった。
 よく見ないと、ここに社があることにすら気付かないレベルだ。

「ですがここに学問の神様が祭られているというだけで、それが逆に穴場スポットのように見えてきませんか?」

「雪希ちゃん、いいこと言うしー」
「うん、見えて来た」
「むしろ厳かに感じるまであるな」

 ちょっとした気の持ちようでこうも見方が変わるんだから、人間の気持ちって不思議だよね。