「その話ぶりだと、ひまりちゃん。もしかしてあの時の会話を、雪希に話しちゃったの?」

「うん。手伝ってもらうんだから当然、話すでしょ? 仲間外れはよくないよねー」

「家族以外の人にあの会話を知られるのは、さすがにちょっと恥ずかしいんだけど……」

 少し頭がボーっとしていたせいもあったのだろう、かなり自分語りをしちゃってた記憶が、なくもない。

「そんなことないって、ねー、雪希ちゃん」

「はい! こうしたらきっとみんなが喜ぶだろう、って思ったことを実際に行動に移してみる。自己満足という言葉が、こんな素敵な響きを持っているんだなって、すごく感動しましたから!」

 胸の前で、グッと両手を握って力説してくれる雪希。
 恥ずかしさはあったものの、こうやって賛同してもらえるのは、それを帳消しにしてくれるくらいに嬉しかった。

「あはは、ありがとう。でもそうだよね。手伝ってもらうなら、経緯は話しておくべきだよね」

 おおいに納得した僕は、うんうんと頷いた。

「それでアキトくんはなんで起きたの? 遠足のしおりの製作状況が気になったとか?」

「や、単純にお腹がものすごく減ってさ。空腹で目が覚めたんだ。昨日の夜におかゆを食べた後は、何も食べてなかったし」

 僕の言葉を補足しようとでもするかのように、またもやグ~~!と盛大に腹の虫が鳴った。

「あはは、すっごいお腹の音~! マンガみた~い!」
「これは相当お腹が減っていると見ました。早く何か食べないとです」

「そうなんだよ。もう本当にぺこぺこでさ。今にもお腹と背中がくっついちゃいそうなんだ」

「食欲があるのはいいことだよねー。昨日とか、最低限の栄養を取らないとって、なんとか無理やり口の中におかゆを押し込んだ、って感じだったもん」

「食べてエネルギーを取らないと、回復するものも回復しませんからね」

「だね。ちなみに、今って何か食べる物ってあるかな?」

「アキトくんは何か食べたいものはある? おかゆならすぐ作れるけど、でもおかゆばっかりだと飽きるよね?」

「ぶっちゃけ今なら何でも美味しく食べられそうではあるけどね。でも昨日からおかゆしか食べてないから、できればちょっと違うものの方がいいかな」

「でしたら、おうどんとかどうでしょうか? おうどんなら食べやすくて、消化にもよくて、小松菜やほうれん草みたいな葉物や、玉子を入れて栄養価をあげたりするのも簡単ですし」

「雪希ちゃん、それナイスアイディア! アキトくん、うどんはどう?」

「すっごく食べたい。なんかもう想像しただけで、お腹減りすぎてお腹が痛くなってきちゃったし」

「ふふっ、その調子なら、2人前くらいは食べられそうだね」
「ひまりさん。病み上がりの人に、おうどん2人前はさすがに無理ではないでしょうか?」

「いや、多分食べられると思う。本当にマジでお腹が減ってるから。ってわけで2人前、作ってもらえるかな?」

「思ったとーり!」
 ひまりちゃんが笑顔で親指を立て、

「男の子ってすごいんですね」
 雪希は感心したように目をわずかに大きくした。

「じゃ、ちょっと待っててね。すぐに作って持ってくるから。行こっ、雪希ちゃん。アキトくんのうどん、一緒に作ろっ♪」

「は、はい! 一緒に暁斗くんのおうどんを作りましょう!」

 僕が元気になったことですっかりいつもの笑顔になったひまりちゃんと、妙に言葉に力感のあった雪希が、連れ立って部屋を出ていった。