「もう、冗談だってばー。ねー、雪希ちゃん」
「そうですよ、暁斗くん」
「ねー♪」
「ねー♪」

 ひまりちゃんがマジ顔から一転、にこやかな笑顔に戻る。
 人のいい雪希はそれを微塵も疑っていないようだった。

 だけど兄として、ひまりちゃんを長らく見てきた僕の経験から来る直感は、今のは半分以上マジだったと告げていた。
 いや8割くらいかもしれない。

 まぁ、それはそれとして。
 僕、ひまりちゃん、雪希、高瀬。
 校外学習の4人のメンバーはすぐに決まった。

 なので班決めタイムが終わるまで、僕らはだらだらと適当に話をする。

「神戸に行くんだっけ? なんで神戸なんだ?」
 高瀬が一番疑問に思うであろうことを聞いてきた。

「その辺りはまた後で、みんなに説明しようと思ってたんだけど。前の前の前くらいの校長が神戸で大きな震災にあったらしくて、その記憶を僕たち世代にも伝えたいって始めたらしいよ。それが今も続いてるんだってさ」

 僕も実はよくは知らないんだけど、僕たちが生まれるだいぶ前に、阪神大震災と呼ばれる巨大地震があったらしい。

「えー、ってことは本当に郊外『学習』なのかよ。いや、後世に伝えることが大事なことは分かるんだが……」

 根が正直な高瀬が、正直に渋い顔をする。

「名目はそうだけど、実際は神戸の街を自由行動でいろいろ見て回るだけらしいから、そこは安心して。修学旅行とかと同じだね」

 修学旅行という名前だけど、別に学問を修めにいくわけではなく、楽しい旅行であることがほとんどであるように、この校外学習も割と楽しめのイベントらしい。

「おおっ! そうなのか!」

 僕の説明を聞いて、すぐさま喜びの顔を見せる高瀬。
 表情豊かで見ていて飽きないなぁ。

 バスケは上手いし、背は高いし、外見もいい高瀬は絶対モテるだろうに、高瀬本人はバスケにしか興味がないのが、多感な男子高校生としてはもったいない気がしないでもない。

「復興した神戸の街を見て楽しむことも、大切な学習なんだってさ。1日、班ごとに自由行動できるみたいだよ」
「その昔の校長ってのは、すげー話の分かる奴だな!」

「ま、校外学習を楽しむためにも、まずは中間テストを乗り切らないとだけどね」

 中間テストがあって、その後すぐに校外学習という日程だ。
 まずはテストを乗り切らなければ、とても楽しく自由行動なんて気分にはなれないだろう。

「言うて入学して最初のテストだし、なんとかなるだろ?」

「自信があるみたいだけど、高瀬は勉強得意なんだ?」

「バスケ部の方針で、赤点取ったら追試で合格するまで部活禁止なんだよな。だから赤点だけは取らないようにそこそこやってる感じだ。先輩もいろいろ面倒見てくれるし」

「そこはやっぱりバスケ基準なんだね」
「もちろん!」

 言い切った高瀬は実に爽やかでカッコよかった。

 こりゃモテるな。
 男の僕でも分かる。

「アキトくんは、あんまりテストの自信がないの?」

 高瀬との話の切れ目に、ここまで僕と高瀬の話を静かに聞いていたひまりちゃんが話に入ってくる。

「ある、とは言い切れないかなぁ。一応毎日、予習復習はしているけど、どの教科も中学と比べてかなり難しくなってるからさ。やっぱり不安の方が大きいよ」

「ふーん。そっかぁ」
 ひまりちゃんがなにやらフンフンと頷き、

「なーに、神崎兄ならなんとかなるさ!」
 高瀬は謎の信頼感を寄せてくれていた。

 ちなみに雪希はほとんど話したことがない高瀬がいるからか、まだちょっと打ち解けきれていないみたいな感じで、かなり口数が少なめだった。

 そんな話をしている間に、班決めもいい感じに終わったようで、僕は司会へと戻る。

 最後にさっき高瀬に説明したより詳しい内容をもう一度皆に説明して、僕はお役御免となったのだった。