今年も大忙しだったゴールデンウィークも開けて、通常授業が再開する。

 学生としての日常が戻ってきたとある日、久しぶりのロングホームルームがあって、クラス委員の僕はその日も当然のように司会を務めていた。

「えー、まず最初に一言。半月後に中間テストがあるので、皆さんテスト勉強を頑張りましょう。正直、僕がこれを言っても誰の心に響かないと思うんですが、まあそれはそれとして」

 いやほんと、マジで誰の心にも響かないと思うんだ。
 強いて言うなら、僕への信頼度がフルゲージなひまりちゃんくらいだろうか?

 だってそうだろ?

 親や先生からならまだしも、クラス委員から「もう少ししたらテストがあるよ」って話をされて、いったい誰がテスト勉強をやる気になるって言うんだい?
 僕だってそんな気にはならないよ。

 実際、クラスメイト達からも「テストだりぃー」なんて声は聞こえてきても、「よーし、頑張ってテスト勉強をするぞ~!」なんて前向きな声は一つも聞こえてこない。

 なのになぜこんなことを言ったかというと、単純に担任の鈴木先生に言ってくれと指示をされたからだ。
 効果云々は置いておいて言うだけならタダだし、先生に言われたことをしないわけにもいかない。

 そもそも先生すら効果があるなんて思っちゃいないだろう。
 これはいわゆる様式美というやつだ。

 僕は内心でセルフツッコミをしつつ、話を続ける。

「前置きはこれくらいにして、本題に入ります。テストのすぐ後に、日帰りの校外学習があります。行き先は神戸で、班ごとに分かれてグループワークを行いますが、今日はその班決めをしたいと思います」

「神戸いいじゃん。海と山に挟まれた綺麗なとこなんだろ?」
「異人館とか中華街とかあるんだよな」
「楽しそうー」
「でもグループワークとか言ってるよ?」

 遠足系のイベントと聞いて、クラスメイト達が興味深そうに周囲と小声でやりとりをし始める。
 テストの話をした時とは、興味の度合いがえらい違いだ。

「班分けは男女2人ずつ、合計4人一組の班を決めます。特にどうこうはないので、今から好きに集まってください。時間は10分から15分くらいを目安で」

 僕が告げると、瞬く間に教室がにぎやかになった。
 仲のいいグループが集まったり、物静かな2人が導かれるようにペアを作ったり。
 教室は一気に社交場へと変貌する。
 
 すぐに、

「神崎兄、一緒に組もうぜー」
 高瀬が手を上げてにこやかに笑いながら、教壇にいる僕の所へと近づいてきた。

 高瀬はゴールデンウィーク中に行われたバスケの新人戦で、チームを学校初の準優勝に導く大活躍を見せて優秀選手賞を獲得し、入学してわずか1か月でバスケ部のレギュラーを獲ってしまった――どころか、今やエース候補にまで上り詰めつつあるゴールデンルーキーだ。

 そんな高瀬に、1年生親睦バスケットボール大会以降、僕は気に入られたようで、なにかと話しかけられることが多かった。

「OK。じゃあ僕らで男子ペアってことで」
 僕も軽く手を上げながら答える。

 そこへ雪希を連れたひまりちゃんがやってきた。

「アキトくん、もちろん一緒の班で回るよねー。兄妹なんだし」
「校外学習に、兄妹は関係ないでしょ?」
「あります」
「そ、そう……?」

 そこまではっきりと断言されたら、まぁそうなのかも……?

「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」
「ああうん、よろしくね雪希」

 ひまりちゃんに続いて、雪希が折り目正しく礼をしてきたので、僕も礼をして返す。

「あはは、雪希ちゃん。それじゃ結婚するみたいだしー。言い方、変えよ?」
「ひまりちゃん、顔が怖いよ。スマイルスマイル」